第17話
金曜日の放課後。
幸雄の見回りは学校が終わる四時頃から町内を周りる。学校から繁華街を歩き、屋敷へ戻る。
今日は陽羽にとって初めての見回りの同行でもある。
校門を出た後、幸雄にルートを教わりながら歩く。魔物が出るのは夜中辺りのため、幸雄の担当している時間帯の遭遇率はそんなに高くないらしい。
「あと、たまに他の奴と交代したりする。バイトのシフトみたいな感じだな」
「そうなんだ」
「街を一周して、異常がなければ屋敷に戻る。戦闘の際はなるべく人に見られないようにな。一般人には魔物も魔石も見えていないから不審者に見える」
「た、たしかに…」
一般人からしたら、武器を持って戦っている幸雄を見ても、一人で激しい動きをしてる怪しい人に見えてしまうだろう。
「今歩いてきたルートが俺の隊の担当地区だ」
「うん、ちゃんと覚えたよ」
「………」
幸雄はぽんぽん、と陽羽の頭を優しく撫でた。頬がほんのりと熱くなる。
「…!」
「大体二時間位で終わる。夕飯の事も考えると丁度いい時間だな」
「そ、そうだね…」
「帰ろう」
屋敷まで並んで歩き、他愛もない話を交わす。少し前までは話題も無く、静かに歩くだけだったが今は違う。その変化は陽羽自身嬉しいものだった。
「そうだ。明日、空いてるか?」
「明日…は大丈夫だよ。何か用事が?」
「えっと…親睦?を深めるために…買い物に行かないか?」
「…いいよ。分かった」
心を弾ませて返事をする。幸雄も安心したように頷いた。
(変じゃないかな…?)
凛子に服を借り、鏡の前で何度も首を傾げる。
凛子に借りた服は薄い青緑色のシャツに夏用のピンクのパーカー。脚のラインを美しく見せる白いパンツ、と普段なら陽羽が着ないようなカジュアルな服装だった。
「今日…長月君に言って服も見に行こうかな…」
急な引っ越しとなって、服は私服数着と動きやすい服(寝巻き)しか買っておらず、休日に少しオシャレして出かけるようの服は用意していなかったのだ。
(やっぱり最低限のオシャレはしておきたいしなぁ…)
異性と休日に出かける、といった事は陽羽にとって初めてだった。
少し緊張はするが、こうして鏡の前で悩む程には楽しみにもしていた。
「うーん…不安だなぁ…」
着替えてから何度目かの言葉を口にしていると、部屋のドアがノックされる。幸雄が迎えに来たのだろう。
「あ、今行くね」
財布と携帯を入れた鞄を持って、最後にもう一度鏡を見る。
(…きっと、大丈夫だよね…)
不安を抱えつつ扉を開ける。そこには紫のパーカーに黒いズボンを穿いた幸雄が立っていた。
相変わらず、黒い眼帯を付けているが、制服姿しか見た事なかったので新鮮に感じられた。
「………服…」
やはり違和感を覚えたのか。幸雄は驚いたようにぽつりと呟く。
「あ、凛子ちゃんに借りたの…。それで、出来たらお洋服見に行きたいなって…」
「今日はそのつもりだ。行くぞ」
陽羽の手を引いて街へ歩き出す。
休日という事もあって人も多く、幸雄は陽羽の手を握る力をぎゅっと強めた。
街の中心部にあるショッピングモールに入り、洋服店が立ち並ぶ階に移動する。
「女の子の服はよく分からないから…好きな所に入ってくれ。後ろから着いていく」
「う、うん…」
陽羽はいつも服を買っている『NATURAL』という店に入る。淡い色の無地の服が多いが、シンプルで清楚がコンセプトの店だ。
「あ、新作?可愛い…!」
店の入口に立てられているマネキンに目を留める。
白を基調とされた薄い布地に、水色の百合の花の刺繍。裾にはレースが施されていた。
(試着…してみようかな…)
チラッと幸雄を見てみる。視線に気づいた幸雄はあぁ、と頷いた。
「ゆっくりでいい。待ってる」
「あ、ありがとう…!」
近くにいた店員にワンピースを持ってきてもらい、試着室へ入る。
鏡の前でくるりと回ってみせる。ひらひらと揺れて、自然と笑みが零れる。
(やっぱり可愛いなぁ…買おうかな…)
外にいた店員さんに着合わせ方を聞いていると、ふと幸雄と視線が合った。
「あ…」
「……似合ってるぞ」
言われてぱっ、と頬を赤くする。
(お世辞かもしれないけど…嬉しい…)
似合ってる、と言われて舞い上がり、買う事にした。
その他にも何着か購入し、会計を済ませて幸雄の元へ駆け寄った。
「長くてごめんね?付き合ってくれてありがとう」
「いや、誘ったのは俺だ。次に行こう」
陽羽が持っていた袋を持ち、空いている手で陽羽の手を握る。
(道…混んでないのに…)
カップルと間違われるのでは、と考えてしまい恥ずかしさを覚える。それでも振りほどく気にはなれなかった。
陽羽もそっと、握られている手に力を込めた。




