第73話 帰郷で得たヒント
「たっだいま〜」
ヴェルダに里帰りした私は、久しぶりに我が家のドアを開け……あれ? 開かない。
帰るって伝える時間間違えたかな。
すると気付かなかったけど、ドアの隙間に挟んであった紙がハラリ地面に落ちた。
『ちょっと出掛けてくる。夕方戻るから勝手に家入ってて 〜愛するママより』
ママはまだ私が初等学校と勘違いしてるのかね。
鍵なんて寮入る時に家に置いてったじゃんか。
……しゃーない。この前作ったオリジナルを使うか。
指の先から細い魔力を少し放出して維持する。
それを鍵穴に差し込み、ゆっくりと内部に魔力を広げていく。
隙間なく魔力が広がりきったところで魔力を固め、右へ回す。
――カチッ
はい、これで解錠完了。
この魔法は一度作ったきり、ほとんど使っていない。便利すぎるものは、扱いどころを間違えると厄介だから。
私がドアノブを回して家に入ると……
「やー、お帰りー。この不法侵入者め」
「ほ、本当に開きましたね」
「セレナァ、寂しかったぞぉ」
「ワンッ!」
どれが誰かは察してほしい。
まあ唯一絶対間違えるわけないのは、
「リオー! 久しぶり、元気してた?」
そう声を掛けると、風をまとって突進してくる、風犬のリオ。
ちなみにこの突進をまともにくらうと三メートルはフッ飛べる。
なので、
『風壁』
私は手を横に一振りすると、見えない風の壁を作り出す。
リオはそこに突っ込むと、私に届く一歩手前で止まり、身体にまとっていた風を解いた。
私もそれを見て壁を解除する。
「リオ、嬉しくても風まとうのやめてってば」
そんな言葉を理解してるのかしてないのか、私に飛びつき顔をペロペロ舐めてくる。
こんなところは昔と全く変わってない。
「あははっ、セレナもリオも変わらないね」
「っていうかアミーカ、なんでこんなところいるのよ?」
「うん、私一昨日帰ってきたんだけど、たまたまマリエッタさんと街で会ってね」
「それで悪い道に引き込まれたってことね」
私はママをじとりと睨む。
相変わらず人をくった笑顔で
「やだ、セレナったら。高等学校に行って変なこと覚えてきちゃって。ママ、悲しいわ」
ヨヨヨ……と泣くフリ。
ホント、いい性格してるよ。
「お腹すいたから、久しぶりにパパの料理でも、と思ったけど、アミーカいるならアミーカの方がいいね」
「セレナァァッ! なんでそんなひどいことを」
「私に内緒でレオニス先生に私の事情話したからかなー」
「それはゴメンってー!」
アミーカはともかく、この会話は夏休み、冬休みも帰るたびに持ち出している。
もうパパとのコミュニケーション代わりみたいなものだ。
「アミーカはいつ戻るの?」
「新学期が四月七日からだから、余裕持って四月一日の朝の便で帰ろうかなって。王都まで五日もかかるからね」
「じゃああと三日はこっちいるんだね。そしたら一日、初等学校顔出したり、ルナのところに顔出したりしてみる?」
「うん、どうせ今日は夜どんちゃん騒ぎだし、明日行こう!」
高等学校に行っても、ここに帰ってきたら自分と関わってくれた人たちと会えて、一緒に懐かしめる。
この喜びは街を出ていなければ分からなかっただろう。
さて、それはともかく、
「じゃあアミーカ、私の部屋でやる?」
「うん!」
さっそく私の部屋へ移動する……前に、
「アミーカ、飲み物何欲しい? お腹は空いてない?」
「あ、そうしたら王都では紅茶ばっかりだから、たまには他のも飲んでみたいかも。お腹は大丈夫」
「パパ、あとで私たちにコーヒー二つとお菓子、私用にサンドイッチ一つお願い。呼んでくれたら取りに行くから」
「おお、分かった」
軽く手を挙げてパパは了解してくれた。
◇◆◇
二人で何をやるかと言うと、
「じゃじゃーん! 成長記録用紙ー!!」
初等学校も終わりの頃、二人で作ったものだ。
なお期待を裏切って申し訳ないが身体の成長記録ではない。
しかも用紙と言っておきながら、取り出したのは日記帳だ。
私は魔導具師、アミーカは王城料理人という目標に対して、どのくらい頑張って、何を得たのかという、要は頑張ったことを自慢し合う用紙だ。
すでにここに来る前にお互い記載はすませてある。
というか、都度書かないと忘れるので、半分日記みたいな形になったわけだ。
私たちは成長記録――いや、もう日記でいいや――を交換し、互いの一年を振り返る。
アミーカは……やっぱり貴族との確執あったんだ。うわっ、包丁取られそうになるとか、どこの貴族よ。私が隣にいたら叱りつけてやったのに。
あー、なるほど。しれっとオーギュスト様が訪問の形で助け舟出してるのね。公爵に気軽に挨拶する庶民の新入生とか、半端な貴族はもう手出せないよね。
オリヴァ? ああ、寮の同室のお友達か。一緒に学年コンテストに出て準優勝だったんだ。すごい! え、しかも出した料理が低温蒸しって……。
ズルい。
私と考えたやつなのに。
まあ、でも私はアイデアだけで、調理はアミーカだったから仕方ないか。
貴族向けの料理はやっぱり手こずったんだな。
でも先週グレッダさんに呼ばれて腕試しさせられて、六十点もらえたんだ。
……ここまで、か。
私は一度、日記帳から目を離した。
紙の上の文字が、急に重く感じられたからだ。
たった二年。
それだけの時間で、ここまで来たのか。
点数低い? ……そんなわけない。
ほんの二年前まで貴族なんて生活に一切関わらなかったアミーカが、たった二年で六十点を勝ち取ってるんだ。
しかも伯爵基準で。
相当の努力がうかがえる。
私は目に浮かんだ涙を拭って、アミーカを見ると、ちょうどアミーカも同じだったようだ。
目に浮かんだ涙を拭いかけて動きを止めていた。
「あ、あは、アハハッ、相変わらずおっかしいね、私たち」
「変なとこ似なくていいのにね。……セレナも学校入るなり大変だったんだね」
「それはアミーカもね。この貴族殴ってやりたくなったもん!」
「でもね、その人も今は仲いいんだよ。庶民だからって侮ることはおかしいって気付いたって言ってさ」
アミーカは、少し誇らしそうに笑った。
ほー。
貴族って変わらないイメージだったけど、グレッダさんみたいに柔軟な思考持ってる人もいたんだ。
「セレナこそこの、同時制御? 大丈夫なの、また目立ってない?」
「あぁ、それもう仲間内全員出来るから大丈夫! 無理やり出来るように躾けたから。……ああ、みんなも出来るようになりたいって言ったんだよ?」
「躾け……って。“嵐の五人組”もセレナに引っ張り回されて大変だね」
そう言うと口に手を当てて上品に笑うアミーカ。
ちょっとずつ対貴族相手の仕草も身につけてるんだな。
◇◆◇
「ところでさ、この学年コンテスト? 他の科でもこんなことやってるの?」
「うん、うちの学校けっこうこういうイベント多いよ」
「ふーん……」
うちの学校じゃずっと授業でこんなのないから取り入れてみてもいいかもな。
で、そのうち他の学校とも……
「あ! そしたらさ、高等学校って六校あるじゃない? 高等学校同士のコンテストってあったら面白くない?」
「他の学校と? でも貴族向けは王都しかやってないよ?」
「なら貴族向けじゃないところで競えばいいじゃん。それとかそのコンテストで王都の貴族向けの料理やマナーを披露したら、国内のレベルもアップするかもしれないし」
「へー、面白そう! ……セレナってばいつまで経っても楽しいこと考えるの好きだよね。そういうところ、本当にすごいなぁって思うよ」
と言うとアミーカはちょっと寂しそうに視線を下げる。
あれ? アミーカってこんなに弱気だったっけ?
「何言ってんの? 聞いたからにはアミーカだって共犯だからね。王都の高等学校に企画通すの任せたから」
「えっ、私!?」
「あったりまえじゃん! はい、私たちは?」
「ヴェルダ初等学校の『つむじ風コンビ』?」
「そ! 最初に引き込んだのはアミーカなんだから、今さら逃さないからね?」
私の笑顔に、最初キョトンとしていたアミーカだったけど、すぐに相好を崩し、愉快そうに声を上げて笑った。
それは口に手も当てない、昔のアミーカの笑い方そのままだった。
セレナ、いつの間に泥棒さんに!?(笑)
離れて一年、アミーカも王都で順調に成長を遂げているようで何よりでした。
次回、第74話『競技会の意味』
アミーカから聞いた競技会、さっそくウルヴィスで行うべく、いつものメンバーに披露をするセレナ。果たしてみんなの反応は?
しれっとセレナが魔法を使う回でしたが、セレナのこんな話を読んでみたい(時期はいつでも可)という希望ってありますか?
本編か、場合によっては外伝で考えようかなと思ってますので、良かったら教えて下さいね♪




