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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第1部:守られる才能 第1章 幼き魔導具師の、はじまり

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第7話 はじめて灯った光

 チーズで元気が出た私は、再び机に向かう日々に戻った。


 でも、現実はそう甘くはない。

 魔導回路の「曲線」の焼き付けは、私が思っていたよりもずっと高く、分厚い壁だった。


 ◇◆◇


 それから、三回の春が巡った。

 私は九歳になった。


 この三年間、私はひたすら基礎練習を繰り返してきた。

 来る日も来る日も、木の板や金属片に魔力を焼き付ける。


 リオはすっかり大きくなって、私の座る椅子の背もたれに届くくらいの立派なシルフドッグに成長したけれど、私の技術はなかなか思うように伸びてくれなかった。


 特に、ランタンのような「曲面」に「曲線」を描く技術。

 これがどうしても安定しない。

 成功率は五割。二回に一回は失敗して、素材を焦がしてしまう。


(悔しい……。頭では分かってるのに!)


 失敗した木片の山は、もう私の背丈を超えそうなくらい積み上がっていた。

 それでも、私は諦めなかった。

 雨の日も、風の日も、指先が熱でジンジンしても、毎日毎日、ただひたすらに焼き付けを繰り返した。


 そんなある日のことだった。


 いつものように、なんの気なしに木片の上で指先を走らせた、その時。


 スッ、と。

 まるで指先が吸い込まれるように、滑らかに動いた気がした。


「……あ」


 手元を見る。

 そこには、歪みのない、綺麗なカーブが焼き付けられていた。

 焦げてもいない、途切れてもいない。

 私がずっと描きたかった、理想の線。


「できた……」


 特別な裏技なんてない。

 ただ何千、何万回と魔力を放出し続けた体が、ようやく「正解」を覚えてくれたんだ。


 熟練の職人さんが引いた線にはまだ届かないけれど、今までの迷いが嘘のように晴れた、力強い線だ。


「これなら、いけるかも!」


 私は三年間温め続けてきた計画を、実行に移すことにした。

 私の原点。ママが作っていた、あの温かいランタンを作るんだ。


 ◇◆◇


 それから数週間、私は集中して作業を続けた。

 部品に指先から魔力を流し込み、回路を焼き付け、魔石をセットし、組み立てていく。

 三年前とは違う。指先の動きはスムーズで、魔力のコントロールも格段に上手くなっていた。


 そして、ついにその時が来た。

 机の上には、私の手作りランタンが置かれている。目標は高く、ママみたいに「光量調節機能」も組み込んでみた。


「……いくよ、リオ」

「わふっ」


 足元のリオが見守る中、私は震える指でスイッチに触れた。

 お願い、光って!


 ――パッ。


「わっ!」

「ワンッ!」


 眩しいくらいの、温かいオレンジ色の光が、ランタンの中からぱっと灯った。

 工房の壁に、柔らかな光と影が揺れる。


「やった、光った……光ったー!」


 私が、一人で、初めて、魔導具を完成させた!!

 九歳にしてようやく辿り着いた、最初の一歩だ。


「そうだ、調節機能!」


 私はもう一つの目標、光量調節ダイヤルを回してみる。これを回せば、光が弱くなったり強くなったりするはず。


 クルクル……クルクル……。


「……あれ?」


 何度回しても、光の強さは変わらない。

 ずっと一定の明るさで輝いているだけだ。


「あぁ、やっぱりダメだったかぁ……」


 がっくりと肩を落とす。

 やっぱり、魔力の流れる量を制限する高度な回路は、今の私にはまだ早かったみたい。

 ママみたいなすごいランタンには、全然届かなかった。


 だけど。

 目の前にあるこの灯りは、間違いなく私が生み出したものだ。

 私が焼き付けた回路で、魔石の力を光に変えている。


「……まあ、いっか。光ったもんね!」


 不満な気持ちはどこかへ飛んでいって、じわじわと温かい達成感が胸に広がっていく。

 不完全だけど、これが私の「第一歩」だ。


 ◇◆◇


「パパー! ママー! 見てー!」


 私はランタンを持ったまま、リビングへと駆け出した。


「おおっ、どうしたセレナ! ……ん? そのランタンは…!」

「まあ、セレナ! もしかして、自分で作ったの!?」


 二人とも、目を丸くしている。

 私が得意げにスイッチを入れると、部屋の中にパッとオレンジ色の光が広がった。


「うおおお! すげえぞセレナ! 天才だ!」


 パパは感極まって私を抱き上げた。相変わらずの親バカ全開だ。


「すごいわ、セレナ。九歳でここまで組み上げるなんて……」


 ママはランタンを手に取り、調節ダイヤルを回して「あら?」という顔をしたけれど、すぐに優しく微笑んでくれた。


「調節機能はこれからの課題ね。でも、とっても綺麗な光よ。……誰かを笑顔にする、優しい光ね」


「えへへ……」


 ママの言葉に、涙が出そうになるのをこらえた。

 才能がないとか、やめようとか思ったこともあった。

 でも……三年間諦めないでよかった。


 私はパパに降ろしてもらうと、足元で尻尾を振っているリオの頭を撫でた。


「リオもありがとう。いつも一緒にいてくれたから、出来たんだよ」

「ワン!」


 この小さな灯り。

 なんてことない、失敗作混じりの小さな灯りだけど、私の魔導具師としての道は、今まさにここから始まったんだ。


 ◇◆◇


 ――それから、一年が過ぎた。


 私は十歳になった。

 鏡の前には、入学式のためにパパとママが買ってくれた、綺麗なワンピースに身を包んだ私がいる。


 髪は動きやすいように、さっぱりとしたショートカットにした。

 少しはお姉さんらしくなれたかな。

 足元には、成犬になってさらに凛々しくなったリオが、変わらず寄り添っている。


「セレナ! 準備はいいか? 入学式に遅れるぞ!」


 階下からパパの声がする。相変わらず過保護で心配性なパパだ。


「今行く!」


 私はスカートの裾をパンと払い、鏡の中の自分にウィンクした。

 あの日作ったランタンは、今も私の机の上で、いつでも輝けるように待機している。


 今日から私は、ヴェルダの街にある初等学校に通う。


 新しい場所、新しい知識、そして新しい出会い。どんな壁にぶつかっても、私ならきっと何だって乗り越えてみせる。


「よし! 行ってきます!」


 私は工房のドアを勢いよく開け、光あふれる外の世界へと飛び出した。



 なんとなく進んだ初等学校の初日。

 その日の私はまだ、退屈な毎日が、あんなにも賑やかにひっくり返されることになるなんて、想像もしていなかった。

三年の努力が実り、ついにランタン完成!

失敗もありましたが、家族の笑顔が灯りました。

そして十歳、いよいよ初等学校への入学。


次回、第8話「退屈な教室と、つむじ風の始まり」

退屈な授業に最強の相棒・アミーカが登場!

二人のイタズラが学校中につむじ風を巻き起こす!?


ここまでが第一章となります。

セレナの最初の一歩を見届けてくださって、

ありがとうございます。

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