最後の戦い
八
マカナとの例の会話から約百年後、ルレロは二か月に一度の定例行事、ジズド領侵攻に参加するためにベラドルゴ帝国軍の宿営地に来ていた。この場所での戦争は何度も経験しており、辺りの地形は熟知している。六百年経って人も街も変わっていったが、自然だけは俺に着いてきてくれているようだな、とルレロはしみじみと感じた。
ルレロは皇帝に志願し、大元帥という戦の司令官としてではなく、一介の兵士として参加することになった。装備も一般の兵士と同じ物にした。
これは流石に隊長に止められたが、「久しぶりに初心に戻りたいと思ってな。たまにはいいだろう。それとも、この私がこんな戦いでやられるとでも思っているのか?」と凄むと慌てて首を横に振り、ルレロの申し出を認めた。
兵士たちはいつになく緊張した面持ちで、ルレロを迎えた。普段の弛緩した雰囲気とは違って、戦争初期のような雰囲気が漂っていた。
侵攻当日。空は抜けるような青空であった。ルレロはその明るさに、これから為そうとすることにおいて、少し躊躇いを覚えたが、強い意志で何とかそれをかき消した。
隊長より、号令が出された。ルレロは他の兵士に混じり大声を出しながら、走り始めた。
その時ふと、あの頃が思い出された。遠い昔の、不死が発覚する前の初戦争。生き残るという気概でいっぱいだったあの時。ルレロは心の中で苦笑した。終わりの日に始まりの日の事が思い出されるとは。
敵側からも防衛のために兵士が突進してくる。
ルレロは味方の誰よりも前に出て、敵兵の群れの中に飛び込んだ。
「おい!出すぎだぞ!」
隊長が叫ぶ。後ろからは、誰が飛び出したかは分からなかった。
ルレロは剣を抜かなかった。ただ、前を見つめその時を待つのみである。
敵兵が前から斬りかかってくる。
さよなら。誰にとはなく最後にそう呟いた。