第98話 黎明祭(プリマルクス)
図を書き終えた私が顔を上げると、一様に微妙な顔をしていた。
唯一カイル様だけがとても楽しそうにニコニコしているので、おそらくこの人にはこの図で何をしたいかが見えてるのだろう。
「じゃあ説明しますね。まず、対象はアミーカ案を取って十三歳から十五歳。全て個人戦にします。それ以上の年齢はまた別途勝手にやってください」
そう言って私は各都市の名前を書いた四角を次々に指していく。
「共通ルールはこちらから出しますが、その他ルールの追加や何を重要視するかは各都市に任せます。そして、参加者はその都市に属す者でなくても構いません。自分に有利と思われる都市から参加申し込みが可能です」
なにか言いたげなマリーナをいったん手で制し、
「質問は後でまとめて聞くね。……で、各都市で優秀な成績を納めた上位三名が王都で行われる決勝大会に進めます。もちろん王都でも予選はやりますからね?」
「で、そこで各部門上位三名を選出して表彰。ここからが新しいところだけど……表彰後に魔導具や調理の貴族向けのものを披露する時間をとります」
そこでカイル様が手を挙げた。
これはさすがに制することは出来ない。
「なぜ、別に披露を?」
「だってみんな知らないからですよ。ウルヴィスだって貴族向けのものなんてほとんど取り扱ってないのに、そこと勝負するって意味ないですよね?だから、形としては王都の貴族様に教えていただくという形を取ります。これなら体面潰さないでしょ?」
「なるほど、うまくプライドをくすぐりながら、勝負の邪魔はするなと、体のいい厄介払いをするわけだね」
「貴族様本人からそう正直に言われるとちょっとあれですが……まぁ、そういうことです」
私はみんなを見渡す。
納得してる顔もあれば、何か言いたげな感じもある。
「はいっ、それじゃあここから質問タイム。何かある人―?」
これにマリーナが手を挙げる。
「これさ、誰が審査するの?貴族ではないとしたら、ある程度みんなが納得出来るような人選をしないと、かなりつまづく要因になりそうだけど?」
「あ、審査員は知らない。各都市で勝手に決めて」
「えっ!?」
私の返答に「また適当な……」と言いたそうな表情が返ってくるが、私だって別に考えなしに言ってるわけではない。
「さっき言った通り、共通ルールは作りながらも各都市ごとの色を出すのは構わないから、そうするとこちらから審査員を選出しても審査しきれない可能性があるでしょ?だから各都市がそれぞれに沿った審査が出来る人を選んでもらいたいってことよ。もちろん審査員のジャッジは大会委員会でやるよ?」
「誰なの、そのジャッジ役って?」
「私とグレッダさんにカイル様。……オーギュスト様はそんなヒマないですよね?」
私が話を振ると、髭をしごきながら
「そうですなぁ。私は王城の料理を作ることに加えて各調理師ギルドの監督などありますから。以前のように一日だけの審査員ということならともかく、数日にわたってとなると厳しいでしょうな」
そう返答する。
もちろん最初から期待はしていない。
公爵様がこんなところにいてくれること自体がとんでもないことなのだ。
これ以上は求めすぎだろう。
「アミーカ嬢で良いではないですか」
オーギュスト様の突拍子もない発現に全員、特に名指しされたアミーカが椅子から立ち上がる。
「なっ、オーギュスト様、それは……」
「まあまあ。私とて適当に言っているわけではないですよ? 仮にも高等学校のコンテストで二位につける実力者です。貴族相手の審査員を――とのことなら文句も出るでしょうが、一般国民なら十分ではないかと思うわけです」
なるほど、一理ある。
……あれ、そういう理屈でいくと?
「もしかして私の方が危ないですか?」
「そうですなぁ。セレナ嬢の力はこの場の三名は知ってますが。何か外に示せる実績はないですかな?」
実績? えーと、実績?
私はグレッダさんへ、
「グレッダさん、蒸気のゆりかご返して!」
と、突っかかるが、
「それは無理だ。すでにうちの製品として売り出して、かなりの売上を上げている。ルキウスにだって売上の一部を渡してあるぞ?」
と言われてしまった。
何それ、聞いてないっ!
パパとママを見ると、明後日の方向を向いて何やらブツブツ呟いている。
絶対このままヴェルダになんか帰さないからねっ!!
だけど実績かぁ。
すると悩む私の横からカリウスが口を挟んできた。
「あの同時制御は実績にはならんのか? レオニス先生の話を鵜呑みにすれば、ベテランの魔導具師がようやく身につけられる、挑める技術なのだろ? 実績としては十分と思うが」
「それでいいならさ、私じゃだめかな?」
突如マリーナが手を挙げる。
少し遠慮がちに挙げられた手とは裏腹に、その瞳には強い光が見て取れた。
「マリーナ、何で?」
するとツカツカと私の隣に歩み寄り、私の背中をバンと叩く。
「セレナは頑張りすぎなのよ! あなたは何? 魔導具師でしょ。なのに最近は魔導具と関係ないことばかりで頭使って。少しは私たちを頼りなさい。何のための『嵐の五人組』なのよ!」
これにはアミーカ、パパ、ママ、グレッダさんが吹き出した。
「アーハッハッハッ! つ、つむじ風の次は嵐の五人組だって。どんだけ風好きよ。イーヒッヒッ……アタタタ、お腹痛い」
「こ、こら、笑いすぎだぞ、マリー」
グレッダさんとアミーカを見ると、二人は頑張って顔を固めているが、全身が震えてるので、我慢してるのが丸わかりだ。
「ちょ、ちょっと横槍入ったけど、そういうことよ。セレナは今回のイベントでは実務禁止! あなたは頭に立って私たちを動かしなさい。工房を持つ夢があるなら、人を動かすことも覚えなさい」
耳に痛い正論が突き刺さる。
けど同時にマリーナの気持ちが胸を温めてくれる。
「分かった、そうするよ。カイル様もそれでいいですか?」
「ああ構わないよ。今回は私は名前貸しだと思ってくれ。実務は君たちとグレッダ殿に任せる。もちろん困った時は頼ってくれて構わないがね」
人を使い慣れてるなぁ。
マリーナが言ってるのはこういうことか。
よぉーし、
「じゃあマリーナはグレッダさんとアミーカと、審査員をジャッジする基準を作って」
そう三人に呼びかけて再び私は額をトントン叩き始める。
今は7月末。
ここから呼びかけて参加者を募り、審査員を選定して、地方大会を開催。
王都に代表を集めて、貴族のご機嫌をとって……。
「カイル様、開催は来年2月はどうです?」
「今回の参加は各大都市の在住者が、その都市の大会にのみ参加出来るという条件をつけるなら構わない。周辺都市からの参加も不可だ」
「それだと――!」
スッと目を細めるだけでカイル様は私の口を閉じさせた。
「分かってる。今回は――だ。セレナ嬢はこのイベントを一回で終わらせる気はないのだろう?」
「もちろんです!」
そしてふっと視線をやわらげ、
「ならば最初は少し不満が残るくらいでとどめておきなさい。翌年は周辺都市からの参加も認める。その翌年は街や村を含めてその地域からの全参加を認める、そして都市間移動と」
「そうすることで、参加者はこのイベントが毎年良くなっていると息づいて見えてくる。文化を根付かせるのならば急いではいけない。花を育てるように、根気よく、ゆっくりだ」
すると今度はオーギュスト様が私だけではなくアミーカやみんなに向けて話しだす。
「カイル殿の言うとおりです。何か大きな事を成したい時はつい急ぎたくなります。高く飛ぶ時は一度身を屈めなければいけないでしょう? それと同じです。屈むことも飛ぶことと同じくらい大切になさい」
……深いなぁ。
二人とも懐が深い。
私はひたすら突っ走って、つまづきそうになったらその都度バランスを取って、一歩でも前へと進んできた。
けれど彼らは言う。
我慢をして進まない勇気もあるのだと。
それが正しいかどうかは正直分からない。
でも、私の心を強く叩いたこの衝撃は、それが信じるに足るものだと言っているかのようだ。
「分かりました。では今回はその条件で。マルクス達、頼めるわね?」
「任せてよ!」
なんでリディアが返事するのよ。
まあいっか。
私たちらしいやり取りだ。
「あと、そこの保護者二名は事情聴取があるので、この後必ず残ること!」
ここに釘刺しておかないと逃げ出すからね。
「それで、セレナ嬢。この新しいイベントはなんと名付けるつもりだい?」
「名前、そうですねぇ……」
すでに働いてる人もいるとは言え、まだまだ社会では下働きみたいなレベルだろう。
それなら私達はまだ輝きを放つ前の人材。
その中で輝くきっかけとしてのイベントになってくれたらいいな。
「……黎明祭。これで」
その名前を口にした途端、部屋の空気が一段和らぎ、誰もが口の端を緩めた。
私にはそんな風に感じられた。
私たちを積極的に使えというマリーナの言葉は、置いていくなという彼女からのメッセージでもあります。
次回、第99話「気づかないふり」
動けなくてヒマをもて余すセレナへカイル様が近寄り、色々な話をしてくれます。その中にはやめてっ!と言いたくなるものもあり……。
自分が動いた方が速いと、つい動いてしまうことありますよね?
あなたは部活やバイト、仕事でその立場に立った時、
①グッと我慢して教えることが出来る
②隙を見てついやっちゃう
どちらのタイプですか?




