永遠なる者へ
四
ルレロの証言と、偵察部隊の報告により、思いもかけずに部隊長が死亡し、帝国軍が大混乱に陥っていることが露見すると、すぐさまカカガヤはできる限りの人員を集め、猛反撃を指示した。その対応が功を制し、国土は戦前の状態まで持ち直すことに成功した。
その時はルレロも、またルレロの報告を受けた者たちも、矢を受けたというのは何かの間違いで、ただ何かの要因によって気絶してしまっていたところを帝国軍が死んでいると誤解したのだという結論を強引に出した。とはいえ、ルレロは当然ながら完全に納得してはいなかったが。
しかし、それから少しの時間が経ち、ルレロは、二度目の出撃の際に疑問の一部を解くことになる。
ルレロは必死で戦った。地道に培った武芸を活かし、一人、一人と倒してゆく。しかしやはり帝国軍の物量、数の暴力には為す術もなかった。あっという間に周りを取り囲まれてしまい、凶刃によって首を切り落とされてしまった。だが戦線は何とかそこで持ちこたえることが出来、帝国軍は撤退していった。
ベラドルゴ軍の生き残りは数少なく、正に満身創痍であった。
「生きている者はこれで全てか。皆の者、ご苦労であった。お前たちの勇気が帝国軍を見事跳ね返したのだ。惜しくも死んでしまった我々同胞の体の処理は後続の者に任せてある。我々はこれより帰還する。皆、ゆっくりと……」
隊長が部下たちを労っていた時であった。
がさり、と何かが動くかのような音がした。皆は驚きそちらを向いた。
ゆっくりと人間が立ち上がるのが見えた。
兵士の一人があっと声をあげた。その人間は、紛れもなくルレロであった。
(何とか生き延びられたか……)
ルレロはそんな事を考えながら、軽い放心状態だった。
「お前、首を斬られて死んだはずじゃ……」
ルレロの隣で彼の死を目の当たりにした兵士が絶句しながらもなんとかそう口にした。
「え……? あ」
忘れていたのだ。自分が首を切り落とされたこと。ルレロにはその瞬間の記憶があやふやになっていたのだ。
しかし思い出した。紛れもなく。首に激痛。歪む世界。傾く世界。落ちていく意識。消えていく意識。ルレロは思わず首に手を当てた。
繋がっている、間違いなく。横に一筋、うっすらと溝ができている。恐らくはここで切り落とされたのだろう。しかし、血は出ていなかった。
「どうして……」
生き残った者はみな一様に黙り込んだ。
その後、報告を受けたカカガヤは、実験するために、激化していく争いの中でルレロを常に最前線で戦わせた。当然ながら、何度も死に値するダメージを受け、倒れこむ。
しかし、ルレロはそのたびに復活した。倒れてから一時間ぐらい経ってからであろうか。なにごともなかったかのように傷も癒えて立ち上がるのである。首や腕が切り落とされても、いつの間にかまた生えてくるのだ。
周りの者はそのルレロの異様な回復力に、こう結論付けるしかなかった。
ルレロは「不死身」であると。
更にその後発覚したことだが、どうやら最初の「死」を境目にルレロの身体の成長・老化がぴったりと止まってしまったようである。
「不死身」に、更に「不老不死」が加わりルレロは永遠不変の存在となった。