第78話 権力の有効利用
「ハァ……」
私は本部で頭を抱えていた。
何で頭を抱えているかというと、
「セレナ〜、そんなに怒らないでよぉ」
「すまんすまん、まさか騒ぎになるとは思わなくてな。ちょっとした物見遊山のつもりだったんだが」
分かるかな。
あのお調子者メイドと熊さん伯爵だよ。
「あのね! こっちは初の学園イベントきちんとやり遂げようと頑張ってるのに、なんでいらん騒ぎ起こしてくれてるのよっ!!」
私のあまりの剣幕に一歩引く二人。
そしてそんな私をドン引きで見てるのが学校の先生達と、レオニス先生だ。
「セレナ、お前伯爵になんて言葉遣いしてるんだ」
その中でやはり一歩踏み出したのはレオニス先生。
でも先生も前に「グレッダ」って呼び捨てにしてたよね?
「あれ、先生も仲いいんですよね?」
「時と場合を考えろと言ってる。周りの空気を読めてないのか」
「そういうの面倒なんですよねー。どうしても必要な時はやりますけど」
するとガーハッハッハッと野太い笑い声。
「レオニス、構わんさ。セレナちゃんから怒られるのはこれで二度目だ。それに今は伯爵ではなく冒険者のグレッダの扱いで構わんよ」
相変わらず雑な貴族だ。
まあだから好きなんだけどね、この人達。
国政を担う貴族とはとても思えない。
「で、なんでこんなとこいるんです?」
「ああ、前にヴェルダに行った時に説明したろ? たまに各地を回ってると。今回はウルヴィスだったから、セレナちゃんがいたなと思って立ち寄ってみたら楽しそうなことをしてるからつい……な」
つい……で大騒ぎを起こされるこっちの身にもなってほしい。
「あ! そういえば去年、魔物図鑑ありがとうございました。おかげで素材の勉強捗ってますよ」
「そうかそうか、役立ってるなら良かった」
そう言って優しい目を向けてくるグレッダさん。
雑な口調と失礼な態度さえも許して、こうして見守ってくれるこの人は、本当にすごい人だと思う。
そんなことをしていると、競技が全て終わったようだ。
いよいよ表彰と商人科の成績発表。
しっかり締めて、次に繋げていかないと。
……あ、そうだ。
「グレッダさんはいつまでいるんですか?」
「ん? そうだな、あと三日くらいは滞在するぞ。用事は済んだが、せっかくだから湯治もしたいのでな」
「遊び人かっ! そうしたらさ、迷惑かけられたお詫びとして、表彰してくれません? 王都の伯爵から表彰されたなんて、学生にとったら一生の名誉になるだろうし、このイベントも勢いづくし」
するとグレッダさんの目がスッと細められ、
「俺を利用するつもりか?」
と問いかけてくる。
周りの先生から「ヒッ!」という短い悲鳴が聞こえた気がしたが、
「悪いと思ってるなら誠意見せてって言ってるの! 一時パニックになったの誰のせいだと思ってるのよ」
と堂々と返す。
グレッダさんと見つめ合うこと一秒、二秒……
フッとグレッダさんの顔が緩み、
「まあそれ言われたら弱いわな。仕方ない、利用されてやるよ」
と、立ち上がる。
「悪いわね」
「構わん。若者の未来を作るために協力するのも、貴族の務めだ。それが王の望みでもあるからな」
差し出した私の手を握り返し、私たちは笑いあった。
◇◆◇
表彰はもともと私がやる予定だったので、グレッダさんへ変更するのにさして苦労はいらなかった。
「じゃあまずは商人科の成績発表を私がやります。その後は各科の表彰になるので、マリーナとリディアはグレッダさんの横について表彰状と記念の盾を渡してあげて」
淡々と説明する私の顔をまるでバケモノでも見るかのような目で見るマリーナたち。
「な、何よ?」
「何でこの異常事態を当たり前の顔で進めてくれてるのよっ!」
リディアの悲鳴にも似た一言に、みんなもうなずく。
グレッダさん本人を目の前にして異常事態呼ばわりするリディアの方がひどいと思うけどな。
「んー、当たり前だからじゃない? ついさっきもパニック起こしたから説教させてもらってたし。ねえ、グレッダさん?」
「セレナちゃんな、もう少しみんなの苦労は分かってやった方がいいと思うぞ? 普通は伯爵なんて自分の人生に関係ない、遠い世界の人だと思うものだ」
少しだけ苦い顔をしながら、グレッダさんまでそんなことを言ってきた。
「んー、分からないではないけど、今の自分が選択できるベストがそこにあるのに、手を伸ばさない理由ってある?」
ハァ……と、溜息をつくと、グレッダさんは、
「皆のものすまんな。セレナちゃんはこういうやつだから、諦めてくれ」
と、謝られた。なんでよっ!
「続けるわよ。表彰が終わったら、グレッダさん一言だけよろしく。その後に私から総括と閉会の挨拶やって終わりね。さっ、行きましょ!」
私たちは再び講堂へと向かった。
◇◆◇
「……セントーレの未来を担う諸君の、さらなる努力に期待をすると共に、私も伯爵として国をより良い環境にするため尽力することをここに誓い、ご挨拶とさせていただく」
ワアアアァッ!
パチパチ、パチパチ……
盛大な拍手と歓声に包まれ、グレッダさんが降りてきた。
「ほらっ、あとはしっかり締めてこい。見ててやるから」
「ありがとっ、グレッダさん」
私たちは拳を打ち合わせ、すれ違う。
壇上への階段を一歩、二歩、ゆっくりと上がり、演台へ着いた。
一回だけ深呼吸をして、置いてある拡声の魔導具に口を当てた。
「皆さん!」
学生、スカウト目的の工房、一般見学者、全ての視線が私に注ぐ。
一瞬その声なき圧力に押し負けそうになるけど、お腹に力を入れ直してあらためて立て直す。
「楽しかったですか?」
私の問いかけに、皆不思議そうな顔をしていて、うなずく人は二割くらいかな。
「私は魔導具科の生徒です。魔導具の製作も開発も好きです。楽しいです。っていうか競技会出たかったです!」
最後の言葉に軽く笑いが起きる。
そこからは学校で学ぶことの大切さ、特殊すぎて街から浮いた存在だと感じていることなどを話した。
「ウルヴィスの名を冠する以上、この学校も街の一つです。私はこの学校が、もっと街と関わって、街の皆さんと交流して、みんなで笑顔で過ごせる。そんな学校であってほしいと願っています」
この言葉に何割かの学生やお客さんの表情が変わる。それは決して悪い変化ではなく、何かに気付いた顔。
「公開講座に競技会、学校はこれからも変わっていきます。街の皆さんには、この学校の挑戦を温かく見守っていただくと共に、少し、ほんの少しでいいので力を貸してください」
そう言って私は頭を下げる。
すると観客やスカウトの方々から小さな拍手が起こり、次第に大きくなる。
やがてそれは講堂を割らんばかりの盛大な拍手となり、私の身体を叩いた。
頭を上げると、今度は学生たちに視線を送り、
「学生の皆さん、私たちはいずれ社会に出ます。そこで必要なのは専門技術や知識だけじゃない。街の皆さんと関わることで、たくさんのことを教えてもらい、“社会人”として一緒に成長していきましょう」
再び起こる盛大な拍手。
良かったぁ、ちょっと説教臭いかなぁと思ったけど、なんとか受け入れてもらえた。
熱くなる目頭をなんとか口を結んで耐え、
「すいません、長くなっちゃいましたね。以上を持ちまして、第一回ウルヴィス高等学校競技会を終了させていただきます。皆さま本日は本当にありがとうございました」
拡声の魔導具を起き、演台から一歩下がり、私は深々と頭を下げた。
今日最大の拍手を一身に浴びながら、その音に紛れて一滴だけ涙が零れたのは……私だけの秘密だ。
悪びれないグレッダさんもグレッダさんですが、それをラッキーと利用するセレナもセレナですね(笑)
次回、第79話『私は魔導具師だ』
グレッダさん、そしてみんなとの話の中でセレナの目指すべきもの、想いに変化が起こります。
えっ、この人から褒められた、とか、この人から声かけられたとか、そういうけいけんありますか?
もしあったら教えてくださいね♪




