第63話 正しき煽動者たち
ウルヴィス高等学校講堂。
壇上には私たち五人が立っていた。
建前上は、全校集会開始前のお知らせ。
もちろん実態は……
「魔導具科の人に聞きまーす。今の学校の教え方、納得いってない人ー?」
そんな挑戦状だ。
先生たちはいったん様子見の姿勢。
これから来る校長はいい面の皮だろう。
私の質問に魔導具科の約三分の一ほどの生徒がおずおずと手を挙げ、残り三分の一はどうしよう?と迷ってる感じだ。
残り? もちろん決まってる。
寄付金の優遇者たちだ。
この比率はレオニス先生から聞いていた通りだから、別に驚くほどじゃない。
むしろ手を挙げてるマルクスくんを、驚きの顔で見つめてる彼らが面白くて仕方ない。
私はゆっくり、少し小さな声で話し始めた。
「なんでもこの学校、寄付金納めてる生徒は優遇して、他の生徒は最低限しか教えない、そんな方針らしいのね。私も入ってから知ったんだけどさ」
「そんなのちゃんとパンフレットに書いとけって思わない? うちは学内差別してますよーってね」
その言葉に魔導具科だけでなく、他の科からもざわざわっと声が上がる。
まあ魔導具科でやっといて、他の科でやらない理由ないもんね。
どこも似たようなものなんだろう。
……その時、ちょうど校長が現れた。
「これは、いったい何の騒ぎだ!」
「あ、校長いらっしゃーい。お待ちしてました」
「キッ……セレナくん、これは何だね?」
絶対キサマって言おうとしたよね?
まぁいいんだけど。
私は校長を無視してみんなに呼びかける。
「でもね、学校広いじゃん? それにいっぱい学科もあるし。お金いくらあっても足らないから、寄付金は助かるらしいの」
その言葉で、私が何をやってるかだいたいを掴んだらしい校長は、周りの先生に私たちを下がらせるよう指示する。
しかし逆にたしなめられる始末。
この辺はレオニス先生の根回しの上手さのおかげなんだろう。
私は声のトーンを一段上げ、ペースも早めに切り替えた。
「じゃあさ、人に頼ってないで、自分で稼げば良くない? 頼るからひいきしなくちゃいけなくなる。でも学校が稼げばそんなのしなくていいよね?」
そしてここでマルクスくんにチェンジする。
「僕はおそらく魔導具科で一番ひいきをしてもらってる。授業に出ていれば分かる。明らかに自分よりも腕のある仲間が抑えつけられ、僕が上位に評価されてるのが」
バンッ!
演題を強く叩くと、つまらなそうに聞いていた生徒たちもビクッとなってこちらへ注目した。
「そんなの意味があるのか? 卒業したら惨めになるぞ。高等学校は優秀な成績で卒業したのに、卒業したら落第生にあっという間に抜かされたってな。他の科のみんなもそう思わないか!?」
どよどよとざわめいたのは、おそらく優遇組だろう。ちやほやされるのに慣れすぎて、そんな想像もしてこなかったらしい。
次の出番はリディアとマリーナだ。
この間は寄付金に悩んでたようだけど、今日はとても爽やかな顔をしている。
マリーナのお母さんが様子を見にウルヴィスまで来たのだ。
そこで寄付のことなどを話をして、色々と解決したらしい。
今度ゆっくり聞いてみようと思う。
「お金は必要、寄付金は邪魔。じゃあ何でお金を生み出すのか?」
「一つが魔導具科なら開発した魔導具を街の店舗に卸せばいい。きちんと先生が使用に耐えると認めたものだけ売れば、街のみんなも安心して使えるよね?」
おおっ!と声を上げる生徒が何人か出てきた。
少しずつ話が浸透してる気がする。
「あとは魔導回路や開発設計図を工房に売ることも考えられる。要するに工房は多少の金を払って時間を手に入れ、スタッフの教育や、さらなる開発に時間をかけられる」
……なんかカリウスくんが勝手に参加してるぞ?
話に感心したのが3割、マリーナとリディアに見とれてた男どもが1割、カリウスくんにメロメロな女子が7割……まあいっか。
今日は学校の制度にヒビを入れるのが目的。
それを広げるのは私たちじゃなくてもいい。
さ、また私の番だ。
「あとね、高等学校行けなくて後悔してる人、大人になってから学びたいって思った人、たぶん街にけっこういると思うんだ」
「そういう人たちに、例えば週に一回講座を開いて、その授業料で稼ぐとかね。そこを手伝ってくれる学生は、貢献に応じて職を探す時に推薦状を書いてもらえるとかすると、学校も助かるし、私たちも助かる」
先生が並ぶ列からチッという舌打ちが聞こえたような気がする。
確かに先生には負担だろう。
ここで私は一度息を大きく深呼吸をして、みんなを見回す。
「これはきちんと自分の努力で得られる対価であって、寄付金の優遇とは全く意味が違うのは分かるでしょ?」
パチ……パチ……
何かを叩く小さな音がした。
するとその音は次第に連鎖していき、あっという間に盛大な拍手となっていく。
周りの先生たちは……賛成半分、様子見半分といった感じかな。
こんな強引なやり方でその結果なら十分すぎる成果だと思う。
「うむ、面白い演説だった。だが時間が経ちすぎたな。今日の全校集会は中止とするので、生徒は速やかに教室へ戻るように」
校長がそう告げるが、まだ話の続きを聞きたいと言い出す者、言うことに従えと言う者、今の話を元にその場で議論を始めた者など、場は混乱し始めた。
さすがにこれには先生たちが動き、次第に混乱をおさめ、少しずつクラスへ戻る動きが出来てくる。
その中で、明らかに私たちに敵意をむき出しにした目で睨みつけてきた学生が何人か見受けられた。
そしてこの人もね。
ステージ下にやってきた校長は見た目は普通の顔をしながら、とんでもないことを告げてきた。
「貴様ら、よくもこの学校をめちゃくちゃにしようとしてくれたな。マルクスくん以外の四名は退学にしてくれる」
これにはマルクスくんが即座に反応をする。
「退学にするなら僕もしてください。同じことをしたはずです」
「ふん、お前なんぞ寄付金さえなければ退学にしてやるところだ。金づる以上の価値もないお前は卒業まで大人しくしてるがいい」
くっ! 校長めっ!!
すると、
――カチッ
近くにいたレオニス先生が何かの箱のスイッチを押した音がする。
「校長、それはいけませんな。しっかりと録音させてもらいましたよ。これを彼の工房へ差し出したら……どうなることか」
校長の顔がさっきまでの怒りの赤から一気に真っ青に変わる。
「ろ、録音だと? 馬鹿な、そんな魔導具が開発されたなど聞いたこともない。ハッタリも大概にしろ」
「そうですか。この一年で私の異名をお忘れのようだ。セレナくん、教えてあげたまえ」
「え!? えーと、ウルヴィスの腹黒教師?」
パーン!
小気味いい音を立てて私の頭を殴ったのはリディアだ。
「バカっ! 王都一の開発者でしょ!」
「王城にすら出してない、試作の魔導具はいくつもありましてね。これはその一つ。専用の再生機にかける必要はありますが、しっかり録れていますよ。なんなら職員会議で流しましょうか?」
余裕たっぷりに言い放つレオニス先生に、今度こそ校長は諦めたようで、
「くっ、仕方あるまい。退学はなしだ。しかしこの混乱をもたらした責任は取ってもらう。五人とも三日間の停学だ」
「まあそれくらいなら妥当でしょうな」
えー!? 助けてくれるって話は?
まさか騙された?
「ところで、研究室付きの生徒は教授職の裁量で多少の無茶は許されましたよね?」
「なんだ、こんな時に? ああ、そこの裁定は任せている……が、まさか?」
「ええ、すでにこの五名は私の研究室付きです。なので裁定は任せていただけるでよろしいですね?」
「くっ! 勝手にしろ!!」
不機嫌さを隠そうともせず、校長は大きな足音を立てて講堂から出て行った。
「お、終わったぁ。総力戦でなんとか一撃ってところね……」
マリーナがへなへなと座り込み、リディアはマリーナの肩をポンと叩く。
「よく頑張ったわよ、私たち。話に引き込まれてた学生も大勢いたわ」
「あとはこれからね。校長はもちろんどっちつかずの先生も、寄付金優遇の生徒も、まだまだすぐどうこうは変わらないだろうから」
するとレオニス先生がファイルで私の頭を軽く叩く。
「お前らの活躍はここまでだ。あとは大人の仕事だからな。あの拍手を引き出した時点で十分な勝利としておけ」
「――でも!」
「二度は言わんぞ? 半人前が一人前ヅラをしてこれ以上出しゃばるな」
それだけ告げるとレオニス先生は講堂を去っていった。
そうだ、私たちは学生。
学校の経営や、保護者との調整、街との調整なんて手を出せるわけがない。
提案までが精一杯なんだ。
確かに学校に一撃を入れて大きく揺さぶった。
今日の私たちは十分な成果を残したはずだ。
だけど、胸に残るこの敗北感。
ガツンと殴られたかのようなこの胸の痛みは、しばらく消えそうになかった。
半人前が〜という言葉は、厳しいながらもセレナ達を心配するレオニス先生なりの励ましにも聞こえましたね。
次回、第64話『常識の終わり、開発の始まり』
レオニスの研究室で与えられる初の高すぎる難度の課題。セレナ達はどうクリアするのか。
全校集会でみんなの前で話したことってあります?
良かったら教えてくださいね。
ちなみに私は部活の関係で英語のリーディングをやらされたことがあります。
もう英語なんてほぼ忘れましたけどね(笑)




