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Step.3

3.



成功、逆転、勝利。


それらとかかわることは無い平坦な場所こそが、今の自分の居場所



ペル=トラバン本人は記憶に薄いが、かつて一度だけそれらを体感した事がある。

ごく幼い時に、彼は当人を含めて5人の兄弟が居た


ある日、子供だけで居た所に暴漢が現れ、彼らを弄った。


遊び場、秘密基地として絶好の場所だった路地のガラクタ置き場は

一転してペル兄弟の逃げ道をことごとく邪魔する処刑場になった。


ペルは現在、下に弟を2人、妹を一人もっている


内二人はその後に生まれ、弟の一人がその時手を引いて逃げ出せた子だ。


足元の石で彼方のガラス窓を狙い、音を立てる事に【成功】

後には退路の無い状況の打破、聞こえる足音に焦る暴漢【逆転】

弟の手を引いて必死に走りぬけ、あの場所から生き延びれた【勝利】


それらは全て、自分の行動が引き金となって、起きた事。

それらは全て【自分の起こした華々しい勝利】


時折ボクシングや、アメフトを見ていると脳裏にちらつく陶酔感

ペル自身はそれらの感情に憧れている。深層的な部分では狂おしいほどに、もう一度味わいたかった。




__________




朝が来て、いつもの様に壁へと向かう人々と歩く。


ノギは遠目からでも目立つ長耳を見つけると、足早に近寄り声をかける

「おはよう、買い物は次の休みで良いか?」

「ん?うやむやにすると思ったけどー・・・口止め料?」

したり顔をして見やるメルは、それとなく歩調を緩め顔を近づけて来る


『・・・昨日のアレ、誰にも言ってないし独り言もしてない。記録もね』


「そりゃ良かった!お前が機嫌損ねたらオッサン達もうるさいからな」

それを聞きノギが背をそらして心底安心したように返す。


ひとまず問題にはならないだろう、しかしいずれ綻びるかもしれない。

それならばいっその事、同じ陣営に引き込むか排除するか


少なくともこんなに特徴的で目立つ奴を排除なんてリスクが高い

底辺のコミニュティと言っても、そのつながりは底辺故に広く、どこにでもあった。


「壁拭きよりも良い仕事欲しいよなぁ、金が貯まらねぇ」

「んー、あたしは他にもちょこっとお仕事回してもらったりするよぉ?」

「お前はまぁ・・・そうな、可愛いからな」

「将来的には耳取っちゃうからねぇ、今のうちだよぉ?長耳つきで更に可愛いメルちゃんはぁ」

長耳に手を添えて、くいくいと揺らしてはにかむ。


耳付きは誰かとの関わり、繋がりを好む傾向があるらしかった

外したとされる人間にもその傾向は残っていたので、それこそが耳付きの機能だったのだろうか。



信号待ちの車から中年女性が忌々しそうにメルを一瞥し、フンと息づき赤い信号を睨む

メルが視界にそれをとらえることは無かったが、ノギの気分に多少の影を伸ばした。




____________




日も暮れて、特に用事の無い者は根城に帰る頃

底辺区画の一角にてにわかにざわめき立つ場所があった。


底辺といえど、健全な娯楽は多々生まれていた

もっともこの時代の健全が、どの時代と比べてかは判らないのだが。


小さな駒を対峙させた盤面勝負や飲料キャップをはじいてグラスに入れる遊び

牧歌的ともノスタルジックとも言える遊びだったが、その日の稼ぎの一部を賭けたなら真剣そのもの。


用意に金のかかるような物は、高尚な物として仕切る者が居た。


「ダイヤ、今日はもう飲んでる?」

「あんだボウズ、壁と話すのは飽きたのか」

ノギの話しかけた中年男は、前時代で言うカウボーイと呼ばれる格好をしていた

・・・が、それに見合わない腹。足はサンダルなので様にはなってない。


「今日はちょっと話がしたいんだ」

そう言ってコインをグラスに入れると

「カードが話を聞いてくれるか、俺ぁ知らん」

言うやダイヤが腰につけたホルスターからトランプを取り出す。


「耳の嬢ちゃんは待ってな、水を差されるといけねぇ」

「むぅ~、ノギー?」

今まで黙ってノギに寄り添っていたメルが、面白くなさそうにグラスを爪弾く

「何か飲んで待ってろよ、すぐにケリがつく」

言い残すノギを連れて、カードをシャッフルしながらダイヤは個室の扉をくぐった。




「賭けな」

「AI、登録前のを手に入れた」

ノギがAIの入ったPDAを顔の高さで揺らす

ダイヤが無造作にカードを引き、オープン。ハートのジャック。

「数日待てば用意するぞ」

「残念、売る気は無い。もう俺を登録した」


その言葉で一瞬ためらいつつも、ダイヤが次のカードを引く。

出たカードはクラブの7。ダイヤがしばし考えたように頬をかいてカードをシャッフル。


「お前ぇはつまり・・・クライマーになる足がかりが欲しいってか?」

「条件は揃えた、それも上等な奴だ。ダイヤ、アンタはカードを引いてくれりゃ俺が勝つ」

待ちわびた機会への歩みを、ノギは目の前のダイヤに急かした。


「俺ぁな、お前ぇの事よりさっきの嬢ちゃんが不憫でならねぇ。だからな」

「やめろよ、手を止めるなよダイヤ。コイツを拾った時メルも一緒だった。

 アイツを放っておいたらそっちの方がヤバいだろ。あとは俺らの問題だ」


ダイヤが近くにある酒瓶をひったくり、ぐいと一息あおる

「クソッタレめ、コレで仕舞いだ」

ダイヤが抜き放ったカードは3、赤いひし形の、ダイヤの3だった。


前時代のどこに当てはめたルールでもなく、彼が切る事によって意味を成すゲーム。

ゲームと言うよりもカードを通した彼との会話だろうか


「・・・あぁ、クソ。クソッタレめ。明日もう一度来い、嬢ちゃんも連れてな」


ダイヤは苦々しげに言葉を吐いた後、もう一度酒瓶に口をつけ、大きく逆向けた




_______________  続く

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