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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その目の先に

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 あいつ、いったいどこを見てるんだ……と思うこと、日常でないかい?

 別にエッチな意味ばかりとは限らない。あさっての方向を見ていたり、やたらと一点を凝視してみたり。他のみんなが別のことをしているときに、ひとりだけこんなことをしていると、結構目立つものだ。

 それも観察する側が気をつける神経があってこその話だけどね。何かと自分のことへ意識が向きがちな現代だと、注意する人も少ないかな。情報網によって自分がどのように思われているか、たちまちに赤裸々にさらされてしまう恐れのある今だとね。

 自分の足元へ気を配りたくはなるけれど、そうしたら飛んでくるデッドボールをよけられない。しかし、向き合っていれば必ずボールをかわせるかというと、そうとも限らない。

 中には自分に都合のいいものを見逃さないようにすることも大切かも。

 僕の昔の話なのだけど、聞いてみないか?


 最初にそれに気づいたのは、学校の学活の時間だったな。

 文化祭の出し物だかを決めている時だったと思う。当時の定番は演劇かお化け屋敷かというところで、早々にその二つが出てしまうと、あとはもう他の案が出てくることはなく。えんえんと両者の派閥によるディベートが繰り広げられることに。

 しかし、まことに熱をもって取り組んでいるのは、ごく一部の者のみ。僕を含めた大多数はまともに意見を言わないまま、決選投票にうつるのをダラダラと見守っていた。

 先生もいる手前、あまりにだらけきったところは見せなかったが、それでも適当にノートや教科書、筆箱うんぬんをいじったりと落ち着かない雰囲気があったよ。


 その中にあって、ひとりだけ。

 議論に参加こそしないが、じっと一点を見つめ続けて動かない。かけている眼鏡がわずかにずれたが、いつもだったらすぐに直すそれに手を出さず。彼は10分ほど、不動を貫いていたんだ。

 ずっと彼を見ていたわけじゃないから定かじゃなかったけど、彼はまばたきさえしていないように思えたよ。「いったい、なにが見えるのだろう」と彼の視線をそっと追ってみたけれど、せいぜい黒板上にかけられた時計があるくらいだった。

 彼に尋ねてみたけれど「分からなかったのかい? だったら、いえないな。ちょっと説明しがたいものだから」と断られてしまったよ。


 出し物はお化け屋敷に決まり、それから当日までの期間で必要になる道具たちを用意することになる。

 彼も僕と同じ教室の作業組なのだけど、やはりときどき、一点を見つめて動かなくなってしまうときがあるんだ。

 声をかければ、いったんは仕事に戻ってくれるけれど、ちょっとスキを見せるとまたそちらを向いてしまう。例の時計の方角ばかりとは限らず、教室内外を問わずに目を向けているが、やはり何をその先にとらえているか判断がつかずにいたよ。

 そうこうしているうちに、彼は眼鏡をはずして登校してくるようになった。これまで一度もなかったことだから、僕以外の数人も意外に思ったよ。

 コンタクトにしたのか、とも尋ねてみたけれど、やはり彼の返答ははっきりしないもので。虚空の一点を見つめる頻度も、日に日に増していったよ。


 そして、忘れもしない。文化祭三日前の放課後だ。

 おおよそお化け屋敷の装いも整ってきて、最後の仕上げに入っている。例の彼と2人で室内で作業していたのだけど、僕はちょっとトイレに立った。

 すぐに用を足して戻ってきたけれど、そのときにはまた彼は変な方向を見ていたんだ。

 今度は、身体はこちらへ向けたまま、首だけできる限り振り返って、背後を見つめていたよ。

「またか」とも思い、「そんなに見たいならちゃんと向こうを向けばいいのに」とも思いながら彼に寄っていこうとしたんだけど。


 彼の両目のある位置から、ぽろりと落ちたものがある。それも二つ。

 ぺちゃりと音を立てて、床を転がったそれは、あっという間に黒ずんで床へ溶けていってしまったけれど、僕の見間違いじゃなければそれは顔におさまっているべき……!

 慌てて声をかけるも、「どうかしたかい?」と振り返った彼の顔は、普段通りの裸眼。僕が懸念していたような、一対の空洞は開いていなかった。

 それから文化祭を迎えても、その後も彼が眼鏡をかけることは、卒業まで一度もなかったんだよ。

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