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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第2部:才能の値段 第1章 輪を広げる 高等学校二年生

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第92話 外から見た私たち

「ししょー、また来たよ」


 あぁ、もう穴があったら入りたい。

 ママがみんなに例の焼き付けを見せてくれるというので、ベーネ工房に来た途端、これだ。

 もちろんドアはノックしてない。


「セ、セレナ、王都ってドアはノックしなくていいの?」


「んなわけないでしょ。あの人が特殊なだけよ」


「お母さん捕まえて特殊って。まぁ、たしかに面白い方だけど」


 リディアの慌てように対して、マリーナの落ち着いた返しはすごいなと思いつつ、面白いの一言で済ますところに怖さも感じた。


「こらっ、マリー。ノックしなさいとあれほど言ってるだろう!」


 目の前にたまたまいたベーネさんがママを叱る。

 もっと叱ってやってください。


「いいじゃないですか、師匠と私の仲だし。それにほら、今回は魔導具師見習いを五人も連れてきたんですよ。勉強させてやってくださいよ」


「ふん、そんなに仲が良かったかね?」


 そう言いながらも笑みを隠せないベーネさんは、ママのことは気に入ってるんだろう。

 こういう師匠はいいなぁ。

 今のところ私の師匠は目の前の子どもと、学校の冷血漢だけだ。

 高等学校を卒業したらここに来ようかしら?


「あれっ? クラリスはいないですか?」 


「あぁ、あの子は父親が倒れたってことで、今は田舎に帰ってるよ」


「えー! あの焼き付け見せるって連れてきたのに」


 ガクッとママが肩を落とす。

 すると、ニヤッと笑ってこちらを向く。


「セレナちゃーん、ちょっとおいで」


 ムリムリムリムリ!

 何考えてんのよ、ママ!!

 私に代わりやらせようとしてるでしょ!


「無理かどうかはやってみないと分からないわよっ!」


 ……久々に出たな、人の心を読む化物め。

 私は仕方なしに二人へと近づく。


「私のエリア小さくしてよ。初めてなんだから」


 そう言って私は二人の隣へ行き、この前見せてもらったのと同じランタンの魔導回路を元に話し合いを始める。


「何するのかしら?」


「さあな。三人で仲良く焼き付けでもするのか?」


 マリーナの疑問にそう答えるカリウス。

 惜しい! 三人仲良くではなく、


「それじゃあ始めるから、近寄ってよく見ておきな。くれぐれも他言無用だよ。成功するかは分からないけどね」


 うぐっ!

 まあ私も自信があるわけじゃないから、何言われても仕方ない。

 何せ三人で同時に焼き付ける以上、無属性の魔力をみんなで同じ量に保たなければならない。


 私とママ、ベーネさんは近寄って互いの魔力を合わせに入る。


「セレナ、火の属性がわずかに混じってる。無属性にして魔力を抑えなさい」


 ママの指摘に、慌てて漏れ出てた火属性を消し、魔力量を抑える。

 思考を逸らした瞬間、指先が熱を帯びる。


「よし、いくよっ!」


 私たちは魔導回路を三方から取り囲み、一気に自身のエリアの焼き付けを行う。

 ここは繊細さとスピード勝負。

 一瞬たりとて気は抜けない。


 火の魔力が混じらぬよう、それでいて魔力量が変化しないように気をつけて焼き付け……って、魔力細く絞らなきゃいけないところどうしたらいいのよっ!

 魔力を絞ろうとした瞬間、流れが一瞬だけ乱れる。


 そして焼き付けが完了した時、ママとベーネさんの少し曇った顔が見えてしまった。


 あー、やっぱさっきのところダメだったんだ。

 私は無意識に指先を握りしめる。

 でも先に言っておいて欲しいよね。

 出来るかどうかはともかくとして。


 みんなを見ると、ただただビックリした顔。


「う、嘘でしょ? 三人で魔力を合わせて一気に書き込むとか」


「な、な、なんだ、その焼き付けは!」


 リディアはともかく、カリウスの驚きは滅多に見られないから新鮮だな。

 私にはこっちの方がビックリだ。


「いやー、でもやっぱり難しかったよ。ちゃんと出来なかったし。ごめんね、ママ」


 と、振り返ると相変わらずママとベーネさんは渋い顔をしている。

 そんなに怒ることないと思うんだけどさ。

 無理やり引っ張り込んだのはそっちなんだし。


「ごめんって。でもいきなりは私だって難しいよ」


「セレナ、あんた学校でよっぽど熱心に魔力制御の訓練してたでしょ?」


 ん?

 そんなにしてたっけ?


「セレナ、あれじゃない? “同時制御(ミレモデーラ)”の時の」


「あぁ! うん、やってたかも」


「道理でね。失敗前提で誘ったのに、見事にやり抜くもんだからビックリしたわ」


 あ、あれ?

 もしかして二人が渋い顔してたのって。


「成功してたの?」


「ええ、問題ないレベルでね。だからおかしいなと思ったのよ。高等学校生のレベルじゃないわよ、これ」


「でもみんなもたぶんこれくらい出来るよ?」


「「はっ!?」」


 奇しくもママとベーネさんの反応が被った。

 そこからみんな一人ずつ試していく。

 成功まで到達したのはマルクスだけだった。

 彼だけは途中で一度も手を止めなかった。

 でもみんなだって、ほぼほぼ成功に近いところまで持っていけていた。


「何なの! あんたの周りは常識外ればかりなわけ!?」


「私に教えた最初の師匠が常識外れだったからね。私はそれに習ってみんなを鍛えただけ。みんなも上手くなりたいって必死だったし」


「はぁ、これは国の未来も明るいねぇ」


 そう言ってはいたけれど、ベーネさんの視線は一人一人を値踏みするように動いていた。


「あんたたち、高等学校卒業して修行したかったらここにおいで。歓迎してやるよ」


 ベーネさんが誘うってすごいな!

 ……ん? あんたたちって私も入ってるのか。


「みんな良かったね、これで少なくとも就職先一つは決まったよ」


 私の笑顔にみんなも笑顔で返す。

 私のワガママでみんなを練習に付き合わせちゃったけど、こうして未来に繋がる可能性を見せられたのは本当に良かった。



 これなら明後日のカイル様の面会も上手くいくかもしれない。

 絶望しかなかった私の心に一筋の希望が見えた気がした。


巻き込まれたセレナはお疲れ様でした。そしてみんなの高い価値も示せて、みんなは満足、ベーネさんとママは末恐ろしいと思ったことでしょう(笑)


次回、第93話「冒険者の現場 前編」


翌日、グレッダさんの案内で冒険者ギルドの見学に。今まで話だけのギルドを少し紹介と、ちょこっとアクションありです。



 (作者にも)忘れられてる設定ですが、マルクスはセレナに次いで学年では焼き付けが上手です。90話も超えて書いてると、そろそろ昔の設定と違うとか、忘れてるをやらかしそうで怖いですが、もし見つけたら遠慮なくツッコんでもらえると助かります。

 その瞬間だけは海よりも深く反省しますので……

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