現代社会の問題
(最近不登校に陥る子供が急増しています)
(最近の子供達は忍耐力が無いから不登校になるんですよ。それと親の教育が悪いんでしょう)
(学校に行かずに一日中部屋に篭ってゲームやってるってママ友から聞きましたけどそのママ友は強く言えないから引き篭もっちゃうんですよね)
……テレビからそんな話が聞こえてくる。
「……何も知らねぇ大人共は気楽でいいねぇ」
そう呟く少年は制服姿でトーストを齧りながらテレビを見ている。
「最近のテレビはこの話題ばっかだな」
少年はテレビのチャンネルを変えながら呟く。彼の名前は見室 亜門紅魔学園高等部一年生。亜門はトーストを食べ終えると、珈琲を一杯飲んで目を覚ましてから学園に向かう。
亜門は教室に着くと誰とも会話せずに席につき一限目の準備をしていると、
ガシャン!
という音が教室に響く。しかし、誰もそちらを見ようとしない。亜門はそちらをチラ見すると机が倒れており、一人の女生徒が倒れていて、その周りを女生徒達が囲んでいる。
(またかよ……あいつらも飽きねぇな)
亜門は内心そう思いながらも助けようともせずに一限目の準備を再開する。
昼休み、亜門が購買に昼食を買いに行くと朝女生徒達に囲まれていた女生徒がいた。
「なぁ」
亜門はその女生徒に声をかけると女生徒は驚いた表情をしていた。
「な、なんですか」
女生徒は下を向きながら聞く。
「……ちょっと付き合え」
亜門はそう言って女生徒の腕を取り今は使われていない教室に無理矢理連れていく。教室に着いたら亜門はドアを閉めて女生徒の腕を離す。
「あ、あの…何ですか?」
「……あんた名前は?」
「蕪田 慧栖です」
慧栖は下を向いたまま答える。
「……別に俺はあんたをどうこうしようって訳じゃねぇよ」
亜門がそう言うと慧栖は首を傾げながら
「じゃあ何ですか」
「お前さん毎日毎日虐められてるよな」
亜門が言っているのは朝の事である。実はあれは今に始まった事ではない。虐めてる女生徒達のグループのリーダーはこの学園の理事長の娘の為クラスメイトも教師陣も手が出せない。
「……そうだったら何ですか」
「別に俺は面倒事は嫌いだからお前さんを助けるなんて事はしねぇけどよ、一ついい事を教えてやろうと思ってな」
「俺の師匠が昔言っていた」
『虐められてるのに抵抗しねぇ奴は家畜と一緒だ。しかし、家畜と違って俺達人間は抵抗する力がある、人に助けを求められる口がある、言葉がある。しかし、それさえ使用としないやつは家畜以下だ。』
「ってね」
それを聞いた慧栖は目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。
「この言葉を聞いてあんたがどう出るかは俺には分からねぇ。でもな、この言葉には続きがある。これはお前さんに対するものじゃねぇ」
『でもな、そんな奴がもしもう一度人に戻ろうと助けを求めて来た奴を助けねぇ奴はそれ以上のクズだ』
「ってね。俺は面倒事が嫌いだからお前さんを" 自分から"助けることはしねぇ。でも、もしお前さんが人に戻りてぇなら俺は手を貸す。だが、それもお前さん次第さ」
慧栖は全て黙って聞いて俯いている。
「……以上だ。悪ぃなこんな話しちまって。もう教室に戻ろうぜ」
慧栖は黙ったまま小さく頷く。
慧栖は先に戻ったが亜門はまだ教室にいた。椅子に腰掛け、
「……これで良かったんですかね?" 龍司さん"」
亜門は遠くを見ながらうわ言の様に呟く。
その日の授業が終わった。
教師が出て行くと慧栖を女生徒グループが囲む。
「なぁ蕪田よぉ、何で昼来なかったんだよ?」
慧栖は答えない。
「おい!蕪田!テメェシカトしてんじゃねぇぞ!」
グループの一人が慧栖の胸ぐらを掴む。慧栖は恐怖で震えていた。そして女生徒から視線を外した先に亜門がいた。亜門は慧栖の事を見ている。慧栖は恐怖を押さえ込みクラスメートさえも聞いたことが無いほどの大声で、
「見室くん!私が人に戻るのを手伝って!!!!」
そう慧栖が叫ぶと、亜門は少し微笑み
「そうだ、それでいい。お前は誰かに助けを求めた。もうお前は家畜と同じじゃねぇ」
そういいながら慧栖の胸ぐらを掴んでいる女生徒に近づき、
「立派な" 人間だ"!!」
そういいながら女生徒の顔を思いっきり殴る。
「……へ?」
グループの一人がそう間抜けな声を出す。
「蕪田……いや、慧栖。お前は退いてろ。後は俺がやる」
亜門はグループの女生徒を一人一人殴っている。最後に理事長の娘が残るように。
「な……あなた私に手を出したらどうなるか解ってるの!?退学よ退学!!それでもいいの!?」
理事長の娘は後ずさりしながらそう叫ぶ。
「……退学?そりゃあ嫌さ。でもな、ここで慧栖の事を見捨てたら俺が師匠にぶん殴られんだよ!!」
亜門はそう言いながら理事長の娘の顔を他の女生徒よりも強く殴った。
そんな光景を廊下から見ていた野次馬達の中に一人少し笑っている。
(……それでいいと思うぜ。バカ弟子)
数日後、 亜門は 学園長室に呼び出された。
学園長室のドアをノックしてからドアを開ける。
「失礼します」
学園長室には学園長と先日自分が殴った理事長の娘、そして理事長がいた。
「おお見室くん。よく来てくれた、座ってくれ」
学園長が亜門に座るように催促する。
「はい、失礼します」
亜門はソファーの一番下座に座る。一番上座には理事長が座り、上座には学園長と理事長の娘が座っている。
「で?何ですか?学園長」
亜門はこの間の件を一切気にしてないような顔をしている。
「うん、この間きみが起こした暴力事件の事なんだけど」
理事長の娘はニヤニヤしている。
「ここにいる様に彼女は理事長の娘さんなんだけどね、君が殴ったってことを理事長が聞いて君に会いたいって言うからねちょっと来てもらったんだ」
学園長は笑顔で言う。
「そうでしたか」
亜門は視線を学園長から理事長に向けると
「お久しぶりですね。袖村さん」
亜門はいつもの無表情で理事長に頭を下げる。一方理事長は少し震えている。それにきずいて不審に思った理事長の娘が理事長にどうしたのか尋ねるが理事長は喋らない。
「袖村さん?大丈夫ですか?」
亜門は理事長の目を見ながら心配そうに尋ねる。
「あ、ああ。大丈夫だ」
理事長はいまだに震えて冷や汗をかいている。
「で?私に何か御用でしょうか?」
亜門は普段の無表情のままだが、その場にいた三人は亜門から尋常じゃない程の殺気を感じていた。
「……い、いや、君を見てみたかっただけだ。ありがとう、もういいよ」
理事長の声は震えている。
「……あ、そうですか。それじゃあ失礼しますね」
亜門は静かに立ち学園長室を出ようとする。
「あ、そうだ。袖村親子さん。」
亜門は袖村親子の方を向き、
「権力振りかざせばどーにでもなるって思わないで下さいね。次は手加減できるか解らないので」
袖村親子は一回大きく震えた。
「それでは失礼します」
亜門は一礼して学園長室を出ていく。
学園長室を出ると
「あ、あの。蕪田くん」
「おう、慧栖。どうした」
亜門は慧栖の前に立つ。
「あの……ありがとうございました」
慧栖は深く頭を下げる。
亜門は少しその頭を見た後、
「……これからは頑張れよ」
亜門は慧栖の頭をクシャクシャと乱暴に撫でた後に教室に戻る。
数ヶ月後……
(最近は虐めによる不登校や自殺が……………)
亜門は珈琲を飲みながらニュースを眺めている。
「自殺する奴や不登校になる奴は助けを求められなかった奴だが虐めをやらせてるのは大人共なんじゃないかねぇ」
亜門は珈琲を飲み終えてコップを洗い場に置き、
「ま、そんな簡単な問題じゃないんだろうね」
そんなことを呟いていると、家のチャイムが鳴る。
亜門がドアを開けると
「お、おはよう」
慧栖が立っていた。亜門は無表情のまま
「ああ、おはよう慧栖」
亜門はドアの鍵を閉める。
「それじゃあ行こっか」
慧栖が歩き出すと、
「ああ」
亜門も一緒に歩き出す。二人は二ヶ月前に付き合いだした。告白は慧栖から。
少し歩いた後、亜門は慧栖の手を握る。
「え?」
慧栖が間抜けな声を出す。
「……寒ぃからな」
亜門は顔を背けながら喋る。
「………ふふふ♪そうだね」
慧栖は笑いながら握られた手を強く握り返した。
『二人に永遠の幸せを』
fin