第83話 あり得なかった協力
「……校長。どうなされましたか、こんな時間に」
校長!?
去年からほぼ影響力をなくして、半分置物になってるとレオニス先生からは聞いていたけど、なんで?
「今、少しいいかね? ああ、学生諸君もいてもらって構わない。用があるなら帰ってくれても問題ない」
なんだろう、入学前からのあの底意地の悪い感じはすっかり取れてしまい、年相応の落ち着いた教育者という雰囲気が漂っていた。
レオニス先生は来客用のソファへ校長を案内し、それを受けてマリーナはお茶の用意を始める。
積んできた経験なのかなぁ。
マリーナはとっても女の子らしいのに、魔導具の腕も凄くて、どう生きてきたらこんなに出来る子になるんだろう……。
――ハッ、また落ち込みモードに入ってた。
いや今日はいいや。
無理に頑張って上がろうとしないで、流れに身を任せよう。
無理してもいいことはないや。
「全国の競技会を考えているそうだが、企画の進捗はどうかね?」
校長のそんな質問から始まった予測のつかない会話。
レオニス先生が現状について説明し、会の性質をどうするかで頓挫中というところまで話す。
なんだ、書き物しながらも聞き耳立ててたのか。
相変わらず優しいのか冷たいのか良く分からない人だ、レオニス先生は。
「そうか。私がこんなことを言うのはおかしな話だと思われるかもしれないが……各校に繋ぎをとろうか?」
は、い?
大人しくなったとは言え、校長が協力的になるですと??
一体どういう風の吹き回し……いや、何か企んでるのか?
「そうだな、少し話そうか」
そう言うと校長は深く息を吐き、静かに話し始める。
「最初は……腸が煮えくり返るほど君たちを恨んでいた。どうやって貶めてやろう、どう仕返しをしてやろうか。そんなことを考える毎日だった」
そこで校長は一口お茶をすすり、カップを置く。
「だがね、日に日に学生の顔が明るくなっていき、教師もやる気に満ちてきて……遅まきながら気付かされたよ。これが『学校』だったなと」
校長は懐から封筒を取り出し、レオニス先生の前に差し出した。
「今年度が始まる前にこれが届いてね。どうぞ見てくれて構わない」
「失礼いたします」
レオニス先生が封筒を開けて、中身に目を通す。
「校長、今年度で異動されるのですか!」
「ああ、君たちにはいいニュースだろう?」
自嘲気味に校長がそう笑う。
「どうやら君たちの改革を受けて、今まで抑えつけられていた生徒とその親が何組か組んで、教育省に訴え出たようでね。来年度からは初等学校の教頭だよ」
「そのようなことが……考えが及ばず校長にそこまでの責を負わせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
レオニス先生が素早く立ちあがり深く頭を下げるが、校長はそれを手で制する。
「いや、身から出た錆というものだ。それだけ酷いことをしてきたのだと今なら分かる。……ならばせめて、ここに校長として何かを残したい、次第にそう思うようになってね。その時にこの競技会の話を思い出したというわけさ」
ドンッ!
私は机を打ち付ける、
校長なんて死ぬほど嫌いだった。
私の最初の学校生活が楽しくなかったのはほとんどこいつのせいだ。
だけど!
全校集会で十分でしょう、それから贔屓もなくなったでしょう。
なんでそれで良しとしない!
どうして追い打ちをかける!!
歯を食いしばってギリギリと音を鳴らす私へ、心配そうにマリーナが声をかけてくれる。
そのマリーナには少し下がって耳をふさぐよう伝え、次の瞬間自分でも止められないほどの声が喉を突き破った。
「ふざけんなっ!!」
研究室の窓ガラスがブルブルと震える。
「このバカ者! 何を突然大声を――」
「先生! 私校長大っ嫌いです。人の技術も奪おうと画策して、さっさといなくなれと思ってました」
目の前でそんなストレートな感想を聞かされるとは流石に思っていなかったのだろう。
校長が目をパチパチさせていた。
「だけどね、贔屓もなくなって学校自体はいい方向向かってたじゃないですか。ここで校長叩くって、もう見せしめみたいなもんですよね? 私はそれが許せないっ!」
「そうか。で、どうするつもりだ? 今度はお前がそいつらを見つけて叩くのか?」
ドスッ。
私はレオニス先生のお腹を軽く突く。
うぐっ、と軽くうめいて先生は一歩後ろに下がった。
「ふんっ、思ってもないこと言った罰です。校長、まさに私たちに力がなさ過ぎて、競技会どうしようか困ってました。お願いです、力を貸していただけないでしょうか?」
私はそう言うと校長の前に行き、頭を下げながら手を差し出す。
「セレナくん……私が君たちを騙すためにこういう話をしてるかもとは思わんのか?」
「それならそれでまた叩き潰します。でもそんなことにこだわって何も進められないままな自分はもっと嫌なんです。どうか、お願いします!」
さらに頭を下げ、あらためてお願いをする。
「各校の校長に、呼びかける程度しか出来んが、それでも構わんのかね?」
「もちろんです! 私たちから送ると間にいくつも壁があるけど、校長ならその壁を超えられる。しかも私たちと違って侮られることもない」
するとふふっと自嘲めいた笑みを浮かべ、
「侮られはするだろうさ。何せ教育省経由で各校の校長は私の事情を知ってるだろうからね」
そう話す。
「だから何だってんですか。私たちよりよっぽどマシじゃないですか。品評会成功のために出来ることは全てやりたいんです!」
私の言葉を受け、校長はしばし黙り込む。
やがて、ゆっくりと立ち上がり、私の手を取ると、
「こういう生徒を正しく導いてやれれば、私の校長生活も充実していたのだろうな」
そう話してきたので、私はようやく頭を上げて校長の目を見据えながら、
「まだあと一年あるでしょ! 一緒に充実した時間過ごせばいいじゃないですか」
と笑いかける。
「分かった。残りの時間、あらためてこの学校を良くすることに尽力すると誓おうじゃないか」
そう言った後に見せた校長の笑顔からは、もう自嘲めいたものは消えているように見えた。
◇◆◇
その後品評会については、校長は対外交渉の部分を、私たちは実務的な部分をと分業で対応し、毎週最初の日にお互いの進捗報告を行う場を設けることとして話をつけた。
校長が研究室を出ていく時、あらためて私たちに向かって、
「最後の花道を飾る機会を与えてくれたこと、本当に感謝している。これからもよろしくお願いするよ」
そう言って頭を下げた姿がとても印象に残っていた。
校長への対応に心底怒るセレナ。入学時なら全く考えつかなかった状況ですよね。
次回、第84話『定まった舞台』
校長を交えて品評会にいたる仕掛けづくりの相談へ。校長からの悪だくみ発言をきっかけに、セレナが自爆し窮地に陥ります(笑)
セレナの判断、実生活だとなかなか出来ないと思いますが、あなたは校長と組むこの判断、ありですか、なしですか?
良かったら教えてくださいね♪




