第90話 迫る再会の日
王都セントーレ。
人生二度目、二年半ぶりの王都は、街並みに大きな変化はなく、私は「帰ってきたんだなぁ」と感慨深さを覚えた。
「それじゃあグレッダ様のお屋敷行くけど、貴族街入ったらちょっと静かにお願いね。口うるさい人もいるからさ」
自分が一番気をつけた方がいいのでは? というセレスさんへのツッコミはグッと我慢する。
私も大人になったもんだ。
「いよいよだね。さすがにちょっと緊張するよ」
そう言って私の袖を掴んでくるマリーナの頭をよしよししながら、
「大丈夫だって! そうだなぁ……なんかお酒片手に豪快に笑ってるおじちゃんとかいるじゃない? あれと同じだと思えばいいから」
比喩ではなく、私のグレッダさんとの初対面はまさにそれだった。
出会うなりいきなり酒場へ。パパと話しながら楽しそうに笑うおじちゃん。
貴族と知ってもその最初のイメージはなかなか拭えないし、それもまたグレッダさんの一面だと知ってるから、私は気にせずにいられる。
「そうは言うけどセレナさん、伯爵だよ? 男爵や子爵よりも上なんだから」
「公爵や侯爵よりも下でしょ? グレッダさんも私も大丈夫って言ってるのに、色眼鏡で見過ぎるのもたぶん失礼だと思うよ?」
その言葉に、一同は無理矢理納得したように引き下がった。
ホント、爵位だの何だの面倒だよね。
結局は人と人だと思う。
……そう言えない相手がいるのも、確かだけど。
私は今回の日程で会う予定のカイル様の顔を思い出したが、すぐに頭を振って追い出す。
うん、今は楽しいことだけ考えなきゃね。
そう思いながらも、ほんの少し早くなった胸の鼓動だけは、どうしても収まらなかった……
◇◆◇
「おお、よく来たな、ウルヴィス高等学校の諸君。フォルティウス伯爵家へようこそ!」
玄関を入ると、両手を広げ、とても嬉しそうにグレッダさんが出迎えてくれる。
本当に、この人は人が好きなんだと思う。
玄関先の空気が、少しだけ柔らいだ。
「グレッダさん、今日から一週間よろしくね」
「おお、任せとけ! この屋敷の中では一切遠慮はいらん。いつも通りに過ごしてくれ。部屋はどうする? 男女分かれて一緒にするか? それとも個別がいいか?」
私はマリーナとはいつも寮で一緒にいるけど、リディアとは夜を過ごしたことがない。
でもマリーナは一人がいいかな?
そんなことを考えながらチラッと二人をうかがうと、
「女子はみんな一緒でいいです。せっかくの機会だから夜も話したりしたいですし」
「俺達も一緒で構わない。よく泊まり合ったりしてるからな」
カリウスとマルクスが仲いいのは知ってたけど、まさか泊まり合ったりするほどとは思わなかった。
まさか……そういう関係じゃないよね?
「……セレナさん、友人としてだからね?」
私の考えを読んだかのように、マルクスがジト目でそう釘を差してくる。
あれっ、そんなに顔に出てたかな?
ぺたぺたと顔を触って確かめていると、
「ハッハッハッ、そんなことで疑われてはかわいそうだぞ。俺だって魔物討伐中はセレスと夜を過ごすことだってある。もちろん何もないがな」
あぁ、うん。そこは疑わないよ。
主にセレスさんのせいでね。
あの人と、しっとりとした展開は、レオニス先生が一般生徒に向ける笑顔レベルで似合わない。
「それで、セレナちゃん。カイル様とは三日後で話をつけてある。アミーカちゃんは当日の朝にここに来ることになってるからよろしくな」
私は小さくうなずいた。
すると、
「セレナ、カイル様とかアミーカちゃんとか、何のこと?」
とリディアが聞いてきた。
マリーナ以外の男子二人も不思議そうな顔をしている。
さて……そろそろちゃんと話す時間かな。
「グレッダさん、みんなにはあの時の話ちゃんとしてないんだ。少し話したいから、先にそういう部屋貸してもらえたりするかな?」
「おいおい、まさか話してなかったのか。……まあ少し覚悟のいる話だからな。分かった、セレス、皆を客間へ案内しろ」
「かしこまりました、ご主人様」
そう言って猫かぶりセレスさんは、私たちを案内してくれる。
その間に荷物は使用人さんたちが部屋へと運んでくれた。
とりあえずリディアは怒りそうだな。
マルクスは呆れるかも?
カリウスは……うん、変わらなそう。
話し終えた後のみんなの態度を予想しつつ、私は高まってくる緊張をなんとか抑え、客間へと足を踏み入れた。
まずはグレッダ邸に到着。みんなへ話す前段の描写のみとなります。
次回、第91話「仲間に話す理由」
いよいよみんなへ過去のセレナのことを話す時間。特別ゲストも登場し、王都編がまた膨れ上がりそうな嫌な予感がしてます(笑)
アミーカとマリーナが揃うと、お茶を飲みながらセレナの相棒としての大変さに頷き合う姿が目に浮かぶようです。
いや、書きませんけどね……たぶん。




