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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
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第21話

夢を見た気がする。

けれど内容は思い出せなくて、ぼんやりとしていて。悲しかったのは覚えているが、他は何も思い出せない。


身体を起こして時計を見ると針は夜中の一時を指していた。


(身体も軽くなったし…何か食べたいな)


「というか…誰が運んでくれたんだろう…長月君かな」


礼を言う為にもとりあえず部屋を出よう。と軽く身嗜みを整えてダイニングへ向かう。


まだ屋敷内の明かりは着いていて、使用人の人達もまだ忙しそうにしていた。


ダイニングに着くと、メイド服を来た女性と目が合った。艶やかな金髪を清楚にまとめ、目元にある泣きぼくろが特徴だった。


「初めまして、陽羽様。使用人総括兼メイド長の霜月舞夜と申します。」


美しいお辞儀に見惚れていると、舞夜が厨房へと向かう。


「今軽食をお持ちしますね。お掛けになってて下さい」


「は、はい…」


いつも座っている椅子に座り、水を飲む。喉がひんやりとして気持ちよかった。

と、 陽羽の隣に誰かがやって来た。顔を上げると、欠伸をしながら椅子に腰を下ろす蓮と目が合った。


「皐月さん…こんな夜遅くにどうしたんですか?」


「勉強。もうすぐテストだし。敬語じゃなくていッスよ」


蓮も水を一気に飲み干し、首を回した。長時間勉強していたのか、ボキボキ、と重い音が聞こえてくる。


「お疲れ様…」


「あざっす。師走先輩は大丈夫っスか?」


「うん。もう大丈夫だと思う」


「長月先輩が心配そうにしてたっス。廊下早足で歩いて」


「………そう」


申し訳ない気持ちでいっぱいになり、自然と声が小さくなってしまう。


「先輩があそこまで感情を露わにするのって珍しいッス。師走先輩、大切に思われてるんスね」


「えぇ…!?」


蓮は頷いて、運ばれてきたサンドイッチを口に放り込んだ。気付くと陽羽の前には湯気のたったうどんが置かれていた。


「長月先輩。ちょっと訳ありで感情の起伏が乏しいらしいッス。なので新鮮で面白かったっス」


(たしかに…ずっとポーカーフェイスなイメージだけど…)


幸雄が大口を開けて笑っている所や、鬼の形相で怒っている姿も想像がつかない。精々、目や口を動かすだけだろう。


あっという間にサンドイッチを完食した蓮は、水をもう一杯飲んで立ち上がった。


「長月先輩ならまだ起きてるはずっス。夜中に男の部屋へ行くのは勧められないけど。それ食べたら行くといいっス。一応、信用には値する人っスから」


「あ、うん…。ありがとう」


蓮は一礼してダイニングを去った。あの様子からするとあと少し勉強するらしい。


「…いただきます」


冷めない内に食べようと手を合わせてうどんを啜る。


「ほっ…あったかい…」


(まるで………。………)


目元がじんわりと熱くなる。制服の袖で目元を抑え、食事を再開した。


食事を終えると急いで食器を片し(正確には運ぼうとしたら舞夜が片付けてくれた)、幸雄の部屋の前に立った。ノックしようとして一瞬留まる。


(…大丈夫…かな)


蓮の言っていた事を信じよう、と思い切ってノックする。すぐに扉が開かれた。


「!陽羽、もういいのか?」


「うん。今ご飯も食べてきたの。お礼が言いたくて…」


幸雄は扉を開けて、中へ入るよう促した。恐る恐る部屋へ入ると、陽羽の部屋と内装はほぼ同じであった。


部屋から紅茶の匂いがする。どうやら飲んでいたらしい。


部屋のソファーに座り、改めて幸雄に向き直る。


「部屋まで運んでくれたの…長月君だよね?ありがとう」


「いや。元気そうになって良かった」


それで、と陽羽は声を絞り出すようにして胸の内で引っかかっていた事を聞いた。


「何か…私に言いたい事があるの…?」


「………」


幸雄は少し悩んで、陽羽の目を見つめた。


「…大丈夫か?」


「?体調ならもう…」


「それもだが。その…精神的にというか…」


「………」


「両親が亡くなって、家を追い出されて、戦いに巻き込まれて…。大丈夫か?」


「だ、…大丈夫…だよ」


ぎこちない笑みで答えるが、声は震えていた。眉根に力を入れて、制服のスカートの裾を握りしめた。


「…本当か?」


こんなにも分かりやすいはずなのに、幸雄は念を押すように聞いてくる。分かって聞いているのか、本当に分からなくて聞いているのか。


言葉をなくし、陽羽は唇を噤んだ。


「陽羽、辛くはないか?」


「………」


「………」


無言で俯く陽羽を、幸雄は優しく抱き寄せた。

突然の出来事で、陽羽は目を見開いた。


「………!」


「…俺が陽羽の支えになるから。辛い時は俺を頼ればいい。陽羽が泣いても…誰にも言わない。約束する。俺が陽羽を守る」


張り詰めていた糸が切れたように、涙が次々と零れてくる。声を押し殺すが、幸雄には嗚咽が届いているだろう。縋り付くようにシャツを掴む。

幸雄は更に陽羽の身体を寄せ、小さな背をさすった。


「……辛いよ…」


両親が死んだ時も涙は流さなかった。一人になったんだから、しっかりして周りの人達を安心させてあげないと、と。


「……悲しいよ…」


家を追い出されるなんて思ってもみなかった。何も悪い事をしていないのに、叔母夫婦から邪魔者扱いされるなんて。


「…怖いよ…」


魔物と対峙し、危険な戦いに身を投じるなんて。漫画の世界だと思っていた事が、現実に陽羽の身に起こっている。


「どうして、私が……苦しいよ…!私…どうしたらいいの…っ…」


さっき見た夢もそうだ。あれは…間違いなく両親の夢だ。両親が生きていた頃の、平穏で幸せな毎日を送っていた懐かしい記憶。


「大丈夫だ」


泣きじゃくる陽羽の頭を撫でる。下を向いて涙を流している陽羽の顔を上げさせ、涙を親指で拭う。


「俺がいる。陽羽を一人にしない。傍にいる。死なせはしない。苦しいなら…」


一度言葉を止めて、陽羽を抱きしめる力を強めた。


「苦しいなら…全部俺に吐き出せばいい。全部受け止めるから…大丈夫だ…」


「長、月君…ぅっ、…」


幸雄の胸に顔を埋める。


陽羽の涙が止まるまで、嗚咽が止むまで、身体の震えが止まるまで、陽羽が安心するまで。


しっかりと抱き締めて離さなかった。


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