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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第2部:才能の値段 第1章 輪を広げる 高等学校二年生

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第89話 一度きりの選択

「セレナ、セレナってば、起きてよー! なんでこんな日に寝坊するのよー」


 グラグラ……


 うーん、揺れもまた心地良い。

 まだまだ寝られそうだ。


「セレナぁ……ごめんっ! もう遅れるから私行くよ。起こしたからねっ!」


 行くよ?

 ………………え、今何時!?


 私は布団を跳ね上げて時計を確認する。

 すでに朝食の時間も終わり、あと五分で学校が始まる!

 まずいっ、今日はテストなのにっ!


 私は慌てて制服に着替え、カバンの中身をざっと確認して部屋を飛び出す。

 靴を履くのもそこそこに、玄関を開けて全力で学校へと駆けていく。


 あー! 昨日足ほぐし(テネルスーラ)のことを遅くまで考えてたからだ。

 素直にさっさと寝たら良かった。


 門を駆け抜け、下駄箱に着き、急いで靴を脱ごうと指をかけた瞬間、


 キーンコーンカーンコーン。


 私の色々なことを告げる音が響き渡る。

 鐘の音に合わせてレオニス先生が氷のような視線で睨んでくる顔が頭に浮かび、私はその場に崩れ落ちた……。


 ◇◆◇


 足音を忍ばせてクラスに近づき、外からそーっと中をうかがうと、みんなが一生懸命カリカリとテスト問題を解いている様子が見える。

 そんな私に先生が気付き、外へと出て来た。


「セレナさん、どうして遅刻したのかしら?」


 この人は私たちの担任のミーティス先生だ。

 普段は物腰柔らかな話し方で、とても優しい先生なのだが、さすがに今日は少し言葉の端に責めるような響きが混じっていた。


「あ、あの、寝坊してしまって……」


「あらあら、それじゃあ助けようがないわよ。どうしたらいいかしらね」


「お願いです、先生! こんなことで留年なんかしたら……」


 ブルルッ!

 フリではなく、本気で身震いがした。

 何せママを筆頭に、レオニス先生、カイル様、アミーカと、申し開きしようがない人達が多すぎる。

 特に前三人については身の危険すら感じる相手だ。


「お願い、先生! 何でもしますからぁ。じゃないと私、精神的にやられちゃうよぉ」


 そう言って先生の腰にしがみつく。

 先生は頬に手をあてしばし私を見つめると、


「とりあえず私の独断でどうこうは出来ないから、ちょっと学年主任の先生と相談ね。少し待ってなさい」


 そう言って教室に戻り、もう一人の先生に何かしら伝えると戻ってきた。


「さ、行きましょ。今なら職員室にいるはずだから」


 教室の中からマリーナの心配そうな視線がチラッと目に入ったが、申し訳なさすぎてそちらを向くことも出来ず、私はトボトボとミーティス先生の後をついていった。


 ◇◆◇


「入学式のような事例ならともかく、今回はただの寝坊だからな。これを許しては他の学生に示しがつかんよ」


 腕を組んで悩ましげにそう言う学年主任のグラベル先生。

 遠くに見えるレオニス先生には気付かないフリをしておこう。

 今の私には刺激が強すぎる……。


「お願いです、何か代わりになる方法はありませんか? どんなことでもしますから」


 絶対に目の錯覚だとは思うんだけど、その言葉を発した時に、レオニス先生の耳がピクッと動いた気がした。

 そして案の定立ちあがってこちらへと近づいてくる。

 その目は……ほら、氷の視線だよ。


「グラベル先生、それならばいっそのこと他学科の座学試験でもやらせればいいのでは? 例えば……計算が難しいことで有名な商人科のものとかね」


 そう言ってニヤッと笑い、私に近づき耳のそばで小さく


「お前がもう一年残ってくれるなら願ったりだ。しっかりこき使ってやるから商人科の試験を受けるだけ受けて、さっさと砕け散ってこい」


 それだけ言って席へと戻っていく。

 こ、このサディスト教師!


「ふむ、専門外の他学科の試験ならばハードルも高いし、本来通るわけがないか。念のため通過ラインは八十点以上とさせてもらおう。それをクリアしたら魔導具科のテストを最低ラインで通過したと見なす。それでもいいかね?」


 いいも何もない。

 助かる道が一つ出来たなら、私は掴むしかないんだ。


「ぜひお願いします!」


 私は深々と頭を下げてお願いをする。


「仕方ない、あまりない事例だがそれで対応するとしよう。試験官は……レオニス先生、頼めますか?」


 えーっ!

 そこはやめて、試験に無用なプレッシャーが、くるじゃない!


「ええ、構いませんよ。まだ着任二年の若輩の身ですから、何でも言ってください」


 と、にこやかに応じる。


「それでは行きましょうか、シルヴァーノさん」


「ええ、レオニス先生。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」


 そして……テストを行う教室までの道中、聞くに耐えない悪口雑言の応酬を重ねながら、私たちは歩いていった。


 ◇◆◇


「九十二点……だと」


 私のテストはその場でレオニス先生が採点した。

 どうせ学校も今日は座学試験だけで終わりなので、こんな離れ業が可能なのだ。


「これでテストOKですよね? 口約束だからダメだとか言い出したら、さすがに職員室で大暴れしますよ?」


「ああ。いや、しかし……お前、これは……」


 さすがの先生も動揺してる。

 目がテスト用紙とこちらとを何往復もして、まるでそういうおもちゃみたいだ。

 滅多に見られない光景だった。試験も通った。それなのに晴れやかな気分にはなれない。


「それじゃっ、先生、また明日ねー」


 私はそれだけ言って教室を出ていく。

 寝不足のところに立て続けに緊張したものだから、さすがに疲れたな。

 私は窓の外の景色を見て少しだけ目を細める。


(全く、本当ならこんなズル、絶対にダメだからね!)


(ごめん! 本当に助かったよ……)


(留年の危機だから、今回だけは手助けしたけど――もうなしだよ、こんなの)


(分かってるよ。こんなズルいやり方はもうしない。ちゃんと次からはきちんと早く寝るようにするよ)


 そう、九十二点の秘密はこれ。

 いくら難しいとは言え、澪もこれで理数系の大学? に通っていたので、計算なんかお手の物。

 八点落としたのは、言葉の意味が分からなくて計算出来なかったものだ。


 私だってこんな緊急事態でもない限り、こんなズルは絶対にしたくない。

 けど、今回はさすがにまずい。

 これから王都に出掛け、カイル様に会って、


「寝坊して留年しちゃった、テヘッ」


 なんて口が裂けても言えるわけがない。

 そこで信念を曲げて澪に頼みこんだというわけだ。



「セレナッ!」


 待っていてくれたのだろう。

 下駄箱でいつものみんなが心配そうな顔で私を見つめている。


 ズキッ!


 胸に刺さる痛みは今すぐ消えそうにはないけど、これは私の問題だ。

 無理やり口角を上げて、いつもの癖でVサインを作った。


「なんとかなったよ。またよろしくね!」



 さあ、いよいよ王都への顔見せ旅行だ。

 みんなを巻き込んだこと、ちゃんと王都で説明しなきゃだしなぁ……。

 そう思うと私の心はまた少し沈んでいくのだった。


まさかの大やらかし。レオニス先生にも速攻でバレて、立つ瀬のないセレナでした。

そしてズルした痛みは胸に残り続けます。


次回、第90話「迫る再会の日」


夏休みに入り、いよいよ王都へ訪問する"嵐の五人組"の一行。次回は軽いステップなので、まとめて二話更新の予定です。



今回みたいなカンニングがあったら先生も見抜けるはずはありませんね。

はい、正直に答えましょう。カンニングしたことある人、手を挙げて!(笑)

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