第66話 演習場で迫られる選択
魔導科演習場。
次の日の放課後、私たちは初めて魔導科の施設を訪問していた。
「放課後も自主訓練に臨む、誇り高きウルヴィス高等学校魔導科の諸君。本日は魔導具科の訓練に場をお貸しいただき感謝する」
レオニス先生のそんな言葉から始まった訓練。
マルクスくん、リディア、カリウスくんは魔導科の先生に空中の制御方法を教わり、各々特訓を始めた。
マリーナは私と魔法の出力調整の特訓だ。
昨日寮に戻ってから、私が出力調整の特訓の話をしたら、マリーナもやりたいと言い出したのだ。
故郷に戻った時に、火魔法を使って雪を溶かす技術を上げておけば、今まで手を出せなかったところの融雪が可能となり、より暮らしやすく出来るというのだ。
マリーナのこういう面は本当に偉いなと思う。
街の領主の娘という立場もあるとは思うけど、きちんと学んだことを故郷のために有効活用しようという姿勢は、私も見習いたい。
「それではまず自分が出せる最大の魔法を、あちらの的に向けて撃ってみてください」
魔導科の三年生、フィオナさんにそう言われて、私とマリーナは手を前に構え、魔法を解き放つ。
マリーナの手からは大きな炎が飛び出し、的へと直撃する。
私が昔暴発させたものよりも大きい炎だ。
おそらくマリーナの魔力強度はAなんだろう。
続いて私の手からは一抱えできるくらいの氷の塊が飛んでいく。
氷は的に当たり、粉々に砕け散った。
「はい、それがお二人が今出せる最大の単純魔法となります。魔法を制御するには、効果と範囲を決めて『魔法名』をつける必要があります。例えば……」
『炎の槍』
フィオナさんがそう唱えると、構えた手の先から槍のように先が尖った線状の炎が飛び出し、的に当たる。
『氷の矢』
続けざま、反対の手から矢の形をした氷が飛び出し、隣の的を貫いた。
「こんな感じ。名前は合図。唱えたらその形で出る、って自分との約束ね」
「じ、自分ルール?」
「ええ。この魔法名を叫んだら、勝手にこの魔力、範囲の魔法が出るよって。もちろんそうなるまでに訓練は必要ですけどね」
はぁ。
私は自分の手をじっと見ながら今の魔法を思い出し、この手がとても不思議なものに思えてきた。
「例えば狙ったポイントの雪だけを溶かすなら、先輩ならどういう魔法を思いつきますか?」
マリーナのその質問に
「そうねぇ……火だと強すぎるから、熱を出す灯りみたいなもので私なら考えるかもしれないわ」
と答える。
私も続けて聞いてみる。
「氷魔法で相手の行動を止めるのにいい魔法はありますか?」
「えっ、倒すんじゃなくて?」
「はい。倒すとかは……ちょっと想像出来なくて」
そう言ってうつむく私に、フィオナさんは
「そうよね、魔道具師なんだから倒す必要はないものね」
と、優しく接してくれた。
いい人だな、この人……。
「それなら……相手の足と地面を凍らせて足止めするとか、ちょっと派手になるけど――クレアさん、ちょっと――面白いもの見せてあげる」
「フィオナ先輩、どうしました?」
「あの氷のやつをこの子に見せてあげてほしいの」
「はあ、それくらいなら簡単ですけど」
そう言ってクレアさんは少し上に手を向ける。
『氷の檻!』
すると、空中に氷で出来た大きな囲いが現れ、あっという間に下に落ちる。
四方と上部を氷の柵で覆われたそれは、まさに『檻』だった。
「距離があって相手が俊敏でない、もしくは多人数相手に数を減らすという目的なら、こういう方法もあるわよ」
こ、こわっ!
こんなのに捕まったらどうやって抜けたらいいのよ。
『熱球』
フィオナさんがそう唱えると、氷の檻のなかに小さな太陽のような球体が浮かぶ。
「さ、後は放っておけば檻はなくなるから大丈夫」
……な、なんか次から次へと。
頭がついていかなくなってきたぞ。
私が頭を押さえてくらくらしてると、フィオナさんが
「魔法はその人がどうありたいかを示すものでもあるの。人を止めたいっていうあなたの願いがうまく形になるといいわね」
と、激励の言葉をくれた。
「はい、ありがとうございました。フィオナ先輩、クレア先輩」
私とマリーナは頭を下げる。
私たちに「頑張ってね」と声をかけて、二人は自分の訓練へと戻っていった。
◇◆◇
「マリーナはどうするの?」
「あそこに浮いてるのあるじゃない?あれ作ってみようと思って」
そう指差す先には、さっきフィオナ先輩が作った『熱球』がまだプカプカと浮いていた。
「ああ、いいね。あれなら火事の危険とかも少なそう。私は……足凍らせるやつかなぁ。なんか檻とか落ちてくる間に人を挟んだりしたらと思うと怖いし」
するとマリーナがとても不思議そうな顔をする。
「ねえ、昨日聞いたときも気になってたんだけど、なんでセレナはそんなに身を守ることに一生懸命になってるの? 魔導具師が狙われることってそんなにないと思うんだけど?」
そうだよね、気になるよね。
……どうしよう。
いざという時のため、誰か一人には話さなきゃいけない。
危険はあるし、背負わせる重さも分かってる。でも、信じたい相手が目の前にいる。
寮でずっと一緒、自分の街のことも、領主の娘という事情も隠すことなく、話してくれた。
学校へも一緒に立ち向かってくれた。
何より、最初にマリーナに感じた、アミーカの影。
(マリーナなら……話しても、いいの…かな?)
すべてが私の中でぐるぐると渦巻いて、次第に胃がムカムカしてきた。
「だ、大丈夫? なんか顔色悪いよ?」
マリーナが近づこうとするのを手で制する。
私は崩れ落ち、
「ウッ、ウエェ……」
地面に吐いてしまう。
幸い、食べてしばらく経っていたので胃液しか出なかったけど。
「セレナッ!!」
駆け寄り、背中をさすりながら何度も私の名を呼び続けるマリーナ。
遠くから駆けてくるみんなの姿をうっすら目に捉えつつ、私の意識はゆっくりと闇に沈んでいった……
信頼して話すべきか、それとも話さずおくべきか。セレナのメンタルが急速に削られ限界を迎えてしまいました……
次回、第67話『忘れていた信頼と向き合う時』
忘れていた信頼の指し示すものとは?
セレナの事情、マリーナに
①素直に話していいんじゃない?
②話されても困るだろうから黙っておけば?
あなたならどっちですか?
良かったら教えてくださいね♪




