1.夢の中
白い景色。ミルク色をした綿に囲まれて、小さな女の子と、思春期くらいの少年の姿が見える。
あ、夢じゃん。そう思った。
だって小さな女の子はあたし。天使のように可愛いドレスを着ていて、緩やかなカーブをたたえた黒髪は、キラキラした輪っかを乗せてる。柔らかそうな羽に包まり、笑っている。17年の人生であんな腰まで髪を伸ばしたことないけど。なんだ、似合ってんじゃん。そのうち伸ばしてみようかな。
少年は、誰かわかんない。と思ったら、小さな「あたし」が喋り始めた。
「ねえタクちゃん。タクちゃんって嫌いな人っている?」
タクちゃん。あれは拓斗なんだ。髪の色が青い。拓斗はイカれたあずき色の頭をしているから、これはやっぱり夢なんだろう。
「何聞いてンの、いきなり。」
「いる?」
「んー。別にいないよ。嫌いになるほど、人に興味ないしね。」
拓斗は足元の綿―訂正、雲みたいだ。―を右手の親指と中指で弄ぶ。目の前の「あたし」にも、興味はないみたいだ。
「興味って、何?」
「知りたいって気持ち。」
「ないの?」
「ないの。」
小さな「あたし」は、腕を組んで「むぅ。」とうなる。天使のくせに、何聞いてンの、ほんとに。
「じゃあ、好きな人は?いる?」
「んー。別に。いないかな。」
青髪の拓斗は、今度は少し動揺を見せる。おうおう、拓斗も可愛いじゃないの。いるのね、好きな人。あたしが内心に思っていると、小さな「あたし」も拓斗に気持ちに気付いたようで、にやりとした。
「タクちゃん、結婚したい人いる?いるんでしょ?」
小さいくせに、偉そうに肘で拓斗をつっつく。
「だぁれ?」
拓斗はにやけた「あたし」の頭を小突く。じっと、「あたし」の目をみつめた。
「…ユウちゃん。」
「え?」
小さい「あたし」は、茶色い目を大きく見開いた。誰のこと?
そう思ったとき、警報が鳴り響いた。