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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第2部:才能の値段 第1章 輪を広げる 高等学校二年生

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第94話 冒険者の現場 後編

「こちらが工房になります。グレッダさんの家が経営していて、主に冒険者向けの魔導具を製作しています」

「冒険者向けの魔導具って、例えばどういうものですか?」


 マルクスの質問にルーカスくんは、手近にあった背負い袋を取り上げた。


「例えばこれなんかが分かりやすいですかね。軽量化の付与がかかっていて、荷物が軽く運べます。冒険者は長く歩くことも多いので、こういう地味な改良がとても助かるんですよ」


 そう言って大切そうに袋を置き直す。

 その仕草は、魔導具を消耗品として扱っていないことをはっきりと示していた。


「あとは……ファベルさん、グレッダさんのお客様にこれ見せたいんですが、ひとついただいてもいいですか?」


 そう尋ねると、メガネを掛けた魔導具師っぽい人が


「ええ、構いませんよ。でも外で使って下さいね」


 と答える。

 外で?

 パッと見だとボール程度の大きさしかないそれが、どう役立つのか、何で外なのか。

 今のところさっぱり見当が付かなかった。


「それじゃあいったん鍛錬場へ戻りましょう。そこでお見せします」


 そして鍛錬場へ戻り、ルーカスくんが魔導具を地面に叩きつけると、あっという間に巨大な皮の壁が出来上がる。

 高さで言うと人二人が縦に並んだくらい、横は十人が並んだくらいだろうか。


「これは魔物との戦いで目眩ましに使ったり、注意を引いたり、逃げる時に方向を見られないように使ったり、色々と使えます」

「はー、汎用性高いんだね」

「ええ。だから人気で、仕方なく価格を上げているんだそうです。そうしないと風の魔石がいくつあっても足りなくなってしまうので」


 なるほど、これは皮を折りたたんだ中に風の魔石を入れて、叩きつけることで膨らませるスイッチが入るのか。

 どういう仕組みかはよく分からないけど、確かに実用的だ。

 これなら冒険者が求めるのも分かる。


「これ、誰が考えたんですか?」

「グレッダ様らしいですよ」

「へ?」

「アイデアは、ですけど。それをさっきのファベルさんがなんとか形にしたそうです」


 そうか、こういう場所だと考案者が魔導具師以外ってのも当たり前なのか。

 むしろ冒険者からの相談の方が多そうだ。

 あれ、これちょっと面白そうかもしれない。


「ルーカスくんも何か要望伝えたりしたの?」

「いえ、私はまだ新米なので付いていくだけで必死ですよ。あ、あとくん付けとか冒険者の人にされたことないので、呼び捨てにしてください。何か気恥ずかしいので」


 そう言ってルーカスくん、もといルーカスは少し伏せ目がちになる。

 本当に恥ずかしそうだ。


「分かった、じゃあ私のこともセレナって呼び捨てでお願いね。敬語もなし! みんなもそれでいいよね?」


 私の呼びかけに一同頷く。

 たぶんマリーナはくん付け続けるだろうけど。

 こればっかりは無理強いするものじゃないし。


 それを見ていたルーカスは拳を口に当てて少し笑い、


「分かった。ありがとう、セレナ」


 そう言って手を差し出してきた。


「あらためてよろしくね、ルーカス!」


 その手を握り返した時、私の中で妙な既視感を感じた。

 どこかでこんなことがあったような……。

 うーん、何だろう、思い出せないな。


「セ、セレナ、もう離していいか?」


 私は考えながらずっとルーカスの手を握り続けていたようだ。


「わわっ、ごめん! つい考えごとしちゃって」

「いや、構わない。……じゃあ工房に戻ろうか」


 ◇◆◇


 工房に帰ってくると、机の上に五人分の素材が並べられている。


「よう、小僧ども待ってたぜ」


 いきなりそんな挨拶をしてきたのは、赤い長髪の若い男。

 机の前の椅子に偉そうに足を組んで座っている。


「グレッダさんのお客っていうくらいだから、大した腕前なんだろ? ちょっとお兄さんに見せてくれよ」


 ファベルさんを見るとオロオロしてるので、おそらくファベルさんが逆らえない立場の人なんだろう。

 グレッダさんの職場でそんなバカするとしたら貴族か?


「やーよ。バカに付き合ってる時間ないの。今日は会食だってあるんだから早めに帰らなきゃいけないし」

「てめぇ、誰に口聞いてんのか分かってんのか?」

「誰なのよ? あんた未だに名乗りもしてない非礼に気付けてないの?」


 そう伝えてやると、男は顔から笑みを消し、


「この工房の責任者、イグ・ナルス男爵様だ!」

「ねぇ、なんでたかだか男爵が、伯爵の客人に無礼働いてるわけ?」

「この工房では俺様がルールだからだ!」

「分かった、ギルド戻ってグレッダさんに聞いてくるわ」


 そう言って私が振り返って出ていこうとすると、


「や、やめてくれ、すまん、調子に乗った。腕がいいと聞いたからつい試したくなっただけなんだ」


 と、私の左手を取って止めてきた。

 えぇーい、離せ!

 男らしくない!


 ブンブンと手を振ると、そこへグレッダさんがやってきた。


「おお、セレナちゃんたち。ここにいたか。どうだ、工房は? 学校と違った視点で面白いだろう?」

「ファベルさんだけならね。グレッダさん、こいつ何? めっちゃ失礼なことしてきたんだけど」


 残った右手で床にへばりつくイグを指すと、グレッダさんは顔を覆い、大きな溜息をついた。


「イグ、お前またやったのか。くだらん貴族ごっこはもうやめろと言っただろう」

「え? ってことはこの人貴族じゃないの?」

「あぁ、庶民だぞ。腕は悪くないがな」


 なんだ、嘘つきか。


「本当に腕いいの? 嘘つきに大したヤツいなそうだけど」


 すると床とお友だちになっていたイグが、私から手を離し、スクっと立ち上がって、


「俺の性格をどうこういうのは構わねえ。だがな、俺の腕をバカにするやつは絶対許さねえ。勝負しろ、小娘!」


 と、私を指さしてきた。

 その目は先程までのおごった目でなく、真剣な魔導具師の目をしていた。

 ……そういうことなら話は変わるな。


「いいよ。じゃあ私が勝ったら、私がここの工房長の座もらうね」

「いいだろう、その代わり俺が勝ったらお前は俺の下で働いてもらうぞ?」

「いいよ、負けないから」


 勝手に決まっていく勝負にグレッダさんが慌てるが、うちの仲間は落ち着いたものだ。

 諦めてると言い換えてもいいかもしれないけど。


「よし、それじゃあこれで勝負だ。俺が最近ウルヴィスで手に入れた『光るオルゴール(ムジカルーチェ)』だ!」


 ほえ?

 振り返るとみんなも目が点になっている。

 そんな私たちには目もくれず、イグは


「こいつはオルゴールが鳴ってる間、光を放つ。付ける色石次第で様々な雰囲気が演出できる優れモノだ!」

「あぁ、うん。それじゃやろっか。勝利条件は?」

「速く作り終わった方だ。言っとくがこの小ささだ。少しでも焼き付けがズレたらお終いだからな?」



 結果、同時制御(ミレモデーラ)をフルに活用した私の圧倒的な勝利となった。

 それはそうだ。

 きっとこの場にいる誰よりもこの魔導具については作り上げてきた自負がある。

 あの冷血メガネの指導もたまには役立つこともあるんだなぁ。


「ず、すりぃぞ! お前これ知ってたろ?」

「ちゃんと人の話聞かないからよ。私たち、ウルヴィス高等学校の生徒なんだけど」

「へ?」

「ついでに言うと、それ作ったのうちの研究室。で、おそらくそれ一番作ったの私」


 そこまで聞くとイグは肩を落とし、完全な敗北を認めた。


「よし、じゃあ私がここの工房長ね。それじゃあ最初の命令は……」


 ゴクリ。

 誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。


「工房長やめまーす!」


 ガクッ!

 そんな音が聞こえた気がする。


「な、な、何だと! 何で?」

「だって私まだ学生だよ? それに開発まだまだ学びたいし」

「俺に勝っておいてか?」

「まあちょっとズルみたいな感じでもあったし。悔しいなら私以上の腕になればいいじゃん」


 そう言うと、イグは涙ぐみ始め、私の両手を取って泣きながら、


「あ、ありがとう、ありがとうな、セレナ姐さん! 俺、頑張るよっ!」

「誰が姐さんよっ! こらっ、手離しなさい!」


 そんな私たちを見てみんなは大笑い。

 はぁ、疲れた。


 でも、こういう魔導具師としての仕事があったことを知ったのは、私にとっても有意義な時間だった。



 そして、翌日一日ゆっくりと休みつつ、いよいよ私たちはカイル様との面会に臨む。

 グレッダさんに用意してもらったものも揃った。


 後は付き合ってくれたみんなのために、少しでもいい結果に終わらせることが私の使命だ。

 胸に手をあてると、玄関が開き、そこには、


「やあ、セレナ嬢。だいぶご無沙汰だったね。今日はゆっくり話そうか」


 カイル・アドルフォス、その人が現れた。


 ちなみにセレナ、負けたら負けたで逃げる手は用意してました。グレッダさんを頼るが一番早い手ですが、他にも床に寝そべり、「はい、イグさんの下で働くから早く乗っかって」と屁理屈を言ったりなど(笑)


次回、第95話「評価の席へ 前編」


 いよいよカイル様との面会がスタートです。セレナはどういう話をされるのか、そして仲間たちはどう見られるのか。乞う、ご期待!



 今回出てきたイグ・ナルスですが、ラテン語で「無知」を意味する「イグナルス」をそのまま付けてます。おそらく二度は出ないでしょうから、手を合わせて見送ってあげてください……

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