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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第2部:才能の値段 第1章 輪を広げる

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第74話 競技会の意味

 あの後はひどかった。

 夜は『月のしずく』で予想通りどんちゃん騒ぎ。

 寝不足で行った初等学校やパン屋さんではマチルダ先生やルナに、まず体調を心配される始末。


 でもその後、街を歩くと何人かの元クラスメートと挨拶したり話をしたり出来た。

 高等学校で頑張ってる子や、職人さんに弟子入りして毎日拳骨をもらってる子。

 つい顔をしかめてしまう話もあったけど、みんなの活き活きとした顔に思わず胸が震えた。


 夏にはまたヴェルダに顔を出そう。

 この繋がり、いつまでも切れないでほしいな。

 そう願いながら、私はウルヴィスへと戻っていった。


 ◇◆◇


「……ってことなのよ!」


「ふーん、高等学校同士の競い合いね」


 新学年まで残り二日間。

 私は寮でマリーナにコンテストの話をしていた。


「あれ、マリーナはあんまり乗り気じゃない?」


「乗り気じゃないっていうか、想像つかないって方が正確かな。わざわざ学校同士が競って、お互い仲悪くなるだけじゃない?」


 マリーナは渋い顔をしてそう答える。

 彼女も帰郷してたはずだけど、帰ってからちょっと元気がない。

 もしかしたら故郷で何かあったのかな?


「え? でもさ、他の学校もきっと名誉を追うだろうから、魔導具の新しい発想が見られるかもよ? そうしたらマリーナの魔導具に役立つアイデアもあるかもしれないじゃん」


 私は励ますつもりでそう話してみる。


「で、本音は?」


「色々見れて楽しそう」


「ほら、それだ。この魔導具バカ!」


 そう言って私の頭をわしゃわしゃしてくる。

 うん、これならもう少し様子見ても大丈夫そうかも。


「って言ってもいきなり学外のコンテストとかちょっと厳しいじゃん? だから、一回学内のコンテストをやってみて、他の人と競うっていうことの面白さを知ってもらってから、外に持っていきたいなって思って」


「まぁそれが無難だろうね。とりあえず学校始まったら研究室でみんなに聞いてみよっか?」


「だね」



 そうして学校が始まるまでの二日間。

 私とマリーナは、いつの間にか呼ばれ始めた『実験バカコンビ』として、寮の庭や、こっそり隠れて部屋の中で実験の日々を過ごした。


 マリーナの魔導具を作るための実験なので、頭のネジが飛んでるわけではないことだけは伝えておく。


 ◇◆◇


 新学年が始まって初日の研究室。


「コンテスト!? そう言えばないわね?」


「そう言えば確かにあってもいいのに、なかったな」


 リディアとカリウスくんがそんな反応をする中、マルクスくんは、


「いや、たぶん寄付金優遇があったからじゃないかな? 特に対外的なコンテストなんかは言い訳がきかないからね」


 そう話す。

 あー、そっか。だからなかったのか。


「マルクスの言う通りだ。一昨年、赴任早々提案をしたら、まさにその理由で断られた。優遇もなくなり、校長もすっかり弱体化しているから、仕掛けるにはいいタイミングかもしれんな」


 レオニス先生が研究の手を止めて話に加わってきた。


「よし、まずは来月開催を目指して動いてみろ」


 その言葉に私も含め、一同うんざりした表情になる。

 学校初の試みを一ヶ月で企画をまとめて、実行に移せって……。

 相変わらず研究生に対しては容赦がない。

 通常授業の優しさの一割でいいからこっちにも回してほしい。


「それってもしかしてクラス内の交流を深めさせる目的もあったりします?」


 リディアの言葉にうなずくレオニス先生。

 こう言っちゃなんだけど、リディアが交流とか意外……いや、よそう。

 また説教されてしまう。


「クラスが落ち着き、交流からあぶれた者が出るのがその頃だ。だからそのあたりで一つイベントを設けてやると、クラスの輪に入りやすい雰囲気が作れるわけだ」


 この人本当に長いこと開発畑にいたのかな?

 ベテラン教師みたいなことをさらっと考えつくのは素直にすごいと思う。


「そんな話のあとになんだけどさ……コンテスト、クラス内でチーム組むんじゃなくて、学年超えてチーム組ませてみない?」


「ほう、意図をきかせてもらおうか」


 レオニス先生は腕を組んで背もたれに体重を預ける。

 これは学生を試す時の姿勢だ。

 ここ一年でそれが分かるくらいにはなっていた。


「そもそも魔導具科だって一クラスしかないじゃないですか? 他の科だって騎士科と衛兵科が二クラスあるだけで、ほぼ一クラス。そうなると仲良しチームが組まれるだけで、授業の延長にしかならないかなって」


「だったら各学年二人ずつの一チームで組ませて、それぞれが役割分担しないと達成出来ない課題にした方が、ピリッとしていいかなって」


 私の言葉にみんな黙り込んで何かしら考えている。


「セレナ、それだと交流ってところがクリア出来なくはならない?」


 マリーナがそう質問してくるが、


「そこクリアする必要あるのかな? 私たちは専門技術を学びに来てるわけじゃない? 交流はあったほうがいいけど、私は最優先に据える必要はないかなって。どうかな?」


 本当は、交流を軽く見ているわけじゃない。

 ただ、今の私はそれよりも別のことを優先させたいと思ったんだ。


 そう返すと「確かにそうかも」と言って引き下がる。

 続いてレオニス先生から質問が飛んだ。


「ではセレナが考える最優先とはなんだ?」


「就職じゃないですかね?」


「就職!?」


 私の答えにリディアが大声をあげたけど、そんなに不思議かなぁ?


「だって学校卒業したら、私たちどこかに所属して働くんだよ? 学校で学ぶ技術はそのためじゃないの?」


「それは確かにそうだが、それとコンテストはどう結びつくんだい?」


 マルクスくんの質問に、ニヤッと笑い返し、


「コンテスト、外部見学者入れちゃわない?」


 と提案する。


「なるほど、『青田買い』というやつだな。そこでよい成績を残せば、良い就職口から声がかかるかもしれんということか」


「さすがカリウスくん! 普段話聞かないくせにここぞという時はやるね」


 せっかく褒めたのに、彼はいつも通りの無表情だ。

 ちぇっ、可愛くないなぁ。


「ってことは今のところこうね」


 リディアが黒板に情報をまとめ始める。


 ・各学年二人の六名チーム

 ・外部観覧者を入れて就職に繋げる

 ・出来れば交流に繋げる


「あぁ、これなら交流は大丈夫かもしれないね」


「えっ、何で?」


「ほら、先輩たちどんな人? とか、どんな工房が見に来るのか? とか、話すネタがいつもよりも増えるから。特に先輩・後輩の情報なんて知らないから、みんなに聞きたくなると思うんだよね」


 マルクスくんのその推測に、私を含めてみんなが納得した。

 それならこの案を進めても良さそうだ。


 その時、レオニス先生が椅子から立ち上がり、黒板を見てニヤッと笑い、こちらを向く。


「あと一ヶ月であんなに嫌な顔をしたくせに、街の住民を巻き込み、さらに条件をハードにするとは、さすが俺の研究生だ。よし、認める。やれ」


 そう言って席に戻ると、もうこちらのことを忘れたかのように書き物を始めた。

 ……期間のこと、すっかり忘れてたな。


「ま、まあ頑張れば大丈夫! 各自企画の細かいこと考えて明日持ち寄って中身確定しようよ。が、頑張ろー、オー!」


 私の見え見えの強がりに、マルクスくんとカリウスくんは苦い顔。

 リディアとマリーナは同時にポンと私の肩を叩き、


「そうね、頑張りましょ、リーダー(・・・・)


「いいとこ見せなきゃだね、リーダー(・・・・)


 そう言ってニコッと笑いかけてくる。

 は、ハメられた……。


 ぐるりとみんなを見回すが、誰も私と目を合わせようとしない。

 後ろの方で「クックック……」とレオニス先生の抑えた笑い声が聞こえた。


「もー! やるわよ、やりゃいいんでしょ。このセレナ・シルヴァーノ、逃げも隠れもしないわよ!!」



『リーダー』


 この呼び名の意味を、本気で理解するのはもう少し後の話だ。


まさに「自業自得」という言葉がお似合いのセレナでしたね(笑)

でもより良いものを追求する姿勢は見習いたいところです。


次回、第75話『原点にあるもの』


競技会準備に疲弊するセレナ達。

そこへレオニス先生が面白いものを見せてくれるといい……



セレナみたいに最近やっちゃったー!という自爆した話ってありますか?

良かったら教えて下さいね♪

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