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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第2部:才能の値段 第1章 輪を広げる

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第71話 見誤った価値

 総参加者数百二十四名。


 ―ウルヴィス高等学校公開講座―

『大切なあの人への贈り物

 〜光るオルゴール(ムジカルーチェ)を作ろう〜』


 こんなロマンティックな命名がレオニス先生というのだから、世の中は本当に不思議で満ちている。


 あまりの参加者に午前と午後の二部構成になり、私たちは週末の休みが本格的に一日潰れることとなった。


 私は午前の部の教壇に立ち、


「――このように、最後に小さな魔石をセットすれば完成です」


 最初の説明を終えた。


 はぁ、なんで私が説明してるのよ。

 本来はカリウスくんの役目なのに……


「それでは実際に作ってみましょう。分かりにくいところがあったら、私たち学生アシスタントに声をかけてくださいね」


 そう言って教壇を降りる時に、とりあえず側にいたカリウスくんに恨みがましい視線だけ送っておいた。


「悪いな。どうも俺の説明は分かりづらかったようだ」


「当たり前よ! 一般人相手に魔導回路の詳しい説明始めた時は何してくれてんのって思ったんだから!!」


 声は抑えて話していたが、つい口調が荒くなったのは許してほしいところだ。


「あとで正座で三十分説教ね」


「ゔ……仕方ないな」


 彼に反省を促すのは正座が一番。

 肉体派魔導具師なのに正座は苦手らしい。



 私たちは教室を五分割して、各々担当エリアの参加者が困ってないか見回りを始めた。


「すいません!」


 元気よく手を挙げたのは、親子連れで来ていた小さな女の子。


「はいはーい。どこが分からないのかな?」


「あのね、ここがかたくて、はいらないの」


 見ると溝に対して、はめ込む板がほんの僅か幅広くなっている。

 無理に入れると割れてしまうな。


「よーし、じゃあお姉ちゃんが直してくるからちょっと待っててね」


「うんっ!」


 かわいいなぁ。

 私も昔は……ね。


 早々に組み立てを終えて手持ち無沙汰な人もいれば、一人で黙々と作業を続ける人もいる。


 まあそんな感じで何人かの手が上がり、それに対して私たちが質問に答えてと、大きなトラブルもなく、午前の部は終わりに近づく。


 教壇にレオニス先生が立ち、締めに入る。


「さて皆さん、今日の体験はいかがでしたか? 思ったこと、感じたことは、どうぞ余すことなくアンケートに書いていただけると助かります」


 キーンコーン、カーンコーン……

 学校のチャイムが鳴り、アンケートを集めて終了。

 思った以上に順調に進んでくれて助かった。

 午後の部もこの調子で終わってほしいなぁ。


 ◇◆◇


 アンケート用紙を持って研究室へ戻って、ドアが閉まった途端、


「何だお前らのあのやる気のなさは! あの調子なら午後の部などやる必要はない。頭を下げて帰ってもらえ!!」


 レオニス先生が突然そう怒鳴ってきた。


「な、何故ですか? 僕たちは大きなミスもなく、しっかり最後までやり切れたはずです」


「最後まで何も挑戦しなかったの間違いだ。その証拠にアンケートを見てみるがいい」


 私たちが机の上に置いていたアンケートを各々手に取り見てみると、


『よかった』

『作れた』


 一言のものばかり。中には白紙のものもある。

 私が見た中では唯一あの親子だろう。


「おねえちゃんがやさしくしてくれて、とてもうれしかった。たのしかったです」


 という拙い字で書かれたアンケートが、一番長く書かれた感想だった。


「な、何よこれ。ほとんど書いてないじゃない。私たち頑張ったってのに、何なの!」


 リディアの怒りに、すぐさまレオニス先生から


「お前らは何も頑張ってなどない。最低限の義務をこなしただけ。それ以上でも以下でもない。これでは街の者にあまりよろしくない噂が出回るのも時間の問題だな」


 そう厳しい評価が返された。

 これにはリディアも黙るしかない。

 実際アンケートの現状を見れば、そうなるだろうことは簡単に予想できたからだ。


「このままならまた寄付金優遇の流れが強まるな。マルクス、マリーナにはありがたい時間が戻ってくるぞ、良かったな?」


 マルクスくんもマリーナも心外だと言わんばかりに一歩前に踏み出すが、二人もまた何も口に出せず、それだけの動きで終わった。


「いいか、これだけは言っておく。参加者をなめるな(・・・・・・・・)。期待したものを期待したとおりに出されても喜ぶ者はおらん。それは“正解”であって“感動”ではない」


 バタンッ!


 強くドアを閉めてレオニス先生は行ってしまった。


「付加価値を付けろってことね」

「そうだね」


 リディアとマルクスくんが何やら分かった感じでそう話す。


「付加価値?」


「そう。お金を払ってオルゴール作れましただけじゃなくて、この学校で、この講座に参加出来て良かったなって思ってもらえることよ」


「でも付加価値って言っても何をしたらいいのかな?」


 うーん……

 すると珍しくカリウスくんが手を挙げる。


「たぶんあのポスターがヒントではないだろうか? 先生が意味もなくあんなやり過ぎな表現を使うとは思えなくてな」


 ポスター?

『大切なあの人への贈り物』

 カリウスくん(らしき人)が顔の描かれてない女性と一緒にオルゴールを聞いている絵が描かれている。


 そうかっ!


「きっと作るだけじゃない。参加してくれた人に物語を与えろってことじゃない?」


 例えばオルゴールを誰に贈るのか、その人はどんな人なのか、それなら何色に光らせたらいいのか。

 色は貼り付けるガラス片の色を変えればいくらでも変更できる。


 自分がそこまで考えて作ったオルゴールは、

 もう体験用の試作品じゃない。

 その人の時間を閉じ込めた、たった一つの特別(オンリーワン)になる。


 私がそういうことを伝えると、みんな納得してくれたようだ。


「それに、参加者とそういうことを話してたら、実は別に作りたいものがあるとか話が出て、次の講座に繋げられるかもしれないし」


 マリーナの言葉を受けて、リディアも


「好評だったやつは、学校で手作りキットとして売れば、収入の補助にもなるわね」


 と続けた。

 胸の奥で、確かな手応えが組み上がった。


 ガチャッ


 タイミングよくレオニス先生が入ってくる。


「ようやく分かったか、自分たちがいかに手を抜いていたか。言われたことをそのままやるだけの凡人なぞこの研究室にはいらん。お前らもここに籍を置く以上、より覚悟を持って臨め」


「午後は俺がメインに立つ。お前らは今思い付いたことをしっかり実践してこい。今度も同じようなら研究室を追い出す」


「それはっ!……」


 研究室という後ろ盾がなくなれば、おそらく校長が嬉々として迫り、退学――まではいかなくとも停学を言い渡してくるだろう。

 そして今後の学校生活が、またやりづらくなる。


 私たちはあらためて互いを見つめ合い一つうなずくと、すぐさま席についてどう物語を与えるかの討論に入った。


「午後も長い、昼食だけはしっかり取れ」


 向こうからそう声を掛けて背を向けたレオニス先生の口の端が、わずかに笑っているように見えた。


レオニス先生からの本気の指導。

セレナ達はぐうの根も出ないほどに

やりこめられてしまいました。


次回、第72話『つなげられた価値』


今度は先生の本気の講義。

いったいどのように進むのでしょうか?



今回のレオニス先生の指導


①なるほど!と思った

②最初から自分がやればいいのに


どちらで感じましたか?

良かったら教えて下さいね♪

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