縛られた騎士
猛々しく燃える城の中で、
ガシャリと音を立てて敵城の中を進む、
血塗れた黒い鎧の姿が一つ。
辺りには倒れた無数の屍が無残に転がっている。
崩れた壁や天井から見えている空の景色は、
黒い雨雲に覆われて居て。
植物に大らかな光を与える太陽もまた、
この場においては黒く禍々しい雲に覆われていて、
みることは出来ない。
その状態は見る限り今にでも雨が降りそうな感じで。
血濡れた黒い鎧の男は、
景色や天候を気にすることも無く
城の内部に辿り着く前と後もたくさんの兵士を屠った。
通常ならば抱く様々な感情が有るとしても、
この男の中に生まれるのは、
――頭の中と王城内部に響くのは、
忌々しい鐘の声だ。
「コロセ、クニヲノミコメ」というその音、声は。
もう何度反響しつづけているのか俺にはわからない。
それでも俺は、腰に携えている鞘の付いた剣に目を合わせながら先に進むしか無いのだ。
錆び付いた黒い鎧を着ている俺の目的は一つ、向かってくる邪魔なものを斬り捨てて、
この城のどこかに隠れているであろう王を処刑する事だ。
――まだ。
――まだ終われない。
――――俺にはやるべき事があったはず。
鐘に騎士として認められた俺には、
拾ってもらう以前の記憶が全く無かった。
気づいた時には森の中で倒れていたらしい。
その後、鐘に誘われるように俺は騎士になった。
大した戦闘の経験など無かった筈なのに、
最初に参加した戦で俺は先陣を切って参加した。
領土内の中心にある森を巡る第二の争い。
森の先にある王国の兵が母国の部分的な権利を巡って起こした戦い。
広い河の向こうにあった町に保管されていた権利書の拾得。
いや、拾得というよりは強奪や略奪と言っていいんだろうな。
そんなことを続けながら来る日も来る日も戦に明け暮れ、
気が付くと今現在も狂ったように、人形のように殺戮を果たそうとしている俺が居る。
重苦しい鎧を着ているはずなのに、まるで何も着ていないかのように軽い血塗れた黒い鎧で、
燃え盛る城内で静止している壁を砕き、何もなければ静かに目的のモノを探すように歩き出していく。
同じことを何度も何回も繰り返す。
――――。
―――――――――。
辺りには既に壁と言う壁も無くなった状態で、
肉体的な疲労感を感じることもない俺の眼の前にあったのは、
分厚い金属の扉らしきもの。
窓も無く扉を開ける取っ手も見当たらない。
そんな分厚い金属の板のようなものを、
【扉らしきもの】と判断したのは、
左側の下部にある一つのくぼみのような穴が原因で。
本来ならばそこに何かを入れたり、はめ込んだりするのだろうが、
生憎、持ち合わせているものと言ったら一本の呪われた刀と呪われた一つのこの身体だけ。
生身ではどうあってもぶち破れないだろうと思ってココに身を隠している場合もあるハズだ。
「ザンネンだったナア!!!! 」
どこから出たのかもワカラナイ誰かの声が金属のトビラに吸い込まれていくのと同時に、
黒く染まった拳が分厚かった金属のトビラにアナを開けた。
――――ゴシャッ――――。
穴の開いた見た目に反して、
軽く鈍い音が真っ暗な室内に響き渡っている。
「コクオウ――ミツケタア――――」
鎧の中が熱くなってくる。
ドンドン、ドンドンと。
血塗れている黒い鎧が高揚しているかのように。
獲物を見つけた獣のように。
けれど、眼の前に映っている国王らしき人間は、
粗末な寝具に向かおうとしている状態で崩れるようにして、死んでいた。
その崩れるようにして床に伏せている国王の先には、
元は白いドレスだっただろうソレは汚れ変色し、
飛んだのか跳ねたのか。
素肌も赤色に濡れている一人の少女が虚ろな眼をしたまま静かにこちらをじっと見ていた。
その表情はまるで――。
自身の眼の中に、自身の眼の前には何も存在していないかのようなそんな表情で。
血塗れている黒い鎧そのものが、
眼前にいる赤色に染まった少女を獲物と定めていくのに反して。
男の胸の中はどうしてか、
ひどく、ひどく痛みを感じていた。
対して、少女の表情が変わることは無く。
そんな男と少女の中を、
穏やかな風と静かな川の音が幻のように駆けていく。
やがて辺りからゆっくりと雨音が聴こえてきた。
こんばんは、こんにちはRYUITIです。
毎度毎度何を言っているか分からないような後書き始まります。
よかったらお付き合いください。
さて、
情景小説、情景童話の一つ目、
R童話、久しぶりの新作になります。
今回書いたこの作品は2013年9月の末に、
突発的な構想メモを元にして考えられた作品で、
本来ならばかなり早い段階で出来上がっていたであろう……
作品なのですが、メモ消失の際、
さわりだけしか書かれて居なかったこの作品を、
一から組み立てる気力を失った私は、
段々と増えていく執筆中小説の中で、
あまり気に留めなくなっていったのでした。
そうこうしている内、最近になり。
色々な作品を考え書いている中で、
「ある作品の続きを読みたい」と言われた時に、
もう終わってるんだよなあと考えてしまった自身の中で、
大きな疑問が浮かんでうかんで、今日に至りました。
日付が変わる前、風呂の中で。
私の作品は明確な完結なんて無い。
というスタンスで書いている事をまた再確認したのがきっかけで、
この作品を書きました。
人に好きなように読んで、作品の後なんかを想像したり考えて楽しんで頂きたいななんて思ったりしているのも相も変わらず私の作品のスタンスです。
物語の中にある人生の正解なんてものは作者の私にもわかりませんので(´・ω・`)
願わくば末永く楽しんで頂けるといいなという想いと、
作品を読まれた方の人生が晴れやかなモノになることを思いまして。
後書きを終わらせていただきます。
長々とありがとうございました。
RYUITI。