第95話 評価の席へ 前編
初日に通されたフォルティウス邸の客間へと案内される。
前を歩いてるのでよく見えないが、少なくともカイル様の顔は厳しいものではなく、笑顔のように見える。
(ただ、この人ママと同じレベルで役者だからなぁ……)
見えたものが正解ではない面倒さは、残念ながら身内から一番よく教えられた。
ふと振り返るとマリーナ達の後ろにパパとママもついてきている。
七人を相手にしてなお、余裕を崩さない歩き方。それは貴族社会を乗り切ってきてる自信の表れか、それとも……。
そしてついに客間に着いた。
奥のソファにカイル様が一人。私たち五名が手前のソファ、パパとママは脇に用意された椅子に座っている。
グレッダさんはカイル様の横の椅子だ。
ソファ二人で座ればいいのに、もったいない。
「さて、早速聞かせてもらおう。そこの四名は何だね?」
足を組み、こちらを見下すような視線で見つめてくるカイル様。
その視線ひとつで私は気圧されそうになる。
「わ、私の高等学校の仲間です」
「この場にいる理由は?」
「彼らは私の事情を知ってます」
「私に断りがなかったようだが?」
「どうせ、もう知ってるんでしょ?」
ここで初めて私は反撃に出る。
そう、この間見下すような視線や偉そうな態度を取りながらも、話すほどに口元が緩んできている。
この人は『偉い貴族』を演じて楽しんでるだけだ。
「ふぅ。やっぱり分かるかい?」
「そりゃあ、そんなに口元緩んでれば」
「私もまだまだかな、グレッダ殿?」
その言葉にグレッダさんは苦笑で答える。
「どうせ隠すつもりもなかったのでしょう?」
「まあね。子どもを脅す趣味はないからさ」
私もつられて苦笑いしつつ、
「で、別に貴族見てみんなで指さして笑おうって連れてきたわけじゃないんですよ」
「ほう、それじゃあどういう理由で?」
「怖かったからに決まってるでしょ!」
私が少し強めに言うと、カイル様は少し驚いた顔を浮かべる。
「高等学校受験前に、当然合格するだろうと贈り物送ってきて、しかも成果を期待してるとか脅迫状を送り、この間来たグレッダさんから気にかけられてるとか聞かされて、庶民からしたら度々喉元にナイフ突きつけられてる気分なのよ!」
「おお、それは酷いな。いったい誰がそんなことを?」
「あ、な、た、で、す!」
この間みんなの顔がひたすら青ざめていたらしいが、真横の私からは全く見えなかったので、仕方ないよね?
「アハハ、卒業祝いは確かに少し期待をかけすぎたけど、後者はグレッダ殿が気を利かせてくれただけさ」
「三日と空けず話題に出されたら気にもしますよ」
そうか、あれ以来、たぶん王都で大した開発がなされてないんだ。
少なくともカイル様の心が動くような。
それで最後に心動いた私に期待が乗っかってきたというわけか。
なんてはた迷惑な。
「さすがに私だって新しい魔導具なんて考えてないですよ? 何せ放課後は冷血メガネの意地悪教師にいじめられてますから」
「ほぅ、セレナ嬢をいじめるとは大した度胸だが、いったい誰かね?」
「レオニス先生って、三年前? までは王都で一番の魔導具開発者って言われてた人」
カイル様はしばし考え込むように目を瞑り、突然目を開いて指を鳴らす。
「レオニス! 彼も楽しい人材だったな。彼がいなくなってから王都の開発シーンはとてもつまらなくなってしまってね。そうか、ウルヴィスにいたのか」
とても楽しそうな笑顔だ。
レオニス先生ごめん。
私のせいじゃなくて元々目付けられてたみたいだから、責めないでね。
「で、そこの四名はセレナ嬢に頼まれただけの可哀想な仲間たちということかね?」
「そんなつまらないのはカイル様だって嫌でしょ? 彼女たちだってレオニス研究室の仲間なの。高等学校生としての腕前を見て上げてほしくて」
「なるほど。ちょっとした売り込みってやつだね。だが私がそうやすやすと他者を認めるとは思わないことだね」
私はグレッダさんに目配せすると、用意していた素材を並べてもらう。
そこにあるのは先日冒険者ギルドの工房で出会った光るオルゴールの魔導回路用の素材。
「セレナ、これって……?」
マリーナの問いかけに私は初めてみんなに告げる。
「さ、いつも通り、光るオルゴールの焼き付けをカイル様に見せよう。私はみんなを道連れとしてだけで連れてきたんじゃない。侯爵家次期当主だって目を見張る腕だと認めさせるために連れてきたんだから」
そして私は手を前に差し出す。
これはこの前、澪に教えてもらった、みんなで一つになって頑張ろうという合図らしい。
「はい、私の手の上にみんなも手重ねていって」
マリーナ、カリウス、リディア、マルクスの順で手が重ねられてく。
「最後、私のオーって言葉の後に、みんなも大声でオーね。声小さかったらやり直させるから、覚悟してよね」
「それじゃ、あの冷血メガネに帰ったら自慢するわよ。侯爵家次期当主も認めた腕だってね。頑張りましょう!オーッ!!」
「「オーッ!」」
(青春だねぇ)
(こら、澪。あんたはおばあさんかっ!)
(ひどーい! ……頑張ってね。みんなには今、セレナが頼りなんだから)
その声に私は一人うなずき、配置についたみんなをあらためて見回す。
「みんな、ここはいつもの研究室と思って。あのレオニス先生がいないってだけでだいぶ気楽でしょ?」
そう言って笑いかけると、みんなもようやく笑顔を見せる。
これなら大丈夫。
「よし、じゃあやるよ。カイル様、見逃したら許さないからね。みんな、スタート!」
そう言って私達は同時制御を開始する。
ググッとお腹に力を入れて、私は六つの魔力線を生み出し焼き付けていく。
幸いこの光るオルゴールの魔導回路は練習で幾度となく使ったので、すでに回路図なしで誰もが焼き付け可能だ。
要するにカイル様達からすると、何もない素材の上に、意味があるのかも分からない、魔力の線だけが焼き付けられていくようにしか見えない。
「これは、どういうことだ?」
カイル様の驚きのセリフすらも耳に入らないほど、私達は焼き付けへと集中をしていた。
お茶目なカイル様でした(笑)
そしてセレナの目的はみんなの腕前を認めさせること。その上でみんなに対して何かしらのメリットを引き出させること。
次回、第96話「評価の席へ 後編」
同時制御の評価は?セレナの思惑通り仲間へのメリットは引き出せるのでしょうか?
最初のカイル様は、わざと嫌な貴族を演じさせてみましたがいかがでしたか?
セレナに対してはわざとですが、相手によってはこういう一面を持つことも確かです。話の先で本気でこれを書かないといけない時が来たら……胃が痛くなりそうです(笑)




