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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
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第18話


「つ、次は何処に…?」


「…陽羽の行きたい所に」


「わ、私の…?」


「言っただろう?今日は陽羽の行きたい所に行く。申請してないからここら辺しか歩けないが…」


殲滅隊隊長である幸雄は、空に外出許可証を提出しなければならない。申請には三日程かかるので、街より遠い所には行けないのだ。


申し訳なさそうに言う幸雄の手に更に力を込める。


「…ありがとう…嬉しい」


「…そうか。良かった」


「…じゃあ…文房具と雑貨屋さんに行きたいな」


本当に付き合っている男女のようだ、と思ったが先程のような気恥しさは不思議と消えていた。


「分かった」


エレベーターで上の階へ上がり、文房具屋でノートを買った後、同じ階にある雑貨屋に向かった。


「細かいのが好きなのか?」


机の上に何か飾ろうか、と小物コーナーを見ていた時に、ふと幸雄が聞いた。


「細かいの…というか、お花をモチーフにした小物が好きなの。ストラップとか…」


「…へぇ…。ん、カップもあるのか」


幸雄が棚に飾られていた、白いティーカップを手に取った。


「そういえば長月君、よくお紅茶飲んでるよね」


「…しゅ、趣味…なんだ」


恥ずかしそうに頬をかいて、顔を綻ばせた。見た事の無い表情に胸が高鳴る。


「お、女っぽい…よな?」


「ううん。素敵だと思う…私にはこれといった趣味はないから…羨ましい」


「…なら、これから作ればいい」


「……そうだね…!」


陽羽はハンカチと可愛らしい兎のメモを買った。


「他に行きたい所はあるか?」


「…特に…ないかな。長月君は?」


「じゃあ喫茶店で休憩しようか」


「うん」


以前、陽羽と幸雄が訪れたカフェとは違う店(幸雄の行きつけらしい)に足を運び、紅茶とケーキを二つずつ注文した。


「荷物持ってくれてありがとう。帰りはちゃんと持つから…」


「気にするな。男として当然だ」


「でも…私の荷物だし」


「いいんだ」


言いきられてしまって、それ以上は粘れなかった。


それぞれの前に紅茶が置かれ、陽羽の前にはチーズケーキ。幸雄の前にチョコレートケーキが置かれた。


「いただきます」


「いただきます…」


運ばれてきたチーズケーキを一口食べる。濃厚だが後味はさっぱりしていて、いちごのソースとも合っていた。


「ん!美味しい…!」


「………」


「チョコケーキはどう?美味しい?」


陽羽がそう聞くと、幸雄はフォークで一口分のチョコレートケーキを切り分け、陽羽の前に差し出した。


「食べてみるか?」


「…えっ…あ、の…」


「ほら」


口の前まで持ってこられ、仕方なくそれを食べた。幸い周りに人はいなかったため、人目を気にしなくて済んだ。


「お、美味しい…」


「…だろう?」


幸雄もケーキが好きなのだろう。柔らかな表情でケーキを口に運ぶ。


「…長月君、チーズケーキ食べる…?」


「あ、すまない…チーズケーキはあまり…」


申し訳なさそうに眉尻を下げる。


「そう。チョコケーキ、ありがとう…」


紅茶の香りをかいで一口飲んでみる。ほんのりとフルーティーな味がして、爽やかな味わいだった。


「お紅茶も美味しい…長月君が淹れてくれたのも好きだけど…こっちも好きだなぁ…」


「………また来よう…」


「…うん!」


陽羽は再びチーズケーキを食べ始める。幸雄はこっそりと陽羽を見て、目を細めるのだった。




帰りの荷物も幸雄が持ってくれたおかげで、疲れる事もなく屋敷まで戻ってくる事が出来た。

玄関に入る前で、幸雄は陽羽の袖を引っ張った。


「?どうしたの?」


「…今日は…ありがとう。楽しかった」


「私の方こそ、荷物も持ってくれて…ありがとう」


「それと…」


幸雄は陽羽の手をきゅっ、と握りしめる。


「!?あ、あの…!?」


そのまま軽く引き寄せられ、一気に距離が縮められる。


「陽羽、俺はお前に…」


「長月〜」


幸雄が何かを言いかけた瞬間、二人の横から聞き覚えのない声が聞こえてくる。


慌てて振り向くと、金髪を短く切りそろえたまつ毛の長い男性がにやにやと笑いながらそこに立っていた。


「何〜、お前も女遊びする年頃?」


「…そんなんじゃない」


「うっそだ〜。女の子の方、顔真っ赤にさせてたじゃん…これから何かするの?」


「別に何も」


「そんな雰囲気じゃなかったけどな〜?君も期待してるんだろ?」


耳元で囁かれるように言われ、顔が熱くなるのが分かる。


「ち、違っ…!」


「ははっ、自己紹介がまだだったね。神無月澪かんなづきみお。長月達が通う月下高校の養護教諭だよ。よろしくね?」


陽羽も自己紹介しようと口を開いた時、澪の後ろから低い声が響く。


「神無月先輩。荷物」


「あ、ごめんね〜皐月」


皐月、と呼ばれた高身長の青年は、茶色い髪を後ろで束ね、陽羽を見て礼儀正しく礼をした。


「あ、し、師走陽羽です!初めまして…!」


「っス。皐月蓮さつきれん。初めまして」


「俺の後輩だ」


幸雄の後輩、という事は陽羽より年下という事だ。そう聞くと少しだけ可愛げがあるように見えてきて不思議だ。


「ま、学校でもよろしくね?陽羽ちゃん」


語尾を弾ませながら笑って、澪は屋敷に入っていった。しばらく立ち尽くしていた蓮も陽羽達に頭を下げて澪の後を着いていく。


『君も期待してるんだろ?』


澪に言われた言葉が頭の中で響く。


(期待…してたのかな…?そんな風見えてた…?でもそれより…)


「………」


幸雄は何を言おうとしたのだろう。


ぐるぐると疑問が頭の中を巡る。不可解な気持ちを抱えたまま、残りの休日を過ごすのだった。


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