第16話
(たった一回やっただけでスムーズに出来るなんて…)
宵は魔力を持つ家系だったため、幼少期から魔力を操る修行を積んできた。そのため、魔力を操る事がいかに大変かよく知っている。
(それなのに…)
あろう事か、陽羽は一発でやってのけた。宵自身としては少し妬む気持ちもあったが、それ以上に喜ばしかった。性質は透明で、魔力の操作は上々。
陽羽には才能がある。そう思うのに時間はかからなかった。
「離れても魔力は操れるわ。落ち着いて、魔力が繋がっていると思って」
「はい…!」
押し込めるイメージを想像し、自然と陽羽の目も細められる。すると、魔石が一層強く光り、白い何かが現れた。
「?」
「嘘…出来ちゃうの…!?」
宵は目と口を開いて驚きを露わにしたが、慌てて棚から魔石を取り出す。
「いい?そのままよ!」
そして今しがた取り出した魔石を陽羽目掛けて投げつけた。しかし、陽羽に当たる直前、カンッと音を立てて白いものに当たり、魔石は地面に落ちた。
「…凄いわ!陽羽ちゃん!」
宵は陽羽に駆け寄って手を握り、激しく上下に振る。
「わ、わっ…せ、成功したんですか…?」
「バッチリよ!すっごいわ!初めてでここまで出来るなんて!」
「そんな…宵さんのおかげですよ…」
宵は手を離し、落ちた魔石を二つ拾い上げた。
「それでも実行した陽羽ちゃんが凄いのよ。きっと、すぐに色んな事が出来るわ。
しばらくはこの練習をしましょう。目標は一秒以内に発動出来るようによ」
一秒、と短い時間の間に魔力を魔石に集める、魔石を目標の場所に投げる、魔法を発動させる、という三つの事をしなければならない。
しかし、実際には遅い方でもある。事実宵は一秒かからずに発動させる事が出来る。
「頑張りましょう」
「はい!」
屋敷のダイニングで幸雄は紅茶を飲んでいた。
陽羽が魔力操作の修行をすると予め聞いていたが、一言で言うと退屈であった。
休日とはいえ、各隊長見回りや仕事、勉強等で忙しくしている。見回りも無く、宿題も終えた幸雄にとって退屈極まりないのだった。
「長月」
ふと、声をかけられる。声の主はラフな服装に、長い茶髪を下の方で束ね、気だるそうなたれ目をしていた。
「宵知らね?」
「弥生さん…。夏木さんなら陽羽と地下訓練場にいる」
「あ〜…なんか…そんな事言ってたような…言ってなかったような…」
幸雄の隣の椅子に腰掛けながら、ぶつぶつと呟く。相変わらずだな、と心の片隅で思いながら新しいカップに紅茶を注ぐ。
弥生竜。幸雄より二歳上の大学生で、宵を添人に持つ異人だ。
「弥生さんも暇なのか?」
「暇っちゃ…暇。レポートとか知らない。存在しない」
竜は淹れられたばかりの紅茶を飲み、はぁ、と息を吐いた。
「夏木さんに怒られるぞ」
「…だな…。レポート提出三日前のアイツはドSだし。最近なんか俺のレポート提出期限まで把握されてる」
「溜め込むからだ」
暗い顔をする竜に対し、幸雄にとってはいつもの事なので呆れるだけだった。
「つか、長月にも出来たんだって?添人」
「あぁ」
「魔力操作ヘッタクソなくせに」
「ヘッタクソで悪かったな」
ヤケになって紅茶を一気に飲み干す。
「じゃあ、キスするんだ」
「………」
幸雄は返事をしなかったが、竜はそれを肯定と受け取った。
「へぇ…神無月が聞いたらからかいに来るだろうな」
「あいつが出張中で助かった」
「ふっ。いずれバレるから意味はないけどな」
竜は失笑を漏らして足を組んだ。
「…弥生さん」
「あー?」
「弥生さんにとって添人ってどんな存在だ?」
「何でそんな事聞くのさ」
幸雄は少し考えて首を振った。
「分からない」
「はぁ?…まぁ、いいや。…勿論、宵がいないと死ぬってのもあるけど…それ以前に可愛い彼女だな」
「あ、付き合ってるんだっけか」
竜と宵は付き合ってもう一年になるそう。二人の馴れ初め等は、幸雄には興味ないし聞くものでもないと思っている。
しかし、この二人が付き合っている事は、屋敷内の全員が知っている。
「まぁな。お前も付き合えば?」
冗談めかして言う竜を無視して、ティーセットを片し始めた。
「おい怒んなって」
「怒ってない。陽羽に迷惑がかかるだろう」
「………はっ、そうかよ」
おかしくなって一笑した竜に一礼して、幸雄はダイニングを後にした。




