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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第2部:才能の値段 第1章 輪を広げる 高等学校二年生〜黎明祭編〜

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第99話 気づかないふり

 正直そこからの三日間は戦場だった。

 審査員候補の洗い出し。基準の策定。

 開催日を二月十一日に定め、逆算された予定表が机を埋める。

 そして私はというと――


「セレナ嬢、手持ち無沙汰みたいだね」


 王城の仕事を終えてこちらへ遊びに来たカイル様に声をかけられる。

 そりゃみんなが机を挟んでああでもない、こうでもないと議論している中、隅っこの椅子に座って足をブラブラさせていたらそうも言われるだろう。


「今はやることがなくてつまんないです」

「ハハハッ。セレナ嬢らしくない言葉を言うじゃないか。それじゃあ少し私の話を聞かせてあげよう」


 カイル様は手近の椅子を引っ張って私の隣に座る。


「私の家は三人兄弟でね。下に弟が二人いるんだ。セシルとレオン。二人ともとても優秀な子たちさ」

「あ、レオン様は昔一度だけお会いしましたよね? 元気そうな方で、いきなり握手されてびっくりしたから覚えてますよ」

「ふふ、そうだね。セシルは魔法、レオンは剣術、私はどちらも彼らに負けていて、とても悔しい少年時代を過ごしたものさ」


 そうは言いながらも顔に悔しさは全くなく、むしろ誇らしそうな笑みすら浮かべている。

 きっと今は、誇れる弟たちなのだろう。


「だがね、私の目の前には、このアドルフォス家を継ぐという道がすでに敷かれていた。私にはここを突き進むしかない。一時は弟たちを恨んだこともあったよ。なぜ生まれた時期の違いだけで、あいつらはあんなにも自由なのか、私には選ぶ自由はないのか、とね」


 私はふと気になったので素直に聞いてみることにした。


「私から見ると貴族様って爵位とかに縛られて、そんなに自由でもなさそうですけど、意外と自由な面もあるんですか?」

「グレッダ殿がいい例じゃないか。彼は伯爵家当主でありながら、冒険者ギルドの監督官でもある。冒険者の時のグレッダ殿はとても自由そうだろ?」


 と返してきたが、私の中でグレッダさんは貴族半分、もう半分は親戚のおじちゃんみたいなイメージだから、ちょっと一般的な貴族の例には当てはまらない。

 そんなことを告げると、カイル様は一瞬だけ目を細めた。


(やばっ、さすがに馴れ馴れしすぎたか?)


 緊張に身が固くなる手前で、カイル様は今度はやわらかな表情を浮かべる。


「そうか、そうだね。私の頭がまだ固いのかもしれないな」


 すると口に人差し指を立てて、


「これは内緒だよ? 私はいずれこの国から貴族制度を撤廃したいんだ」


 なっ、なんてことをっ!

 あなたが何を思っても構わない。

 なぜそんな爆弾発言を投げるのっ!

 巻き込まないでっ!!


「え、えーと、てっぱい? 鉄板焼きですか?」


 誰が聞いても無茶な例えだと分かってはいるが、私は聞かなかったことに全力を尽くす。

 これを受け止めたら、後戻りできない。

 頭の中で澪も逃げろーって言ってるし。


 するとカイル様はイタズラっぽく笑うと、


「今はそれでいい。……私が君に話した。この事実こそが大切だからね」


 その言葉には答えず、ただ微笑む。

 口を開いたら余計なことを言ってしまいそうだ。


 カイル様は椅子から立ち上がり、


「セレナ嬢、覚えておきたまえ。君は自ら望んで上に立ったのではない。皆に望まれて立たされたのだ。そういう人物は強いよ? 何せ、望んだ皆が味方についてくれるからね」


 そう言って私の肩に手を置く。


「一つ一つの繋がりを大切にね。それがいずれは君を助けてくれるかもしれないのだから」

「それがカイル様を助けてくれるかも? も、期待してますよね?」


 そう言うと、カイル様は私の肩から手を離し、大きな笑い声をあげる。

 周りのみんなが思わず振り返ったくらいだ。


「これだから君は面白い。庶民を侮ってる古い連中に今すぐ紹介したいくらいだ」

「嫌ですよ、めんどくさい。多少は慣れているとは言え、カイル様やオーギュスト様だってまだまだ緊張するんですから」

「緊張する相手にその物言いが出来るのが楽しいんだけどね」


 すると少し真面目な顔に戻って見つめてきたので、私も思わず椅子から立ち上がる。


「今回のことについては全面的に協力するから、困ったことがあれば遠慮なく言ってきなさい。これについてはグレッダ殿を経由せず、直接私へ連絡をくれて構わない」


 ……この人、本気だ。

 この祭りは、ただの祭りじゃないのかもしれない。

 いや、気づかないふりをしておこう。

 その方が、きっと私にはやりやすい。


「分かりました、ありがとうございます、カイル様」


 深々と頭を下げると、カイル様は去っていく。……本当に、疲れる人だ。

 するとアミーカが近づいてきた。


「セレナ、そろそろ夕ご飯のお時間じゃない?」

「ん? あ、そうだね。じゃあ今日はお開きかな」

「じゃなくてね、あの……」


 そう言ってチラッと振り返る。

 視線の先にはオーギュスト様。

 ははぁ、また食べたいんだな?

 でも私よりアミーカの方が慣れてると思うけど、なんで私に?


「あのね、私たちの低温蒸し、形としてはオーギュスト様たちが無理やり抑え込んじゃったじゃない? だからせめて今の作り方を教えるから、一緒に見に来なさいって」


 うわぁ、すごいご招待!

 アミーカは一度オーギュスト様と料理を作ったことはあるけど、私は専門外だからと遠慮していた。

 今回はあの時の贖罪として見に来ていいって、どんだけ器の大きな人よ。

 こういう人ばかりなら、貴族という制度も悪くないのかもしれない。



 よし、ここで覚えて、次は私が驚かせる番だ。

 少しは女性らしくなったと、思わせてやらないと。


 貴族制度撤廃とか、えらい野望を語ってくれたカイルですが、こんな話聞かされたらセレナでなくとも逃げ出しますよね?(笑)


次回、第100話「舞台に立つということ」


 王都最終話になります。今回はお別れシーンはなしで。王都での最後のシーンを、どうか見守ってあげてほしいです。



 こそっと今回みたいに聞いちゃった内緒話。あなたなら


①言われずとも黙っていられる

②「ここだけの話だけど」と、つい言っちゃう


どちらのタイプですか?

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