第81話 重ねゆく友情 後編
「ごめーん、お待たせ!」
「遅いぞ、三十分も待った」
珍しくカリウスくんが文句を言ってくる。
次からは何分に出るって示し合わせないとだね。
私たちはみんなここの温泉の浴衣を借りている。
まあ無地のやつだから色気も何もないけどね。
「ごめんって。二人にはあったかい飲物おごってあげるからさ」
そう言って私は店員さんを呼び、手早く飲み物を注文する。
「ところでセレナさん、本当にいいのかい、王都旅行の件」
「ああ、さっきリディアにも聞かれたけど大丈夫だよ。グレッダさんの屋敷、無駄に広いから泊まる場所もいくらでもあるし」
「あんた……セレナはもう少し伯爵様に敬意を持ったほうがいいと思うわ」
さっきの会話を受けてか、リディアの口調が相当柔らかくなってる。
か、からかいたいけど、さっき勧めた手前、さすがに今すぐはやめとこう。
「敬意はあるよ。私にそんな力があればだけど、グレッダさんを不当に貶めるやつがいたら、真っ先に味方になるくらいはね」
「セレナはなぜあの人とそこまで強い関係を結べたんだ?」
カリウスへの答えは、私の秘密に踏み込まなきゃ答えられない。
だから、
「そうだね、じゃあそれは王都旅行の時にでもおいおい話すよ」
と誤魔化しておいた。
カリウスもそれほど気になっていたわけではないようで、すぐに引き下がってくれた。
「セレナ、ところで魔導具の品評会? やるとしたら誰が出場するの?」
「今回優勝したあのチームでいいんじゃない?」
確か三年生のブレヴィス先輩のチームだ。
「確かにあのチームは“安全装置”の発想が秀逸だったよね」
マルクスがそう褒める。
そう、彼らの一番のウリは魔導具が故障した時に大事故に繋がらないためにわざと失敗をさせる機能だ。
例えばランタンの回路の一部が何かの理由で詰まる。すると火の魔力がそこに溜まってしまい、そこへ衝撃が与えられたら大きな火となって燃え広がる危険性がある。
彼らの“安全装置”は、魔力量を検知する回路をさらに組み込み、ランタンの回路に一定以上の魔力が溜まったら、自動でスイッチを切るというもの。
これなら、大事故に発展する可能性は大きく下げられる。
「僕やリディアの家は工房兼販売もしてるから分かるけど、やっぱりいるんだよね、そういう事故を起こすお客さん」
マルクスが少し悲しそうな表情になる。
「たいてい自分のせいなんだけど、それでも“安全装置”を組み込んだ魔導具が広がれば、みんなが安心して魔導具を使えるようになるから、とても意義ある発想だと思ったよ」
そうか、いい魔導具ばかり追い求めるだけじゃなくて安全に使えること。
それもまた魔導具に求められることなんだな。
自分で考え付けなかったということに、少しだけ胸がチクっとした。
そんなことを考えていると、向かいのマルクスが横のマリーナに耳打ちをしていた。
心なしか顔が赤いような……?
「セレナッ!」
マリーナが慌てて私の浴衣の裾を直す。
な、何だ? 何かマズかった?
「下着見えてるってマルクスくんが」
「うわぁ、マリーナさん、それ大きな声で言ったらダメでしょ!」
大慌てのマルクスだが、当の私はもっと大慌て……というか、絶対温泉のせいじゃない熱さが顔中に広がっていく。
思わず両手で顔を覆ってしまった。
「ご、ごめん。マルクス……」
そう言うのが精一杯だった。
「セレナ、そう言えばスパッツ履いてなかったわね。もしかして持ってないの?」
「……スパッツって、何?」
「ちょっ! ……セレナ、明日はお買い物。私が色々教えるから付いてきなさい!」
えらい剣幕をしたマリーナに、両手を外され、ジッと目を見つめられた私は、ただただうなずく他なかった。
「はぁ、一年一緒の部屋に住んでて気付かなかった私も悪かったよ。セレナ、そういえばスカートコーデ全然知らないでしょ?」
「だって……スカートっぽいのなんて、王都で借りたイブニングドレス着た時くらいだもん」
ふくれっ面でそう答える私に、不思議そうな顔をするマリーナとリディア。
マリーナが首を振って、
「イブニングドレスの件はまた後でいいわ。じゃあずっとパンツスタイルだったのね?」
「パンツじゃないよ、ズボンはいてたよ!」
私の答えに頭を抱えるマリーナ。
見るとリディアもマルクスも苦い顔をしている。
マリーナは私の肩をガシッと強く掴み、
「あなたは魔導具の前に服装の勉強が必要よ! 明日から徹底的にしごくからね」
と、とても怖い顔をされた。
「は、はい。お願いします……」
服装なんてちゃんと知ろうとしてこなかったことが、今になって恥ずかしく思えた。
魔導具の前に服装。
それ以上私の言えることはなかった。
◇◆◇
しばらく魔導具やら何やらの話をして、そろそろ帰ろうとした時、
「なんだお前ら。休みの日まで仲良しだな」
私たちの側を通ったのはレオニス先生。
「えっ、先生何でこんなとこに?」
「温泉に入りに来たに決まってるだろ。たまには家族サービスせんとな」
「は? 家族??」
私がそう言うと
「パパー、早く、早くぅ」
と、少し遠くから元気良く手を振る小さい女の子。
その隣で女の子の手を繋ぐかわいい感じの大人の女性。
ま、まさか……。
「あ、あれ先生の家族ですか?」
「ああそうだ。お前ら俺を寂しい研究者と勘違いしてるだろ? 普通に妻も子どももいるからな? それじゃあ湯冷めせんうちに帰れよ」
そう言ってスタスタと家族の元へ歩いていく。
合流して娘さんを抱き上げる、やわらかい笑顔はまさしくパパの顔だった。
奥さんと思われる人が去り際に軽く会釈をしてきたので、私たちも慌てて会釈をし、先生たちは去って行った……。
この件は私たちの中ではしばらく触れないようにしようと言うことになり、事実を消化するまでにおよそ半年。
魔導具品評会の開催間近までかかるほどに、衝撃的な事実だった。
はい、ここまで話を追ってくれてる方なら分かりますよね。そういえばセレナ、ファッションの話ほとんどなかったなと。
80話かけての壮大なフリでした(笑)
次回、第82話『手探りの途中』
打って変わって品評会の真面目なお話に戻ります。企画を出すもレオニス先生からダメ出しをくらい続け、それでも五人は頑張りますが……
余談ですが、セレナはメイクも全くの無知で、後日マリーナにそこも説教されます。
澪、教えてあげなよと思っても、澪も友だちに言われて渋々やってた子なので、ロクにアドバイス出来ないという事情があります(笑)




