始まり
ズシ、ズシ、ズシ・・・
深い森の中を3つの大きな影が移動していく
影の主は手には銃、背中には斧、槍や剣といった武器をそれぞれ背負っていた。
その体は角ばっているところが多く生物とは似ても似つかわしくない・・・
トライルブレイザー(trail-blazer 通称TB)呼ばれる人型機動兵器である。
未開地などで道しるべとなるように通った道に目印をつける者 開拓者という意味をもつこのTBは、
ここ惑星ドラコで生活していくためには人類にとってはなくてはならないものだった。
主に土木工事などの重機として使われるが、戦闘用としての活用を余儀なくされるのもここ惑星ドラコならではある。
「ふあぁ~。」
3体の中の黒いボディカラーのコクピットの中でロイドは両手を後ろに挙げてあくびを一つ。
もうかれこれ3時間、ずっと薄暗い木ばかりで思わずあくびが出てしまったのだ。
「おい、ロイド気を抜くんじゃねぇ!」
{おっと、わりぃ」
先頭を行く濃いブルーのTBからマイクホンに通信が入った。
・・・確か名前はダンだっけ?・・・
今回の仕事のパートナーの名前を思い出す。パートナーといっても今朝あったばかりなのだが。
ロイドはぐるっと頭部に付いたモノアイカメラを使い周囲を見渡すと背後には荷物を積んだトラックとその後ろにグレーのTBがモニターに送られてきた。
そう、いまはこの3人でトラックを護衛し、隣の開拓村フロンティアコロニーに無事に届けるその途中だった。
「結構楽だと思って受けた仕事なんだけどな、こうも退屈だと逆に疲れる」
そう口にながらも何も起こらずにすんなり終わってくれ、と思うのが本音だ。
いつ脇の森の中から巨大生物が飛び出してくるかわかったものではないからだ。
はるか故郷地球の優に10倍を誇る惑星ドラコは環境こそ地球と大差ないものの、その大きさゆえにここの生物はまったく異なる進化を遂げていた。
人畜に被害を及ぼす生物も少なくなく、日々危険と隣りあわせのなか人類はすでに300年この惑星に住み開拓している。ロイドは正直人類ってすごいと思う。
しかしこの過酷な環境のためにいまだ人類の手はその全体を把握するのに遠く及ばない。
・・・この間もどこかのコロニーが巨大生物によって壊滅したんだっけ・・・・。
モニター越しに通り過ぎていく木を見送りながらそんなことを考えていると
「そろそろ森を抜ける。」
グレーのTB、タッグから通信が入った。
森を抜けるとそこは切り立った崖だった。
「そこの崖沿いの坂を下りて川沿いに進めばコロニーだ」
「ならさっさと行こうぜ、早く冷たいビールが飲みたいぜ。」
トラックの運転手からの通信にダンがもう仕事は終わったとばかりにみんなをせかした。
坂を丁度半分折り終えたところだった。
ビービービー、
突然コクピットの中にエマージェンシーの音が鳴り響いた。
「西の上空から高速で接近してくる3つの巨大生命反応を確認、距離2000」
タッグの声に、光学望遠カメラで確認するとたしかに赤、緑、白の点が確認できた。ぐんぐん近づいてくる。
「こ、このスピードは、ドラゴンだ!」
みんなに戦慄が走る。
「待ち伏せを食らったてわけか、こんちくしょうめ!」
ダンの憤る声が聞こえる。
「森に逃げ込もうにも、ここじゃUターンできない!」
ロイドは退路を探すが周りには切り立った崖と岩壁しかなかった。
「しかたねぇ、しんがりは俺とロイドが務める、タッグはトラックを護衛しろ!行け!」
ダンの指示に、トラックはスピードを上げて坂を下りていく。
それを尻目にロイドは覚悟を決めて手にはめたガントレッドを握り締める。そして
セーフティロック解除!
頭にあるサークレットがロイドの思考を読み取りTBの手にあるライフルのセーフティーを外す。
もうすでに300の距離まで近づいていたその姿にごくりとつばを飲む。
大きな翼を持ち鋭い爪の付いた四肢をもつ頭に2品の角を生やしたその姿は正に地球史のおとぎ話にでてくる伝説のドラゴン、真にそれだった。
ドラゴン・・・
人類がこの惑星ドラコで初めてコンタクトを取った先住知的生命体だった。彼らはその容姿からは想像ができないほど、ものすごく穏やかな性格で慈愛に満ち、宇宙を漂流してきた人類を暖かく迎えた。
そして人類にとって過酷なこの星に安全な居住地を提供し、そればかりでなくこの星で生きていくのに惜しみない協力をしてくれたのだ。いま人類がここでこうしていられるのもドラゴンの力添えがあってこそだったのだ。
人類はその地に惑星中央政府を建立、開拓の拠点としてドラゴンと共に新たなその一歩を踏み出した。しかし、ドラゴンの骨からドラゴニウムというレアメタルが発見されたのを期に、お互いの関係は一変してしまった。
開拓によってどんどん発見される未知の物質のなかでも無限の可能性と多様性を秘めたドラゴニウムはまたたくまに人類の心を鷲づかみにした。そしてドラゴンの骨だけから取れるという希少性とそれにましての需要の向上によって価値はあっという間に上昇し、今までは屍から取っていたが、一攫千金を夢見てわざわざドラゴンを密漁して骨を手に入れる者まで現れ始めた。そしてとうとう度を越した人類に対してドラゴンの長が怒り悲しみの果てに、人類に対して全面戦争を宣誓。惑星中央政府は事態を収集しようとしたが時すでに遅く、応戦するしかなかった。そうしてもう30年過ぎようとしていた。
「先制された!」
先頭の白色ドラゴンの口からゴゥゴゥと火球がうちだされこっちに向かってくる。
ロイドはすばやく左肩を前に突き出すようにイメージした。
それに反応し、TBの左肩に付いたシールドが展開され、ガードの姿勢をとる。
直撃はしなかったもの、背後の岩壁が吹き飛び砂埃を上げる。
「ええい、こなくそ!」
ダンのTBがその青いボディを硝煙につつませながらドラゴンに向かってマシンガンをぶっぱなす。
ズガガガガガガ
しかし、ドラゴンたちはあぜ笑うかのようにその弾をひらりと空中でよけていった。
ロイドもライフルで応戦するが、ただ無駄に空の薬莢を増やすばかりだった。
こうもひらりひらりとかわされてはまったく当たる気がしない。
ハンターを生業として幾度となくこの惑星の大小様々な生物と渡り合ってきたロイドだったが、ここまで素早くそして無駄のない動きをするものと戦うのは初めてだった。
もちろん知識と写真でドラゴンはどういうものであるかは知っていた。
が、
実際に対峙することで、その知能の高さと強さを痛いほど実感した。
2度目の火の球ブレスを白いドラゴンが打ったときだった。
緑色のドラゴンが坂を下っていくトラックに気がつきそれを追おうとした。まだ底に着くには距離がある
「そっちには行かせねぇ!」
それを見たダンが弾が切れたライフルを谷底に放り投げ背中の斧を手に取るとバーニアをふかして崖に躍り出て緑色のドラゴンに切りかかった。
ガキィンー
かばうようにして立ちふさがった青いドラゴンが前脚に付いた爪で斧の刃を受け止める。
これ幸いと緑のドラゴンはトラックを追う。
「まだ、俺がいるぜ!」
ロイドはTBの背中のバスターと呼ばれるダンビラの剣を前に突き出すように構えるとバーニアをふかし緑のドラゴンに突撃した。
しかし捕らえる前に今度は白色のドラゴンに前をさえぎられてしまった。
尻尾をムチのように振るう。ロイドはそれをかわそうとして身を捻ろうとした。
しかしここは空中ー。
ロイドの思念に機体が反応できず思うように動かない。
がぃぃいいん
剣を使ってその尻尾を受け流そうとしたが、体制が不安定なこともあり、受け流しきれなかった衝撃がコクピットを揺さぶる。
モニターに各駆動系に生じた異常箇所が映し出され、それを知らせるアラートがビービーと鳴った。
「うぁあああ」
横を見ると崖に押し付けられたダンのTBがドラゴンに足と片腕を引きちぎられていた。
「ダンー!」
助けに行こうにもこっちは尻尾の攻撃をしのぐので手一杯。
「ダン、脱出するんだ!」
ロイドは必死に声をかける。
「くそ、そうしたいんだが、ハッチがゆがんじまって開かねぇ。」
ガシガシとコクピットに噛り付き、鋭い牙でこじ開けようとするドラゴン
「ふ、俺もここまでのようだな、まぁビールは天国で飲むとするか。」
「ダン、何言ってるんだ!」
「ドラゴンがここまで強いとはな、正直お手上げだぜ。でもな、でめぇも道ずれだこの糞ドラゴン!あの世でたっぷりお酌しやがれ!」
ぐっとドラゴンの首に回したTBの手の中には手榴弾が握られていた。
次の瞬間、激しい爆発音と共に爆風がロイドを包み込んだ。
「ダンー!」
と、バーニアが活動限界を迎えTBがガクンと降下する。
「やばい!」
とっさに腕を伸ばし掴んだのは、爆風にあおられ体制を崩した白色のドラゴンの尻尾だった。
ギャウウウ
突然のことに叫ぶドラゴン。
ロイドを振り払おうとしたが、激しくたたきつける爆風で逆にもつれ合ってしまった。
必死になってロイドを引き剥がそうとドラゴンはもがくがうまくいかず、体制を崩しロイドの乗ったTBもろともに谷底に落ちていく。
「く、くそう・・・・」
急降下を知らせるアラートが遠ざかっていくのを感じながらロイドの意は闇に沈んでいくのだった。
初作品の初投稿です。いろいろ御指導、ご指摘いただけたらうれしいです!
頑張って連載していくので宜しくお願いします。




