第106話
「月下高校一年、秋野朝と言います!よろしくお願いします!先輩!」
りんごのような真っ赤な髪をショートカットに切りそろえ、朝日のように眩しい笑顔を向けて、朝は頭を下げた。
今朝方の事だった。
空に『蓮に添人が出来たから、その子に色々教えてあげて』と言われ、現在、蓮の添人になるらしい秋野朝と対面した。
ニコニコ、と効果音が付きそうな位の笑顔だ。無表情な事が多い蓮とは正反対のタイプらしい。
「師走陽羽です…朝ちゃん…でいいのかな?」
「はい!朝ちゃん呼び大歓迎です!!」
「私もまだまだ勉強中の身なの。一緒に頑張りましょう?」
「はい!!ありがとうございます!!」
「師走先輩、よろしくお願いしますっス」
「うん。任せて…!」
朝を連れて地下の訓練所へ向かう。もう何十回と歩んだこの道を先導するというのは、新鮮味に溢れていた。
訓練所へ到着すると、半年程前に自身も行った魔力の性質を測ろうと口を開こうとすると、朝が先に声を発した。
「大体の事は分かってますよ?私の父が魔人なので」
「あ、そうだったのね…て事は…私から教える事って何もないんじゃ…」
そもそも空の言っていた『色々教えてあげて』とは何を指すのだろうか。
朝が大体の事を理解しているのなら、陽羽が指導する事はないに等しい。
うむ、と首を傾げていると、眩しい笑みを浮かべながら朝が陽羽の顔を覗き込んだ。
「添人の仕事と…皐月君の事を教えてくれませんか?先輩達の事も知りたいです!あとあと、先輩とお手合せも!」
「…!」
まっすぐとした視線に気圧されてか、はたまた気が落ち着いたのか、陽羽も自然と笑顔になった。
「う…うん…!じゃあまずは添人の仕事ね」
部屋の隅に置かれている椅子に腰掛け、魔力の譲渡、異人が怪我をした時の手当て、見回りのお供、と必要な事を述べていく。
ふむふむ、と頷いた朝は手を挙げた。
「質問なんですが、魔力の譲渡はどうすれば?」
「手を握るだけ…あれ」
(私と長月君は初めキスしてたよね…でも皐月君は魔力の扱いとか…)
幸雄の場合は、魔力のコントロールが必要以上に出来なかった。そのため、粘膜同士の接触という強引な方法で魔力の譲渡を行っていた。
現在は手を握るだけで事足りるが、蓮の場合はどうなのだろうか。
(長月君が特殊、って言ってたし…)
「先輩?」
「あ、ごめん。手を繋げば大丈夫だよ」
「了解です!」
恐らく大丈夫だろう、と自分に言い聞かせる。実際の所、陽羽の心配はいらないのだが、本人は知らない事だ。
「朝ちゃんと皐月君はどういった経緯で確約する事になったの?」
「そもそもクラスが同じで、委員会も同じなんですけど…ほら。見回りとかあるじゃないですか?だから、私が彼の分まで仕事したりしてたんです」
殲滅隊に所属している以上、たとえ学生であっても平日、休日に各々決められているルートを見回りする必要がある。
見回りと委員会が被る事が多々あったのだろう。
「それで話してるうちに、皐月君が異人だって知って…。私も魔人っていっても、何もしたいと思わなかったんです…。でも…私でも何か出来る事があるなら、力になりたいと思ったんです」
「…そうなのね…」
「はい!そうだ。先輩と確約してる人はどんな人ですか?」
うーん、と少し考えを巡らせる。何から話せばいいのか、すぐには思い浮かばなかった。
笑った顔が優しいとか、気配りが細かいとか、どうしても惚気に聞こえてしまうものばかりだ。流石にそれを会ったばかりの朝に言うのは気が引ける。
それに何より恥ずかしい。
「えっとね…お紅茶が好きで、いつも飲んでるわ」
結局、そんな事しか言えなかった。それでも朝はへぇ、と興味深そうに目を輝かせた。
「紅茶かぁ…あんまり飲まないなぁ…」
「私も、それまではあまり飲む事はなかったかも…。今じゃ当たり前みたいになってるんだけど…」
自然と頬が緩む。幸雄の事を思い浮かべるだけで、胸が暖かくなる。もっと知りたい。もっと話したい。もっと触れたい。そんな想いを抱いてしまう。
「そうなんですね…他にも色々教えてください!」
「!…うん…!」




