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第04話 1人目の願い 剣と魔法の世界(04)

評価が上がり、感想をたくさん頂き、とても嬉しいです。そして同時に「ご期待を裏切らない作品にしていかねば」という良い意味での緊張感も感じております。相も変わらず未熟な文章で申し訳ありませんが、日々精進・改善していければと思います。


今回の話も、読んで下さる方々に少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

 


 その日、メリルがガルゼフォードの部屋をノックした回数はゆうに2桁を超える。



 冷たい美貌を持った使い魔と、彼女の主である痩身でみすぼらしい魔術師が講義室を出て行った後、しばらくの間、室内は騒然としていた。


 無理もない。『悪魔』を使い魔とする魔術師など、この学園にも学園長を含めて3人しかおらず、国内全体で見ても50人に届かない。

 その数字がどれだけ少ないものであるかは、メリルが暮らすモーヒス王国における魔術師の人口が約10万人程度であることを考えると容易く察せられる。

 2000人に1人の選ばれた存在。

 それが『高貴なる者の使い魔』を統べる魔術師たちなのである。


 しかし、学生たちが騒いでいる理由は、つい最近まで自称選ばし者に過ぎなかったガルゼフォードが一躍本当の選ばれた存在になったから、だけではない。


 通常の使い魔の実力は魔術師の魔力量に比例する。

 強大な魔力を持った魔術師に呼び出された魔物はやはり強力なものが多く、逆もまたしかりなのである。

 事実として今年の学生の中では次席の実力を誇るメリルなどは、Cランクの使い魔であるペガサスを呼び出すことに成功したし、逆に同世代最弱の魔術師であった人物はただの野良猫にも苦戦するような小動物を召喚してしまった。

 これらの事実から、一般に「魔術師を見ればその使い魔の実力は分り、使い魔を見ればその魔術師の程度が知れる」と言われている。


 そんな通説における数少ない例外が『悪魔』であった。

 媒体に縛られず、魔力に拘らず、ただ気高さだけを求めて主を選ぶ使い魔たち。

 Dランクにも届かない魔術師を主に選ぶような『悪魔』でさえ、その実力はBランク相当であると言われていた。

 ある高名な魔術師などは『悪魔』という種族においてBランク以下のものは存在しないとさえ述べている。


 以上のことを踏まえて考えた場合、平均的魔術師の実力であるDランクに届くか届かないかというレベルのガルゼフォードが召喚した存在であっても、『悪魔』であるあの怜悧で退廃的な雰囲気の美女は最低でもBランク前後の実力を有することになる。


 自称選ばれし者が言った「任せておけ」と、悪魔の主が述べた「任せておけ」では言葉の重みが全く違うのだ。


 講義室の中の若者たちは「ガルゼフォードが『トロールの反乱』を解決してくれるのではないか」と考えるグループと、「いかに悪魔を使い魔に持ったといっても、あのガルゼフォードだぞ」と疑ってかかるグループ、そして「まあ、俺達もう卒業確定しているから関係ないし」と考えるグループの三派に分裂していた。


 互いに罵声を浴びせあう彼等の姿に、担当教官であるアレインがその場をどう収拾しようかと考えていると、講義室のざわめきを切り裂くような、凛としたメリルの声が響き渡った。


「皆様、わたしがマキシさんに真意を確認して参ります。そしてもし、彼にその意思があるのならばわたしが彼に同行して『トロールの反乱』を解決するまで見届けましょう」


 アレインの立場からすれば『トロールの反乱』の解決に学生が乗り出すこと自体止めるべきであったが、『悪魔』という戦力の存在が彼に判断を悩ませた。

 Bランク以上という強大な力が、メリルという信頼のおける生徒によって使われたならば、確かに『トロールの反乱』さえ解決し得るかもしれない。


 担当教官が悩んでいる姿をよそに学生たちは。


「メリルさんが監督してくれるなら安心だわ!」

「ああ、カーラさんの威圧感は本物だった。ガルゼフォードの馬鹿が暴走しないようにメリルさんが手綱を握ってくれさえすればきっと大丈夫だぜ!」

「何だかカーラさんとメリルさんが並んでいる姿を考えたら興奮してきたぞ!」

「ハア、ハア、ハア!」


 と勝手に盛り上がり始めた。


 周囲が湧きかえる中、結局アレインは賛成も反対もせずに沈黙を守ったため、メリルは同期の学生たちの代表という『名目』を手に入れガルゼフォードのもとに向かうことが出来た。


 メリルが自ら危険な役割を買って出たのにはいくつか理由がある。

 名目である『同期の仲間たちのため』という理由も決して嘘ではない。メリル=フォン=クラーゼは依然として模範的な生徒であったし、高貴な生き方を心がける彼女にとって、困っている友人たちを助けることが出来ない現状は、決して望ましいものではなかったのだ。

 更に言えば、都市全体を脅かす『トロールの反乱』を解決する手段があるならば、それに協力することは貴族であり魔術師である自分にとっては義務のようなものであるとさえ考えていた。


 だが、そういった今までのメリル=フォン=クラーゼを形作ってきた行動規範に基づく動機と同じくらい、あるいはそれを上回るくらいに、別の大きな感情とそれに基づく動機が彼女の中にあったのもまた事実である。


 ――あの人に会いたい。


 それは、分りやすい表現をするならば一目ぼれのようなものだった。

 カーラのことをメリルはほとんど何も知らない、あの冷たい美貌の女がどんな性格でどんな生き方をしてきたかなど、知る由もない。

 メリルが知るカーラに関する情報とは、ただただその外見に由来するものでしかない。

 故の、一目惚れである。


 では、メリルがカーラの外見のどこにそこまで魅せられたのかと言うと、それは中々難しい問題であった。

 先に言ってしまうと、由緒正しいクラーゼ家の長女であるメリルに特殊な性癖はない。

 同性にときめいたことなど一度もないし、冒険者のようなアウトローに心ひかれたことも一度もない。まあ、もっと言ってしまえば誰かに恋したことすら一度もないのだが。


 そんな彼女が、カーラのどこに惚れたのか。

 容姿の美しさに魅せられなかったと言えば嘘になろう。また美しさ以外の官能的な魅力にも、何ら欲情を感じなかったと言えば嘘になる。

 だが、そういった諸々の要素がなかったとしても、きっとメリルは彼女に魅せられていた。


 それは身に纏う空気。蠱惑的でありながら排他的で、怜悧でありつつも退廃的。どこまでも尊く、どこまでも孤独な、何者も寄せ付けない孤高の高貴さ。


 誰からも認められる貴族を目指しているメリルのような少女にとって、その存在感はあまりに眩しく、あまりに毒だった。


 賢明な少女は、自分が本来関わるべきではないものに毒されかけていることを自覚していた。その感情が何に起因するものかは分らないまでも、メリル=フォン=クラーゼが正しくクラーゼ家の長女であることを望むならば、決して惹かれてはならない相手に惹かれていることをぼんやりとだが理解していた。


 理性の訴えに従うならば、あんな存在は二度と視界にさえ入れるべきではない。

 だが、思春期の少女の感情は、狂おしいほどにカーラとの再会を望んでいた。冷たい美貌の女が、ガルゼフォードの手を引いて講義室を出て行く姿を見て、どうしようもないほどの寂しさと嫉妬を覚えていた。


 だから、理性と感情の天秤を揺らし続けた彼女が、互いの天秤の皿の重さを量り切れず、折衷案とも言える「友人たちのためにガルゼフォードのもとに向かい、その結果カーラと会ってしまっても仕方がない」という結論に達したのはある意味当然の帰結であった。


 もし仮に、この時アレインあたりがメリルの行動を制止していたならば、メリルはカーラと会うことも諦め、胸のくすぶりを覚えながらもこれまで通りのメリル=フォン=クラーゼとして生きていくことが出来ただろう。


 だが結果として彼女は『友人のため』『同期の総意のもと』という理性に対する言い訳を手にし、ガルゼフォードのもとに――否、カーラのもとに向かうことが出来たのである。


 さて、そんなメリルではあるが、中々お目当ての相手に出会うことは出来なかった。


 講義室から出るまでにかかったタイムラグが、カーラたちの姿を見失わせたのだ。

 しばらく塔内を探していた彼女だが、さすがにしらみつぶしで探すにはこの直径200メートル全長300メートの巨大な塔は広過ぎたため、途中で諦めガルゼフォードの暮らしている寮の部屋を目指すことにした。


 メリル自身も寮で一人暮らしをしているため、このまま帰ることを考え一度講義室に戻り「明日には状況をアレイン担当教官に連絡するので、そこから展開されるまで待って欲しい。今日のところは一度解散して欲しい」旨を伝え寮の自分の部屋に帰った。


 まず、寮に戻るやいなやメリルはガルゼフォードの部屋に向かい扉をノックした。

 返事がないことを確認し、一度自分の部屋に戻る。

 年頃の少女が暮らしているにしてはあまりに整頓され過ぎた、殺風景とさえ言える自室で椅子に腰かけたメリルは、自分の部屋だというのにやたらとそわそわしていた。


 ――駄目ね。高貴なる者が取り乱しては。10分待ちましょう。10分経ったらあのカーラという人の所に……いいえ、ガルゼフォード=マキシに会うために彼の部屋に向かいましょう。それまでは、いつも通り優雅に落ち着いて過ごせばいいわ。


 そんな内心の言葉とは裏腹に、そわそわそわそわと、落ち着きなく椅子に腰かけるメリル。

 時計の針が10分ほど進んだことを確認すると、恋人のもとに向かう年頃の少女のような勢いで部屋を飛び出しガルゼフォードの部屋まで向かう。部屋をノックする。返事なし。部屋戻る。そわそわそわそわ。

 10分経つ。

 部屋に向かう。ノック。返事なし。戻る。そわそわ。

 10分。

 向かう。ノック。なし。戻る。そわ。

 ……………………。

 …………。

 ……。

 ……。


 そんなこんなで、その日、メリルがガルゼフォードの部屋をノックした回数はゆうに2桁を超えていたのである。


 それでも、日も落ち、夜になり、若干疲れ始めたメリルが諦めずドアをノックすると、ついに中から返事があった。


 「……誰だ。僕は今忙しい。後にしろ」


 この第一声がカーラのものであったならば、仮に帰りを促すものであったとしても「やっと声を聞けた」という喜びの方が勝ったことであろう。

 だが、疲れ始めていたところに嫌いな相手が不機嫌そうな声音で「帰れ」と言ってきたのを聞き、メリルの方もやや苛立った。


 しかしそこは自らの行動に品位を求める少女。内心の苛立ちを感じさせない凛とした声で言葉を返す。


「わたしです。メリル=フォン=クラーゼです」

「……そうか。僕は今忙しい。後にしろ」


 漫画であれば額に怒りマークの血管が浮かびそうな表情のメリル。

 しかしそこは己の物腰に品格を求める優等生。内心の憤怒を押さえ込み生真面目な口調で言葉を返した。


「お話があって参りました」

「後にしろ」


 ……実際、メリルはアポなしで訪れた先に「忙しいから帰れ」と言われて一々怒りを覚えるほど度量の狭い貴族ではない。「そもそも予約も取らず急に訪れたこちら側に非がある」と考え、謝罪して引き下がる程度の良識は持ち合わせている。


 彼女がこんなに大人気ない態度を続けるのは、相手がガルゼフォードだからなのだろう。


「お願いします。お部屋に入れて下さい」

「帰れ」

「嫌です。わたしはわたしが納得するまで絶対に帰りません」

「いいから、とっとと帰れ!」


 メリルも自分の側に非があることは分っている。

 だが、大嫌いな相手に一方的に言葉をぶつけられ、黙って引き下がるのは悔しかった。

 そして何より――。


 ――あの人に会えない。


 メリルがそう考えた時、まさに脳裏に顔を思い浮かべた相手の声が彼女を救った。


「どうでしょうマスター、いったん彼女の話を聞いて差し上げては」


 冷たくも蠱惑的な女の声に、金髪碧眼の生真面目な少女は胸の高鳴りを覚えた。


 入室後のガルゼフォードとの問答で、いつも通りの苛立ちは覚えこそしたが、取りなすように発せられたカーラの言葉にそんなものはすぐに吹き飛ぶ。


「メリル=フォン=クラーゼ様。よろしければこちらにお座り下さい」


 金髪碧眼の生真面目な少女は自分の頬が紅潮するのを感じながら、気だるげにベッドに腰かける女の横に座った。

 チラチラと横顔を伺うメリルに対し、カーラは例によって路傍の石でも見るような無関心な視線を返していたが、それでも優等生の胸は不謹慎な鼓動を刻み続ける。


 その後の『トロールの反乱』に対するガルゼフォードの消極的な態度に、やはり普段彼と会話をする際と同程度の怒りを覚えたが、メリルが本当に感情的になったのはカーラが主を庇った瞬間である。


 ――なんで、この人はこんな奴の使い魔なのっ。


「情けない人ですね。自分の使い魔に守ってもらわないと、ろくに議論も出来ないだなんて」


 理性や理屈ではなく、感情から発露した言葉。

 メリルは自分が普段の自制心を失いかけていることに気付いていたが、横に座る女性のことを考えるとすぐにそんなことはどうでもよくなった。

 ガルゼが同意の言葉を求めた際に、カーラが沈黙を返した際など、得体の知れない快感に襲われクスリと微笑んでしまったぐらいである。


 しかし――。


「カーラ、お前は僕の使い魔だろうっ、ならば僕に従えっ、『トロールの反乱』を解決するんだ! これは命令だぞ!」


 その言葉を引き金に、部屋の空気が変わる。


「畏まりました」


 カーラが笑っていた。いつもの気だるげで冷たい微笑とは異なる、もっと毒々しくも華やかな魔性の微笑み。

 メリルはその姿に魅せられながらも、カーラがガルゼフォードの命令に従ったという事実に悔しさのようなものを覚えていた。


 だが、使い魔から従順な言葉を引きだし、満足気な表情を浮かべるかと思われたガルゼフォードは顔面を蒼白にしていた。


「……マキシさん、大丈夫ですか?」


 それは自他とも認めるガルゼフォードの天敵であるメリルをして、思わず心配してしまうような顔色の悪さであった。


「問題ない」


 断言するその口調は、まるで自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


「手は、考えているのかカーラ。魔物の軍勢を捕捉出来ない限りどうしようもないという現状に変わりはないぞ」


 自分で『トロールの反乱』を解決しろと言っておきながら、いささかどうかと思われる発言ではあったが、使い魔の女は悠然とベッドから立ち上がると、いつも通りの気だるげな微笑を浮かべて主に返事を返した。


 両肘を抱くように腕を組むその立ち姿に、大人の女性の知性と色香を感じメリルは思わず見入ってしまう。


「2、3やり方は考えています。計画の妥当性を検討する上でいくつか確認しておかねばならないことはありますが、恐らくは問題ないでしょう」

「……そうか。お前がそう言うのであれば、きっとそうなのだろうな」


 相変わらず顔を青くし覇気のない様子のガルゼフォードに、彼の使い魔は冷たいながらもどこか困ったような視線を向けていたが、ふいにメリルの方を向くと今度は彼女に話しかけてきた。


「メリル=フォン=クラーゼ様。マスターの方針に基づき私たちは『トロールの反乱』を解決します。ご学友の方々にもそう伝えて頂いて結構です」

「え、あ、はい」

「若干の前後はあるかもしれませんが、事件の解決には7日をかける予定です。そこから課題の期日まであまり時間がありませんが、そちらの方はどうにかなりますか?」

「だ、大丈夫です。普通は3日もあればどうにかなりますし、わたしが協力すればまず間違いなく達成可能です」

「そうですか。それは良かった」


 どうでも良い。そんな内心を感じさせずにはいられない、感情のこもらないカーラの言葉であったが、この期におよんでメリルはそもそも自分が何故この場所に来たのかを思い出した。


「あ、あの、『トロールの反乱』を解決されるのであれば、わたしもご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか! わたし、こう見えても魔術師としては結構優秀なんですよっ、使い魔のペガサスも戦闘はもちろん移動や斥候に使えて色々と便利ですし、絶対にお役に立てると思うんです!」

「ご厚意ありがとうございます。しかし、申し訳ありませんがお断りします」


 勢い込んで話しかけるメリルに、冷たい美貌の女は即答した。


「な、何で、ですか、マキシさんよりもっ、わたしの方が絶対にお役に立てますよ! マキシさんごときが一緒に行けて、何でわたしが一緒に行っては駄目なんです!」

「……おい」


 ガルゼフォードが顔色をやや回復させ、メリルを睨みつける。


「……何ですか?」

「お前は僕に喧嘩を売っているのか」

「何を言っているんですか? わたしはただ、事実を述べているだけでしょう」

「ふん。事実を言うのならカーラは僕の使い魔で、お前はただの部外者だ。それ以外に僕たちがお前を置いていく理由の説明が必要か?」

「ぐっ」


 二人の舌戦が過熱していく様子に、カーラは本日二度目の溜息を吐くと仲裁に入った。


「一応言っておきますが『トロールの反乱』を解決する際には、ガルゼ様にも待機して頂きますよ」

「何だと?」

「ふぇ?」


 心底馬が合わないはずの二人が、同時に疑問符を口にした。


「僕が一緒に行かなければ、Dランク以上のクエストを達成すると言う課題をクリア出来ないだろうが――いや、『トロールの反乱』を解決してから課題をクリアするつもりか? しかしその時点でお前はもう……」

「逆です、マスター」

「逆?」

「先に、比較的容易なDランク以上のクエストをマスターと一緒に達成します。その後、私が単独で『トロールの反乱』の解決に動きます。恐らくこれが、私にとってもマスターにとっても最良のやり方です。また、もし仮にDランクのクエストに挑んでいる最中に『トロールの反乱』が発生した場合は、その場は一旦引き下がりましょう」


 言外に足手まといと言われている訳だが、この時のガルゼフォードは何故か反論しなかった。

 メリルはその様子を不思議に思いながらも、カーラにとっては自分でさえ足手まといに過ぎないと言われた訳でもあるので少し落ち込んでいた。


「それでは、メリル=フォン=クラーゼ様。本日はご足労頂きありがとうございました。先に述べたよう7日前後で解決致しますので、それまでお待ち下さい」


 話をまとめに入るカーラ。

 気だるげに「解決致します」と断言したその様子に、意気込みや気負いのようなものは感じられなかったが、それだけに出来ることをただ出来るとだけ言っているような、そんな落ち着きがあった。


 本来であればメリルはここで引き下がっても良かったのだが、この日の少女は勇猛果敢であった。


「で、でしたらっ、わたしもDランクのクエストに一緒に連れて行って下さいっ。貴女が戦っている最中にマキシさんをお守りすることぐらいは出来ます!」

「……マスターの判断に委ねます」


 やたらと食らいついてくるメリルの姿に、カーラは若干不審なものを感じ始めていた。

 基本的に冷たい美貌の女は損得勘定で物事を考えるため、一見メリットが何もないように思えるメリルの行動の真意を測りかねたのだ。


 対するメリルは、カーラの返答に舌打ちしそうになっていた。

 カーラに対して苛立ちを覚えたというよりも、ガルゼフォードの判断に委ねられた場合、まず自分の同行を拒むことが目に見えていたからだ。


「ふん。考えるまでもないな。僕がその愚民に守られる必要などどこにもな――」

「マキシさん。ちょっとこちらに」


 金髪碧眼の小柄な少女は皆まで言わせず、ガルゼフォードを引っ張って部屋の隅に移動した。

 カーラの腰掛けるベッドから距離を取りたかったのだ。

 訝しげと言えば訝しげな、興味がないと言えば心底興味がなさそうな、そんななんとも言えない表情で二人の様子を伺うカーラに聞こえないよう、メリルは小声で話し始めた。


「マキシさん。これはチャンスです」

「チャンス?」

「そうです。ここで二人で協力していいところを見せれば、わたしたちのことを見直して『トロールの反乱』にも一緒に連れて行って頂けるかもしれません」

「見直す? カーラが、僕をか?」

「そうです。あの方が、『わたし』とマキシさんを見直してくれるんです」

「ふん。悪くないな」

「悪くないです。素敵なことです」


 二人のひそひそ話はカーラの耳に完全に拾われていたが、冷たい美貌の女自身、Dランクのクエストに挑む際のガルゼフォードの安全確保には少しだけ不安を感じていたので、メリルが同行するならばそれはそれで良いと考えていた。ガルゼフォードに話しを振ったのは、あくまで使い魔として主の立場を尊重したからに過ぎない。

 もっとも、どんな結果になろうと『トロールの反乱』に誰かを同行させるつもりなど微塵もなかったが。あまりにリスキー過ぎる。


「カーラ、決めたぞ。この愚民を一緒に連れて行く!」

「愚民ではありませんが、一緒に行かせて頂くことになりました!」


 良い笑顔で振り向いた二人に対して、カーラは内心「あれ、この二人って実は中がいいんじゃね?」とか思っていたが、外面的にはいつも通りの突き放す様な冷たい表情で「分りました。異存はありません」とだけ返した。


 Dランクのクエストには明後日から挑戦することに決まり、集合場所と集合時間を確認するとメリルは退室することになった。

 要件が済んだのだから部屋から出ていくことは当然と言えば当然なのだが、カーラの傍を離れることに名残惜しさを感じたメリルは「せめて最後にこれだけは!」とカーラに話しかけた。


「あ、あの、そう言えば自己紹介が遅れて申し訳ありませんが、わたしの名前はメリル=フォン=クラーゼと申します。モーヒス王国の12貴族が一家、クラーゼ公爵家の長女です。以後お見知りおき下さい」

「ご丁寧にありがとうございます。メリル=フォン=クラーゼ様」


 カーラの側には講義室で語った「ガルゼフォードの使い魔である」という以外の肩書がなかったので返事だけを返した。


「あ、あの私のことは、よろしければメリルとお呼び下さい!」

「分りました。それでは、メリル様と」

「はうっ! あ、あの、それではわたしの方もカーラ様とお呼びしてもよろしいでしょうかっ」

「ご自由にお呼び下さい」

「か、カーラ様……」

「何でしょうかメリル様?」

「はうぅぅっ!」


「おい、とっとと失せろ愚民」


 ガルゼフォードのそんな言葉に追い出されたメリルであったが、その日の夜はとても素敵な夢を見られたとか。



*********************************



 願い事三つ目、とったどぉーーーーーーー!


 まだ実際に願いを叶えた訳でもないのに、思わずそんな絶叫を上げそうになるぐらい昨夜の私はテンションが上がっていた。


 まあ、友人には「テンションが上がっている時のお前の笑顔は、明らかに快楽殺人鬼のそれだ。自覚しろ、そして自重しろ」と言われていたので、なるべく喜びが外に漏れないよう色々と自重はしていたが。


 魔人になって以来、私には人間であった時には感じられなかった二つの感覚があった。

 一つは『この世界の最強』としての感覚。

 講義室前での超聴覚や、トロールを惨殺した際の身体能力の制御がそれである。今まで自分では出来なかったことなのに『何となくこう体を機能させればこういう結果になる』というのが感覚で分るのだ。この感覚がなければ、急に筋力が数十倍以上になった私は真っ直ぐ歩くことにさえ苦戦したことだろう。

 そしてもう一つは『ランプの魔人』としての感覚。

 ガルゼの願いを叶えた際に感じた、何かが満たされた感覚がそれだ。誰に教えられたことでもないのに『そういうものなのだ』と理解出来た。


 そして今、私の中のランプの魔人として感覚は『トロールの反乱』を解決すればこの世界における私の役割が果たされることを教えてくれていた。


 テンションを上げるなという方が無理な話である。


 とは言え、昨夜一晩、図書館から借りた書物を漁った限りだと『トロールの反乱』の解決はそう簡単なことではなさそうなので気を引き締めねばならない。


 世界最強の肉体は睡眠を必要としないため、月明かりの下で一晩中情報収集に励めた私だが、色々とまずいことが発覚したのだ。


 まずは、Cランクのクエストをクリア出来る冒険者が逃げ帰ってくる『トロールの反乱』の危険度。


 冒険者の強さが大体どういった基準で分類されているのかを調べた際、最初は魔術師の位置づけに疑問を覚えた。


 一流の戦士と平均的な魔術師が互角とされていたのだ。

 RPGなどの感覚で言うと、相性の問題や若干の性能差はあるにせよ、同レベル帯のキャラクターで、職業によってそこまでの開きが発生することはない。

 30レベルの剣士と10レベルの魔術師では30レベルの剣士の方が強いはずなのである。


 では、そもそもこの世界における魔術とは何のか。


 魔術の入門書を呼んだ結論を言うと『鋼の練金術○』におけるそれとよく似た技術体系であった。

 魔法陣の記載内容に沿った効果が、言葉や動きを起因に発動するらしい。

 使い魔の召喚という魔術を例に上げると、使い魔を召喚するのは魔法陣による働きだが、契機は魔術師の言葉で、動力は魔術師の魔力ということになる。

 扉の鍵が魔術師の声を契機に施錠や解錠されるのも、鍵穴の内側に細かい魔法陣が刻まれているためとのことだ。

 ついでに言うと魔法陣の起動条件は融通がきくらしく、誰それの声ならば鍵が開くとか、指をパチンと鳴らせば鍵が開くとか、手をパンと合せると鍵が開くとか、色々好きに設定出来るらしい。


 また、本を読み進めるにつれ魔術師の実力が大きく2つの要素によって測られることを理解した。


 まずは『使う』実力。

 出力や使用回数を決める魔力の高さや、困難な発動条件を満たすための詠唱の上手さ、運動神経のよさが求められる。


 次に『作る』実力。

 より簡易な条件で、より強力な魔術を発動させるための魔法陣の開発は日々進んでいるらしく、こちらは数学的な才能や芸術的な才能が求められるらしい。


 平均的な魔術師が戦闘でよく使うという火の玉を飛ばす魔術などは、最低でも横1メートル縦2メートル程度の大きさの魔法陣が必要となるため、戦闘に向かう魔術師は大抵、長大な巻物を持ち運ぶとのことだ。

 人間を少し吹き飛ばす程度の風の魔術であれば、服の中に忍ばせることも出来る大きさに留められるが、魔物の息の根を一撃で止められるようなものとなると、どうしても嵩張ってしまうようだった。


 そんな魔術師が本当に戦闘で役に立つのか疑問だったが、そちらは魔物の図鑑を読み納得した。


 強いのだ。魔物は。

 そして、人間は弱い。


 私や私のベースとなったような奴は例外としても、この世界の人間の身体能力は私が元々いた世界のそれとそう大差ない。

 それに対しこの世界の魔物は、明らかに私の世界の野生の猛獣を凌駕している。体長5メートルの火を吐く狼とかが普通に存在しているのである。


 例えばジュラシッ○パークや、エイリ○ン、プレ○ターなどの映画で、近接武器しか持たない人間が「ここはオレに任せて先にいけ。奴らはオレが倒す(キリッ)」とか言ってもただの死亡フラグである。


 人間があれらのクリーチャーと戦うならば、最低限重火器で武装する必要がある。速さ以前に、攻撃の間合いと威力が必要なのだ。


 そう考えると、対魔物という意味では一流の剣士と二流の魔術師が同じ扱いであることにも納得がいく。


 魔術師は言うなれば重火器で武装した人間なのだ。火の球は手榴弾であり、氷の礫はマシンガンである。多少の機動力の悪さを差し引いても、その火力を外すことなど出来ないだろう。


 それらのことを踏まえ、私流に冒険者を格付けすると以下のような感じになった。


 Fランク:趣味で空手をやっているような人たち。

 Eランク:プロアスリートのような人たち。

 Dランク:軽火器を持っているような人たち。あるいはオリンピックで優勝出来るような人たち。

 Cランク:重火器を持っているような人たち。あるいはプレデ○ーと戦っていた時のシュワちゃん(素手)。

 Bランク:戦車とか戦闘車両とかに乗っているような人たち。あるいは沈黙のセガール。

 Aランク:戦闘機に乗っているような人たち。あるいは、何だ?

 Sランク:大量破壊兵器的な何かたち。


 うん。たしかに魔術師が魔術師と言うだけで上位にいくのも納得がいく。

 どれだけ鍛えられたプロ格闘家でも、重火器で武装した素人には普通は勝てない。

 Cランク以上の戦士とは、基本的に人間をやめているような連中なのだろう。


 さて、そうなると『Cランクのクエストをクリア出来る冒険者が逃げ帰ってくる』事態のヤバさもおのずと知れた。


 最低限、魔術を使えなければ(=銃器を使えなければ)話にならない。


 Dランクのクエストに挑むのに、一日のインターバルを空けたのは正しい判断だろう。

 一日魔術の勉強に励みたい。


 続いて理解した問題点は、ガルゼも懸念していた『いかにして魔物の軍勢を捕捉するか』である。


 私はある方法を使えば、魔物の軍勢を捉えることが出来ると考えていたが、予想していたよりもはるかに『トロールの反乱』が発生している場所は広大で、危険だった。


 ガルゼが整理した出没リストを見た際、魔物の軍勢の出没地点が中央に小山のある広い森の内側に絞られることは分っていた。

 その視界の悪さと広さ故に、トロールたちを捉えきれないことも理解していた。


 だが、地図を見て把握したその広さは約30平方キロメートル。山手線沿線を覆い隠せる広さの森なのである。

 その広大な土地の中には一部草原地帯や小山や丘も存在し、某狩人ゲームでいうところ森丘的な地形を形成している。もっとも夜になると極端に寒くなる気候なども踏まえると、小山の上の方などは雪山と言うのが正しいかもしれない。


 更に言えばその森は『魔物の森』と呼ばれており、『トロールの反乱』とは何の関係もない魔物も出没するという話である。

 小山といっても250メートルを超えるそこにはハーピーが巣を作り、森には昆虫型や亜人型、草原には動物型の魔物が生息しているという。

 冒険者が『トロールの反乱』の危険性を理解しながらも、未だにその森を訪れるのはそこに貴重な植物や鉱物、魔物の角や牙といった、彼等の収入源があるからだろう。


 うーん。

 普通に魔物の軍勢と出会う前に死ねる自信がある。やはり、いずれにせよ魔術の取得は急務なようだ。

 思うようにはいかないものである。


 そんな諸々を考えていたら、気が付くと朝になっていた。


 色々と解決しなければならない問題が出てきたが、それはそれとして定例業務もこなさなければならない。私は気持ちを切り替え日課に取りかかることにした。


 濡れたタオルを準備した私は、まずガルゼの枕元に近づいた。


 私の朝は、まずガルゼを起こすことから始まる。

 この街に戻るまでの道中で気付いたことだが、この青年は放っておくと中々自力で目覚めないのだ。

 昨晩などは私をどこで寝かせるかという心底どうでもよいことに悩み、就寝時間が遅くなっていたので、放置しておくとまず起きないだろう。

 寝場所の問題が、中々布団に入らないガルゼに理由を聞いた私が「自分は寝る必要がないので椅子だけ貸して貰えればいい」と彼に伝えた結果1分で片付いたことを考えると本当に無駄な夜更かしであった。

 もっとも毛布に潜る時のガルゼの何だか残念そうな顔を考えると、彼には彼なりの深い考えがあったのかもしれないが。


 まあ、街に到着するまでの野宿の際はこの地方の夜の寒さを考慮し、ガルゼが寝る時は彼の体に私の体を押し付けるようにして寄り添って寝転がっていたので、私が普段寝ているものだと勘違いしていたとしても無理はないか。


「マスター、朝です。起きて下さい」

「う~ん」


 やはり目覚めない。

 仕方がないので、私は彼の耳元に口を寄せ、囁くように言葉を続けた。


「ガルゼ様。もう朝です。お目覚めになる時間ですよ」

「う、う、う~ん」

「……ふぅ」


 中々目覚める様子がないことに溜息を吐くと、その吐息が耳に入ったのかガルゼがビクリと目を覚ました。


「おはようございます。マスター」

「う、うむ。おはよう、カーラ」


 眼前にある私の顔を見つめ、何故か顔を赤らめるガルゼ。

 まあ、気にしても仕方がないので、私はガルゼの反応をスルーして次の日課に取りかかった。


 私の朝二番目の日課は、濡れたタオルでガルゼの体を拭くことである。

 野宿を続けた経験がある者ならば分るだろうが、何日も風呂に入っていない人間とその者のまとう服はくさいのである。とても、とても、くさいのである。


 この街に至る道中、水浴びでもしたらどうかという私の提案に対しガルゼは「僕の辞書に水浴びという文字はない」と言い断固拒否していたので、我慢ならなくなった私は、寝起きの奴の服をむしり取り、その体を濡れタオルで拭くという実力行使に出たのだ。


 ちなみに魔人の体は汗をかかず、魔人の衣服は汚れを受け付けないという素敵な仕様となっているため、私自身は体臭に悩まずに済んでいた。

 ……時たま、人間の体の匂いとは思えないような、甘く蠱惑的な匂いが私の体から香っている気がするがきっと気のせいに違いない。


 話をガルゼに戻すと、本来であればこいつは昨晩風呂に入る時間と環境があったはずなのである。

 昨日のメリルちゃんから清潔な匂いしかしなかった以上、この寮には風呂か何か、体を清めるための施設が存在するはずなのである。


 しかし、私は迂闊にも契約者にそこに行くことを薦めるのを忘れてしまっていた。

 この臭いの契約者を風呂場まで歩かせるのも忍びない、というか通りすがりの人々に申し訳ない。

 であるならば、拭くしかないだろう。使い魔的に考えて。


 こう見えても私はボランティアとはいえ老人介護の経験があり、寝たきり老人の体を拭いたことも一度や二度ではない。

 ガルゼごときの体をピカピカに磨き上げることなど、赤子の手を捻るより容易いのだ。


 うおおおおおおりゃあああああっ。


 気合を入れて体を拭く。以前その様子を見た近所の爺さんが「なぜお主は、そんなに頬を上気させいやらしい顔でこんなジジイの体を拭くのかのう。わしにその気はないぞい」と心外極まりないことを言われたことがあるが、そんな発言を気にし仕事の手を緩めるほど私は弱い人間ではない。

 他人にどう思われようと、どう見られようと、果たすべき仕事は果たすのだ。


 ぬおおおりゃああああっ!


 ベッドの上に寝転がっているガルゼを、押し倒し馬乗りになっている様な体勢で奴の服を剥ぎ取りその体を拭く。まあ、今の私が女の体であることを考えると、見る者が見ればイヤらしい光景に映るかもしれない。

 だがしかし、ガルゼは私の契約者で、私はガルゼの使い魔なのである。これは言うなればただの作業なのだ。そこに、不純な感情が挿し挟まる余地などどこにもない。


 ガルゼの体の一部が大変なことになっているのは、あくまで朝の生理的な反応に過ぎない。男であった私は、特にエロい状況でなくてもその部分が勝手に元気になってしまうことぐらい当然理解していた。

 ふふ、案ずるなガルゼ。私は誤解したりしないさ。


「どうです、ガルゼ様。気持ちいいでしょう?」

「う、う、うむぅ」


 そうだろう。そうだろう。体の汚れが落ちるのは気持ちいいだろう。

 ならば今日からは風呂に入るがいい。


「では、今日からはご自身で体を洗って頂けますね」

「うむ?」


 取りあえず体を一通り拭き終わり満足した私は、ポカンとした顔のガルゼを残しベッドから離れ、濡れタオルを濯ぎに洗面所に向かった。


 ガルゼの部屋には生意気にも洗面所とトイレが備え付けられているのだ。これさえあれば、仮にガルゼが入れる風呂がこの寮になかったとしても自分の体を拭くぐらいのことは出来るはずだろう。


「おいカーラ、僕は水浴びをしないと言っただろう」

「ですが、この世界に体を洗う習慣がないという訳でもないのでしょう。昨日のメリル様からはマスターのような臭いはしませんでしたよ」

「何故そこで奴を引きあいに出す。お前はあいつの方が僕よりも優れていると言うつもりか」

「ガルゼ様、貴方の性格や能力に関して私が不満を口にすることはありません。仮に不足があるのだとすれば、それを補うのが使い魔である私の役割なのでしょうから。ですが、体臭というのはそれ以前の問題です。そんな臭いを漂わせていては人が離れていきますよ」


 私がそこまで口にすると、ガルゼは押し黙った。


 実を言えば、街で歩いていた平民たちは元より、講義室にいた貴族たちの中にすらガルゼよりもはるかに臭う人間が何人も存在した。そのことを考えると、現代日本人の基準でこの世界の人間の体臭を測るのが間違っている可能性は大いにある。

 同じ世界でさえ、中世のフランスの貴族などは滅多に風呂に入らなかったという話である。文化や文明が異なれば、その辺りのボーダーラインが異なる可能性はいくらでもあるのだ。


 そういった部分もあり、私は理屈でガルゼを納得させることを諦め力づくで体を拭いていたのだが、昨日メリルちゃんという模範例を見てしまいどうにも我慢出来なくなったのだ。


「カーラ、お前は誤解しているぞ、『悪魔』の基準で人間を測るな。貴族社会において一般的な話をすると――」

「一般論は存じませんが、体臭に関してだけを述べるならば、私がガルゼ様とメリル様のどちらのお傍にいたいかと言うとそれは間違いなくメリル様です」

「よし、風呂に行ってくる。少し待っていろ」


 それまでの断固とした拒絶が嘘のように、ガルゼは着替えを持って外に出て行ってしまった。


 今日の予定を話し合うつもりだったのだが……。




 結局、ガルゼが戻ってきたのはそれから30分後のことであった。



今回のお話はあまり展開が進みませんでしたが、次話からは段々と動き出す予定です。


……動き出すに違いないと作者は信じています。

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