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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第2部
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第109話


─二年後─


黒い生地に赤いラインの入った隊服に袖を通す。


制服とはまた違った意味で気が引き締まる。姿鏡の前でくるりと一周回って見せ、最後に髪型を整えて完了だ。


本日は新入隊員を迎える式があるそう。式と言っても堅苦しいものではなく、交流会といった方が正しいかもしれない、と幸雄は言っていた。


その際、隊長である幸雄は前に立って挨拶をするらしいが、陽羽は幸雄の後ろに座っているだけでいい、と言われている。


それでもやはり緊張感はある。深呼吸を繰り返して一度、鏡の前で頷いた。


タイミングよく、陽羽の心音が落ち着いた時に部屋の扉がノックされた。


「どうぞ」


「陽羽。着替え終わったか?」


幸雄も黒い隊長に身を包んでいる。普段と違う装いに胸を高鳴らせつつ、幸雄に歩み寄った。


「うん。なんか新鮮…」


「似合ってる」


「…ありがとう…」


幸雄と共に玄関ホールへ向かうと、他の隊長等も似たような隊服に身を包んでいた。


ラインの色はそれぞれ違い、アレンジしている人もいた。


例えば凛子と美里のスカートの長さ。凛子は太もも辺りと短めなのに反し、美里は膝下と長めだ。ちなみに陽羽は膝の少し上辺りの長さだ。


「集まっているな」


低く圧のある声が玄関ホールに響く。


紫がかった黒髪をオールバックに整えた海が、腕を組みながら概観した。彼の後ろには空と陸が立っているのだが、いつもの様子が違った。


空はいつもかけている丸眼鏡をしておらず、海以上に眉間にしわが寄っていた。切れ長の鋭い目も相まってやけに威圧感がある。


「四季さん今日コンタクトしてないの?」


「痛い…入らなかった…」


「まぁまぁ今年の新人、結構緩いみたいだし?空ちゃんの元ヤンオーラで引き締めてもらいましょうね〜」


「元ヤンじゃない…見えないとイライラするだけ…」


「そういう緋月さんはいつもよりメイク薄いですね」


凛子の指摘の通りだ。

陸はいつも、ピンク色のアイシャドウや赤い口紅等の派手なメイクを主としているが、今回はベースと口紅を薄く塗った薄めのメイクであった。


「違うのよぉ。いつも通りのメイクで来たの。そしたら海ちゃんに顔ゴシゴシ拭かれたのよ!?しかも雑巾よ!!?信じられるぅ!?!?」


「あんながめついメイクで式に出させるか」


「そこじゃないのよ!!私は雑巾で顔を拭いた事について怒ってるの!!!」


確かにそれは怒るだろう、と苦笑いを浮かべるしかなかった。玄関ホールに陸の怒声が響く中、舞夜に連れられてリムジンに乗り込んだ(移動人数が多いのでレンタルしたそう)。


会場に着くと受付で名札を手渡された。

『九番隊添人 師走陽羽』と書かれている名札を隊服の胸元に付け、ホール内に足を踏み入れる。


陽羽や幸雄と似たような隊服に身を包んだ人達が席に着いており、想像より賑やかな様子だった。


新入隊員の視線を浴びながら壇上に上がり、指定された席に座る。幸雄のすぐ後ろで至極安心した。基本、添人は異人の後ろにいるらしく、竜の後ろには宵が。蓮の後ろには朝が座っていた。


伊央と侑、佳乃の後ろにも添人らしき人はいたが、初めて見る顔だった。


中央に立つ空が咳払いをすると、騒がしかったホール内が一気に静まり返った。陽羽からは見えないが、恐らく眉間にしわが寄っているのだろう。


「新入隊員の皆様、本日はお集まり頂き、ありがとうございます。魔物殲滅隊司令官、四季空と申します。本日は各隊長の紹介等、司会を務めさせていただきます。よろしくお願いします…」


やはり見えない事に苛立っているのか、その声色は低く、穏やかではなかった。パチパチ、とぎこちない拍手が鳴り響き、空が一礼する。


「ありがとうございます。初めに、夜鳥総隊長より挨拶です」


空と入れ替わるようにして海が中央に立つ。威圧感だけで言えば空より海の方が上だ。新入隊員を概観して口を開く。


「まずは試験に合格、おめでとう。貴様等は明日から、本格的に殲滅隊の一員として働く事になる。それは命懸けの戦いとなる。それでも、ここにいるという事は、世のため人のためという意志を持っていると信じているぞ。とりあえず、今日は楽しむといい」


「もっと他にないのかな…はい。ありがとうございました…。続いて、各隊長の挨拶です」


小声で悪態をつき、司会を続ける空。その口元は若干歪んでいた。

が、そんな空を知ってか知らずか、一番初めに挨拶するらしい伊央は無言で立ち上がり、俯きがちにマイクの前に立った。


「一番隊隊長・睦月伊央と申します…普段は会社員をしております。はい…。それで……えーっと……よろしくお願いします」


ぺこり、と丁寧にお辞儀をして伊央の挨拶は終わった。


(添人の人は挨拶しないのか…)


伊央の添人らしき人物は座ったまま、洋子の挨拶へと移ったのを見ると、本当に座っているだけでいいらしい。


洋子はくい、と眼鏡を押し上げて口を開いた。


「二番隊隊長・如月洋子です。私も普段は弁護士として働いています。二番隊に配属になった方々は皆成人しているそうで。一度、飲みに行きたいな〜と思ってます!よろしくお願いします」


洋子らしい挨拶だ。心做しか二番隊の席に座る人達の表情が柔らかい。続いて竜の番だ。猫背気味にマイクの前に立ち、眠そうに目を細めた。


「三番隊隊長の弥生竜です…月下大学に通ってます。面倒だから分からない事があっても俺じゃなくて他の人に聞いて───」


「馬っ鹿じゃないですか!?!?初めの挨拶がそれで本当にいいんですか!?弁えてくださいよ!!」


竜の声を遮って、宵の怒声がホール内に響く。マイク無しでも通る宵の怒声に耳を傾けながら、竜は気怠そうに欠伸混じりに言った。


「冗談。聞けば教えるから…あとアイツは俺の嫁だから。手出すなよ」


「何言ってるんですか!?!?まだ嫁じゃないです!!!」


かっ、と宵の顔が赤くなる。こんな大人数の前で言われてしまっては、宵も平静ではいられないだろう。

竜の首根っこを掴み、壇上の袖に入って行ってしまった。すかさず空がマイクをとった。


「あの二人はいつもの事なので。すぐ慣れると思います…気を取り直して四番隊お願いしまーす」


「あの後ヤダなぁ…」


犬のぬいぐるみの頭の部分に口元を埋めて、眉根を寄せながら美里は立ち上がった。一度犬のぬいぐるみを足元に置いてマイクの高さを合わせる。


「んしょ。四番隊隊長・卯月美里。専門学校に通ってるわ。気軽に話しかけてくれると…嬉しいな」


ふふっ、と朗らかに笑って席に戻る。

陽羽は知らないが、美里はこの後の自由時間で自分から話に行くので、あまり語らないのだ。

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