入学前のあれこれ
「たかが建物に金使いすぎだろ……」
俺は目の前にある大きな建築物、《王立シュベルトラッツ魔法学校》を見ながらそんな言葉をこぼした。
この学校は王都アクタシスにある魔法学校で、王都の西側に位置している。知名度も二番目くらいに高く毎年多くの学生が入学してくるらしい。
主に基礎に重点を置く授業が多く、人々からの注目も高い。
因みに王都には《シュベルトラッツ魔法学校》の他に数校ほどあるが、一番の知名度を持つのは《アルマトラス魔法学園》である。こちらは実戦を中心とした授業が多く個人の実力が顕著になる。実力があれば卒業後は軍隊や宮廷魔導士など引く手数多だ。そのため多くの貴族たちはこちらの学園に入学するだろう。
「あいつらはどうせアルマトラスだろうな」
なんとなくだがエルペン家の長女と次男のことを思う。
「っ!今の俺はレイジ=クライスだ!エルペンじゃない!」
「関係ない!」と何度もつぶやきながら心を落ち着かせる。そしてそのまま学校の中へと進んでいった。
学内の案内板を見て学園長室へ向かう。入学式前日だからある程度人がいると思ったが、学園長室までの道のりで人とすれ違うことはなかった。
身だしなみを軽く整え、扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
できるだけ敬語を意識しながら言葉を発する。
中に入ると若い男性が椅子に座っていた。
「君がレイジ君で良いんだよね?」
「はい」と答えると男性は言うから立ち上がって移動し、手前にあるソファーに座った。男性は俺に向かいのソファーに座るように促してきたので素直に座る。
「初めまして。僕はヘイル=リゼットだ。サーシャから聞いてると思うがこの学園の学園長をしているよ」
「レイジ=クライスです」
「今日は入学式前日なんだけど、ここに来たってことは内の学校に入るってことで良いんだよね?」
首を縦に振り答える。
その様子に満足したように微笑むヘイルさん。「少し待っていてくれ」というと部屋を出て行った。
数分後、少し大きな箱を抱えて戻ってきた。
「とりあえず学校で使う教科書の物と君の制服とか持ってきたよ。目録も入っているから寮に行ったら確認して、足りないものがあったら時間があれば後で、無ければ明日言いに来てね」
「分かりました」
因みに《シュベルトラッツ魔法学校》は全寮制の学校である。理由はいろいろあるらしいが、学生が地位の違いなどで特定の学生を虐げることのないように、良好な人間関係を育むためとかなんとか書いてあったような気がする。
まぁ、どうでもいいか。寮に行ったら教材の確認して、荷物を整理しないとな。
「でもまさか『混沌』の弟子、いや弟がうちの学校に入るなんて思ってもみなかったよ」
「『混沌』?」
何だよそれ?初めて聞く言葉だ。
「あれ?もしかして聞いてない?言っちゃいけなかった?でもサーシャだからただ面倒と思って話してないだけかな?」
「『混沌』ってなんのことですか?」
ヘイルさんの言葉からサーシャさんに関係あるようだが……。
ヘイルさんは少し悩んだ末に、
「口を滑らしてしまったようだし、君に話すのなら問題もないだろう。『混沌』っていうのはサーシャの二つ名『混沌の魔女』からとったものだよ」
サーシャさんって何者なんだよ。
詳細を聞こうと思ったのだが、「詳しくは本人から聞いてみるといいよ」と流されてしまったので諦めるしかないようだ。
その後雑談を交えながら気になることを質問したりして数十分が経った。
「ああ、結構な時間話していたようだね。後は 伝えることは……特にないようだね」
「分かりました。ではこれで失礼します」
「そうだね。じゃあまた明日。講堂で会おう」
こうして学園長室を後にした俺は学生寮に向かった。