第12話
数日後、陽羽は真新しい制服に着替え、玄関へ向かった。鏡で確認もしたし、髪も整えた。準備万端である。
玄関ホールの扉の前で、幸雄と凛子が立っていた。陽羽は小走りで二人の元へ急ぐ。
「お待たせ」
「大丈夫大丈夫!じゃ、行こっか!」
幸雄、凛子と合流し屋敷を出る。
陽羽は今日から幸雄達の通う学校へ転校する事になったのだ。以前の制服はセーラー型だったので、黒を基調とされたブレザーが新鮮だった。
しかし、今の季節は梅雨真っ只中なので、当然ブレザーを着用することはなく、二年生である事を証明する紫色のリボンと、薄い紫色の夏スカートを着用している。
幸雄と凛子は半袖のシャツだが、陽羽はあまり肌を露出したくないという理由で、長袖のシャツだった。
凛子が先頭に歩き、陽羽は道を覚えるべく周りの景色を目に焼き付けた。
館から十分程歩いた所に学校はあった。
(月下高等学校…)
校門に刻まれている校名を読み、足を踏み入れた。
凛子に案内され職員室に行き、担任と挨拶を交わす。教科書はまだ届いていないらしく、隣の席の者に見せてもらうとの事。
朝礼を知らせる鐘が鳴ったので、担任と共に二年一組の教室の前に立つ。
「呼んだら入ってきて下さいね」
「は、はい」
担任が教室に入ると、中から「起立」と生徒達が立ち上がる音が聞こえる。
(クラスメイト…仲良くなれるかな…)
どちらかというと人見知りの陽羽は、幸雄か、凛子か知っている人がいればいいな、と内心思いつつ深呼吸を繰り返す。
「師走さん、入ってきて下さい」
扉を開けられ、一瞬驚く。ゆっくりと教卓の横に立ち、生徒達に向き直った。
(あ…長月君…)
一番後ろの席に幸雄の姿が見えた。ホッと胸を撫で下ろし、自己紹介をする。
「太聖高校から転校してきました、師走陽羽です…。えっと…色々と、よろしくお願いします…!」
さっ、と頭を下げると拍手が送られる。
「それではあそこの空いてる席に座って下さい。長月君、教科書とか見せてあげてね」
「はい」
「一時間目は数学ですね。準備しておくように」
そう言って担任は教室を後にした。
幸い、隣の席は幸雄だった。一番後ろの窓際の席に座った陽羽は、チラッと横目で幸雄を見た。すると見つめすぎたのか、こちらを振り向く。
「?どうした」
「な、何でもない…」
顔を逸らすと、幸雄が何かを言おうと口を開きかける。しかし数学の教師が入ってきたため、口を噤んだ。
机を合わせ、幸雄の教科書を見せてもらう。ルーズリーフに黒板に書かれた内容を書きとっていく。
「………」
黒板に目を向ける陽羽の横顔を、幸雄は少しだけ見つめていた。




