第76話 初めてできた後輩
片付けが終わり寮に帰ると、玄関のそばに一人の女の子が立っていた。
手を前に組んでもじもじしている。
誰か待ってるのかな?
私たちが横を通り過ぎて部屋へ向かおうとしたところで、
「セ、セレナ先輩。ちょっといいですか?」
その女の子が話しかけてきた。
「私? いいよ、どうしたの?」
「わ、私のこと分かりますか?」
んー、誰だっけ?
初めて見た子な気がするけど。
――いや、待てよ。
なんかこんな感じで寂しそうに一人でいるシチュエーションに覚えがあるような……。
「私もヴェルダから来ました。初等学校の先輩の話はマチルダ先生から色々聞いてて」
初等学校…………あっ!
私の脳裏に浮かんだのは、二年生の春の交流パーティーのこと。
メインのチョコレートファウンテンの魔導具を修理した直後に見つけた、寂しそうに飲み物を飲んでた子。
でも話してないから名前知らないはずだよね?
「ごめん、名前なんだっけ?」
「セレナ、それは引くわー」
「ち、違うって、話したことはないはず――ないよね?」
マリーナのツッコミに思わず確認を入れると、その子はコクっとうなずく。
「あの、私、ティミナっていいます。ちょっと……ご相談があって」
「あ、じゃあ私お邪魔だから先に部屋戻ってるよ」
するとティミナは手を振って
「あ、大丈夫です。むしろ一緒に相談に乗っていただけるとありがたいんですが……」
「じゃあ私たちの部屋行こうか。――ヴェルダってことは、ティミナも寮だよね?」
「はい」
「よし、じゃあ行こう」
◇◆◇
ティミナからの相談はとてもらしいもの……というと彼女には失礼だけど、らしいと感じてしまった。
要するに人見知りで友達が作れない。
同室の子ともイマイチ仲良くなりきれてない。
どうしたら私みたいに簡単に友達が作れるのか? というものだったんだけど。
「私も別に自分から声かけたことないよ?」
「えっ!?」
とまあ、こういった感じだ。
本当のことだから仕方ない。
アミーカもマリーナも、向こうから声をかけてきたから、そのままなし崩し的に友達になってたからなぁ。
――あれ?
そう考えるとマルクスくんとカリウスくんもそうだし、リディアもそうだし……
私、案外面倒くさがりな性格かも?
そんなことに気付いてしまい軽くショックをうけていると、マリーナが
「ティミナさんは、なんで友達ほしいの?」
と確認をいれた。
面食らったような顔でティミナが
「えっ、だってそれが普通じゃないですか。友達と楽しく話して、一緒に勉強したり、買い物行ったりして」
と返すと、さらに
「じゃあなんで話しかけないの? 自分から一言『友だちになろう』って言えばいいじゃない」
と畳み掛けるので、さすがに止める。
「ちょ、マリーナ言い過ぎ。そう思ってても声かけられない子だっているよ」
「だって欲しいんでしょ? 例えば欲しい魔導具ある時に、黙って見てて手に入る? ちゃんと欲しいって言うか、買うっていう行動しなきゃ手に入るわけないじゃん」
「それは……そうだけど。でも私は声かけないでも友だちできたよ?」
なんとかティミナのフォローをしたくてそう言ってみるが、もちろんこんなのフォローになってないことは分かってる。
「でもそれは結果論であって、セレナは別に友だち欲しくて出来たわけではないでしょ? 出来ちゃった、だけで」
ほら、すぐやられた。
そんな私たちの言い合いを見て、ティミナの顔はますます暗くなってきてる。
あー、まずい。
先輩としてなんとか役に立ってあげないと。
「そ、そういえばティミナは何科なの?」
「魔導具科です」
「え! 私たちと一緒じゃん。そうしたら得意なのは何?」
「わたし、焼き付けも付与もそんなに得意じゃなくて……」
さらに下を向いて、声まで消え入りそうだ。
これは、あれだ。
なにか一つ自信を付けさせないと、どこまでも落ちてしまう。
友だちとかよりもまず先にそこからな気がした。
「よしっ! 明日から放課後、私たちの研究室に来て焼き付けの練習しよう。ティミナに足りないのはきっと自信。何か一つでも胸張れるものが出来たら、きっと他のこともうまくいくよ!」
次の日から、私たちの研究室にティミナが新しく所属することになった。
初日こそ借りてきた猫のように大人しかった彼女も、次第に雰囲気に慣れて研究室の中では普通に自分から話せるようになっていった。
そして……
「セレナ先輩! 私やっと寮の同室の子と仲良くなれました!!」
そんな嬉しい報告が届く。
「良かったじゃん! これでもうここ来なくて大丈夫だね」
「それが……その子“嵐の五人組”に会ってみたい、一緒に魔導具作ってみたい! って言ってて」
「まさか――私たちをダシに使ったとか?」
「ごめんなさい、セレナ先輩」
舌を出して手を合わせて謝ってくる。
こ、この娘は〜。
まあいいか。
それくらいタフな子の方が私もやりやすい。
「分かった。じゃあ明日連れてきたら? みんなで歓迎の準備しとくよ」
「ありがとうございます! じゃあ今日はその子と買い物があるので、これで失礼しますね」
パタンッ。
ドアの閉まる音を聞くと、私たち女子三人組は顔を見合わせてうなずきあう
その姿を視界に捉えないようにしていたマルクスくんとカリウスくんは、とても賢い。
だが逃さない。
「ほらっ! 明日の準備やるよっ!」
私はマルクスくん、マリーナはカリウスくんの制服を引っ張って、強引に巻き込んだ。
◇◆◇
「うわー、すごい! 皆さんとても真剣に取り組んでるんですね」
ティミナが連れてきたのはクーラという女の子。
私たちが必死に付与や焼き付けの練習をしたり、新しい魔導具の議論をしているのを見て、とても感動してくれている。
「いらっしゃい。今日は好きなだけ見ていってね。質問も気軽にしてくれていいから」
私の言葉に目を輝かせて「はいっ!」と答えるクーラはとても嬉しそうだ。
「じゃあティミナはこっち。今日は新しいこと試してみよう」
そう言って例の『光のオルゴール』の魔導回路を渡す。
「これ回路図ね。焼き付けやってみて」
そう言うとティミナはさっそく焼き付けを始める。少しは腕は上がってるけど、一年の同時期のレベルからするとまだ下の方の腕前だろう。
かなり時間がかかってやっと終わらせることが出来た。
「まだまだねぇ。あなた私たちのやり方ちゃんと見てたの? 全然上達してないじゃない」
普段の私なら絶対に言わないセリフに、ティミナは驚いた顔をする。
「セ、セレナ先輩……?」
「そうねぇ。こんなんじゃ使い物にならないわ」
「教え方が悪いんじゃないか? 僕が代わろうか?」
「何よっ! 私たちが悪いっての!?」
マリーナ、マルクスくん、リディアの言葉で、一気に室内にピリッとした空気が走る。
「もう一度見てなさい。焼き付けってのはね、こうやるの。クーラも来なさい。見せてあげるわ」
私は素材を置き、目の前にはマリーナに立ってもらい、“同時制御”を行う。
同時に複数の線が走り出し、一気に魔導回路を仕上げた。
「うわあっ!」
「わ、わわっ! なんですか、これ!! 凄すぎます」
ティミナとクーラは二人して大慌て。
まるでこれを初披露した時のレオニス先生みたいだ。
「これくらい出来なきゃ研究室の学生やってられないのよ。ティミナ、これ明日までに出来るようになってよね」
「……えっ? ム、ムム、ムリです! 私なんかじゃこんな凄いこと」
そう言って涙目になってきた。
よし、もういいか。
私はマリーナたちと目配せして、終わりの合図とした。
「よし、ここまで!」
するとカリウスくんがティミナとクーラの前に行き、『ドッキリ大成功』と書かれた小さい木の看板を二人に見せる。
無表情と相まってとてもシュールだ。
「ド、ドッキリ?」
「そ! こうやってわざと脅かして、実は嘘でしたーっていうおふざけのこと。ティミナが私たちをダシにクーラと友だちになったっていうから、少し懲らしめてやろうと思ってね」
なお、計画は私、命名は澪だ。
こういうイタズラの時は呼んでもないのにホイホイ話しかけてくるんだから、困った心の相棒だ。
「私たちの怖さも知ってからダシに使えって、セレナってば、わけ分からないことに怒ってるんだもん。面倒だったわよ演技とか」
マリーナは疲れた表情で私の肩に腕をかけてくる。
「ま、今のは冗談だけど、技術は本物よ。凄かったでしょ?」
コクコクと羨望の眼差しでうなずく二人。
よし、大丈夫そうだな。
「それでさ、二人とも正式にこの研究室で一緒に学ばない? 今の焼き付け、“同時制御”も学校の授業じゃ聞けないし、私たちが今度はちゃんと丁寧に教えてあげるよ?」
「ホントですか!? 私、先輩たちに教われたらなぁって思ってたんです。ぜひお願いします」
クーラはそう言って頭を下げる。
ティミナは……
「私、いい気になってセレナ先輩使っちゃいました。こんなのは研究室いちゃいけないですよね」
と、出ていこうとするので、腕を掴んでとっさに止めた。
「マリーナが言ったでしょ? 使うならきちんと知ってから使えってね。何でも笑って許すようなバカはいないよ? でもね……」
私はマリーナたちの前に行き、ティミナを振り返って、
「頑張ろうとするかわいい後輩見捨てようって大バカもいない。それだけはこの研究室の誇れるところかな」
そう言ってニカッと笑う。
こうしてティミナとクーラ、二人の新人を迎えて、研究室は新しい一歩を踏み出した。
勝手に人を増やしおってと、レオニス先生には後で文句を言われたけど、口の端が緩んでたの見逃さなかったもんね。
素直に嬉しいって言えばいいのにさ。
さて、人手も増えたし、いよいよ競技会だな。
私は初の校内イベントの成功を祈り、珍しく胸の前で手を組んでいた。
こんなふうに祈るのは、いつ以来だろう。
後から思えば、この時点からすでに不安を感じていたのかもしれない。
ちょこっと利用したティミナも悪いですが、セレナは大人げないです(笑)
何はともあれ後輩も出来て、新・レオニス研究室の始動です!
次回、第77話『向かうべき道』
いよいよ競技会開催! と、思いきやセレナはプロジェクトリーダーとして本部で置物に。
そこへレオニス先生がやってきて……
今回のティミナのように、ほっとけない後輩とかっていましたか?
良かったらどんな子だったか教えてくださいね♪




