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別れ

 それ以降、戦争は長期戦の様相(ようそう)を呈してゆくこととなる。

 帝国内では自分たちに敵する不死者の登場を、帝国の大敗北を引き起こす不吉な現象であるという考えが蔓延し、兵士たちの士気も低下した。一方、公国の国民の戦気は高揚し軍隊の勢いを増し、さらに同じく帝国を恨む国からの賞賛を浴び、沢山の援助も得ることができた。

 ルレロもそれから不死をいかした華々しい戦果を収め、階級もうなぎのぼりであった。

 そして、戦争歴三十八年 。戦争を始めた当の本人であるカカガヤが逝去した。後を継いだ息子である サシスは自分を皇帝と名乗り全権力を掌握し、ベラドルゴも帝国となった。

 サシスは賢帝であった。この皇帝が行った様々な統治や策略も帝国の猛攻撃をしのぎ、戦争が泥沼化していく一因となったのである。

 かくして、大したことのないと思われていた戦争は、ジズド帝国は「地の国力」、ベラドルゴ帝国は「国民の帝国軍への反感からくる士気・他の国との連携」というそれぞれの武器を生かした正に五分五分の戦争へと状況は移行することとなった。

 ルレロの不死能力についても両国で様々な議論がなされた。

 一般に空想の物として語られる魔術や呪いによるものなのか、もしくはルレロ自身の特異な体質によるものなのか。

 結局、結論は出なかった。できることはジズド帝国側はルレロを捕縛して監禁するという作戦をとることで、ベラドルゴ帝国側はルレロの不死能力を信じ、最大限の保護と活用を目指すことだけであった。


 戦争歴四十八年。

 ルレロを拾い、養ってきた、義父マガンテが病に臥せた。

「ありがとうな。ルレロよ。お前はわしが与えた以上のものをわしにくれた。これからはお前の好きなように生きてくれ」

 病院のベッドで今にも消えてしまいそうに弱弱しく生きるマガンテにルレロは目の前が真っ暗になってしまいそうな感覚を覚えた。

「なんてことを言うのですか父さん。……結局私は化け物でした。村のあいつらが言っていたように。 私は父さんがいたから自分を見失わず、今を生きることができていました。父さんが逝ってしまえば、私はこれから何を拠り所として生きてゆけば良いというのですか」

 ルレロがいうあいつらとは例の村人達である。

「わしにも分からん。無責任なことは言えないが、ただ一つ言えるのはジズド帝国に決して捕らわれないでくれということだけだ。永遠に生きるということはゆくゆくは死より辛いことになるかもしれない。ならせめて永遠を牢獄の中でなく、青空の下で生きてほしい」

「とっ父さん」

 マガンテの、正に死にゆく者の遺言と取れる言葉を聞いて、感極まりルレロは思わず叫んだ。

「生きてください。元気になって、もっと生きてください!」

 しかし、マガンテはみるみるうちに生気を失っていった。

「ルレロよ…、自分を差別するな。お前は……紛れもなく……私……の……息……子だ……」

 マガンテは動かなくなった。その後、ルレロは少々考えたが、マガンテの生まれ故郷のナセ村に遺体を運び、精いっぱいの弔いをした。

「さようなら、父さん」

 ルレロは身近な人間の死により初めて自分の「永遠の時間」を自覚した。そしてそれがとてつもなく辛い、宿命となるであろうということも。


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