第72話 つなげられた価値
「それではまず聞かせてください。皆さんは何のためにこのイベントにいらしてくれましたか?」
挨拶の後、その一言から始まった午後の部。
レオニス先生が指した人たちが次々と理由を答える。
面白そうだった
旅の思い出作りに
大切な人へのプレゼント
ポスターが綺麗だった……
人によって本当に様々な理由がある。
私たちはそれすらも知ろうとしていなかった。
「どの理由もとてもいいですね。特にポスターを上げてくれた方。あれ私が考えたんですよ。褒めてくださってありがとうございます」
そう言って恥ずかしそうに笑うと、参加者もおかしそうに笑顔を浮かべる。
大人になるには、こういう顔を選べるようにならないといけないのかな。
今のレオニス先生が、ほんの一時間前には鬼の形相で私たちを怒っていたと思えない。
あの素の表情がここまで人を安心させるものに変わるとは。
これは……まだ私にはないものだ。
「これから作るオルゴールですが、私の研究室の学生が、皆さんの記念になればと心を込めて回路を作りました。今日作るオルゴールが、皆さんの特別になってくれたら、私たちもこの上なく嬉しく思います」
「学生たちは本日皆さまのサポートもいたします。不明点の他、日頃の魔導具に関する相談など、何でも構いません。お気軽に話しかけてください。……あぁ、ナンパだけはご勘弁ください。私の給料が減らされてしまいますので」
そこでまた笑いが起きる。
話への巻き込み方が上手いなぁ。
後は私たちが台無しにしないように頑張らないと。
「それでは、せっかくなので学生の数に合わせて五つのグループに分けましょう。ちょうど席が三人掛けなので、四つの机を合わせてしまい、一つの大きな机にします。マルクス、カリウス、手伝え」
参加者に一時立ってもらい、男手三人は次々と机を一つの大きな島にしていく。
手伝おうと近づいていったら、力仕事は男に任せて待っていろと、普段の男女平等主義の先生に聞かせたい言葉が返ってきた。
一つのグループとしたことで、参加者同士顔を見合わせる機会や、人の作る様子が見えるようになり、自然と会話や教え合う機会が増える。
先程のような手持ち無沙汰な人が出てきたら私たちが話を振り、オルゴールを作ろうと思ったきっかけを聞いて、他の人と話を繋げて会話を促す。
中には学校のことを聞いてきたり、魔導具の相談などを持ちかける人も出てきて、作ることと話すことが半々くらいの空間になっていた。
途中まで黙々と作っていた人が、近くの人に話しかけられて笑顔を見せて話しこんだり、さっさと作り上げて手持ち無沙汰な人が他の人から褒められ、自主的に教える方に回ったり、午前とは明らかに違う空気が流れる。
気が付けばあっという間に時間が経ち、終わりの時間に差し掛かっていた。
「中には出来てない人もいると思います。その場合は作り方をまとめた用紙をお渡ししますので、家で頑張ってみてください」
「たぶん大丈夫だと思いますが、どうしても分からなかったらお手紙をいただければ、わずかですが教える時間を取りますのでご連絡ください」
最後にアンケートを実習室前の教壇に提出して終了なんだけど、
「先生、楽しかったです。ありがとうございました」
「話うまいね〜。今度街の講習会とかどうだい?」
「作り終わらなかったけど、頑張って作り上げてみせます!」
そう言ったすごく前向きだったり、次に繋がるような言葉がいくつも聞こえてきた。
その全てに対してレオニス先生はとても人当たりの良い笑顔で応えている。
(完敗……だな。)
早くあの立場に追いつきたい。
私は腕を後ろに回して、ギュッと拳を握りしめた。
◇◆◇
「あぁ、さすがに疲れたな。もう講師はしばらくやらんぞ」
研究室に戻るなりいつも通りに戻るレオニス先生。
はて? 被っていた猫はどこに逃げ出した?
「先生もあんな顔が出来るんだな。正直驚きました」
そう話すのはカリウスくん。
確かに二人は似たタイプと思っていたから、いきなりアレを見せられたら驚くだろう。
私たちだって驚いたからね。
「そうか、お前らはまだ俺の授業を受けてないからな。授業は普段あんな感じだぞ?」
椅子の背もたれに深く背中を預けて目をマッサージしながら、レオニス先生はそう話す。
ええっ!? ってことは……
「もしかして先生って人気教師だったりしますか?」
「人気が何を指すのか知らんが、何度も学生たちから担任になって欲しいと頼まれることはあるな」
……そりゃ、あれで授業されればね。
今までの私なら騙してると思って、素直には受け入れられなかったと思う。
けど色々経て分かる。
これもまた人に伝えるための必要な技術なんだ……と。
集めてきたアンケートを見ると、先ほど口頭で伝えられたような好意的な感想の他、別の贈り物も知りたい、手作りキットを売って欲しいなど、午前の反省会でマリーナとリディアが言っていた可能性がそのまま結果として表れていた。
「どうだ、やり方を変えるだけで結果は大きく変わったろう?」
その言葉に私たちは大きくうなずく。
「まあ細かいことはさっき言った。実践は今見せた通りだ。次からは今度こそお前らに任せるからな」
ん?
それを聞いてちょっと気になった。
「先生、先にやり方見せてくれてからやれば失敗しなくて済んだんじゃないですか?」
私のその言葉に軽くため息をついて椅子から起き上がり、私の前に来て、
「頭で分かるのと、失敗して腹に落ちるのとでは、別物だ」
そう言って私のおでこをトントンと、指でつつく。
頭使えってことか、これは?
「体験を経ない学びは忘れがちだ。しかし体験を経た学びは自分の血となり肉となる。学校という、失敗を受け入れる場をもっと活かせ。そのためにお前らに手を貸して校長を弱体化させたのだからな」
そういう裏もあったのか。
この人は本当に『教える』ことに真面目に取り組んでるんだ。
……真面目過ぎてたまに鬼畜だと思うけど。
「さあ、この内容は俺がまとめておく。お前らは帰って休め。また明後日から学校だ。これに参加したせいで成績が悪かったなど言ってみろ? 夏休み、毎日補習を入れてやるからな」
ゲゲッ!
ヴェルダに帰ったりもしたいし、みんなとだって遊びたい。
そんなものに時間取られてたまるか!
「マリーナ、帰ろう! 勉強しとかなきゃ」
「待って! 私も混ぜて。座学苦手なの……」
リディアが珍しく焦った顔でお願いしてきた。
ほほぅ、素直ならかわいい顔出来るじゃん。
「仕方ないなぁ。いっそみんなで勉強しようか。明日の朝に学校の正門集まって、その後街の図書館行こう。マルクスくんたちどうする?」
「そうだね、どうせカリウスに勉強教えるつもりだったから、ご一緒してもいいかな?」
「はい、決まり! じゃあ明日十時に正門ね」
◇◆◇
私たちは次の日集まって勉強をしたんだけど、なんかこれがきっかけで休みの日も勉強したり、遊んだりが私たちの当たり前になっていった。
気が付けば周りの一年生からは、全校集会のイメージと相まって「嵐の五人組」という、またも謎の呼び名が付けられた。
それを聞いた時は、五人でつい顔を見合わせてしまった。
しかも私はまた風つながりかいっ!
公開講座もあれ以来少しずつ好評を得て、今やウルヴィスの魔導科の講座はちょっとした人気講座となっている。
講座で教えた魔導具のキットは、ウルヴィスの各工房に卸し、そこでの収入もある程度目処が立ってきた。
他の科でも真似して講座が始まり、学校の収入も増えてきているらしい。
さすがに寄付金を全部カットするまではいかないけど。
まさか一年目からこんなに上手くいくとは。
もはや私たちの手を離れて、イベントが勝手に成長してる気がする。
嬉しい反面、少し怖さも感じた。
まあ、こうして順調な一年生生活を過ごし、私たちは春休みを迎えることとなった。
私とマリーナは二週間の休みを利用して、それぞれの故郷へと戻ることにしたんだ。
レオニス先生、実は人気教師だったという、セレナ達にはびっくりな事実が判明しましたね。
五人組の結束もより固まりました。
次回、第73話『帰郷で得たヒント』
久しぶりのヴェルダ回。
アミーカとの話から、セレナが二年生でやってみたいことを思いつきます。
休日遊ぶようになった五人組。
皆さんは学生時代、よく何をして遊んでましたか?
良かったら教えて下さいね♪




