第62話 秘密会議の招待客
「レオニス……教授? お一人ですか?」
「ああ、そうだ。尾行は複数でやるとバレるリスクが高くなるからな」
私の質問に、そんな物騒な答えが返ってきた。
ただ、私の聞きたいのはそうじゃない。
「男性一人でこの店入るとか、よく勇気ありますね……」
ピシッ!
気のせいかな、何かが割れた音が聞こえたような。
教授の眼鏡は無事だし、心でも割れたかしら?
「い、今大切なのは内緒話の中身。違うかな、セレナ・シルヴァーノくん?」
初対面でいきなり名前を言い当てられて、ドキッとする。
なんで分かったんだろう?
「学校からは使える要注意人物扱い、親からはうかうかしてると良くも悪くもとんでもないものを引き当てる、おもしろ娘扱い」
パパ……だよね?
今度帰ったら学校戻るまで無視してやる。
「べ、別に心の中でどう思ってても、僕たちは表向ききちんと従ってるんですから、非難されるようなことはないはずです!」
マルクスくんが焦ってそんな言い訳をし始めたけど、
「ああ、問題ないぞ? 俺が少しでも悪いとか言ったか?」
と、サラッと返される。
そう、なんかこの人、場を楽しんでるみたいなんだよな。
「で、先生、用件は?」
「そうだな。まず俺が今ここにいるのは学校の指示ではないことは伝えておこう。でないとうるさそうなのがいるからな」
そう言ってマルクスくんとリディアを見る。
二人、特にマルクスくんは今やり込められたのもあり、悔しそうに拳を震わせる。
「なに、種明かしをするとだな、たまたま廊下を歩いてるところにお前らの話が聞こえてきて、この店に来るというから後からこっそり付いてきたわけだ」
レオニス先生は手を広げて、以上!というポーズをとって見せた。
……うん、まとめようか。
私たちは学校に何かしら不満を持ってる。
レオニス先生は興味本位で付いてきた。
なんで?
私が悩んでいると、レオニス先生が、
「お前ら、俺の研究室に入らないか?」
と、謎のスカウトをかけてきた。
「何の冗談だ?」
今度はちゃんと話を聞いていたらしいカリウスくんがそうツッコむと、おおまかな話をしてくれた。
要するにいくら何でも寄付金で優遇ばかりしていたら、学校の質が問われかねない状況も出てくる。
そこで教師がこれはと目をかけた生徒については、研究室に配属させるという名目で管理を行い、その生徒については評価の天井を取っ払おうというものらしい。
「はんっ、学校もそこまでバカじゃないってことね」
なるほど、優秀な学生をより引き上げるのは必要だけど、全員にしてしまうと寄付金優遇の意味がなくなってしまう。
結局拾える数には限界がある。
そこの制限のかけ方が上手いと思ってしまった。
ところで。
「学校からは使える要注意人物扱い」
私を最初にそう評したってことは、私を引き入れることの危険性も分かってるはず。
「なんで私たちを?」
「使える評価をされてる者を放置する意味が分からん。今のところ製図トップと付与トップ、それを複合させたトップに、二番手につける寄付金トップ、後は根っからの研究バカ」
それぞれ私、リディア、マリーナ、マルクスくん、カリウスくんを指差す。
「お前たちをトラブルなく使いこなせば、俺の評価は上がる。お前たちも好きなだけ魔導具に打ち込める。どちらにも得があるだろ?」
「で、本音は?」
そんな“当たり前”な理由で私たちを引き込むような人じゃない。
ここまでの会話で分かる。
この人は、こう、もっと破天荒なことが好きな人だ。
レオニス先生は私を一瞬だけ睨むと、すぐ諦めたように答え始める。
「……学校がつまらんのさ」
「つまらない?」
「そうだ。セレナ、お前になら分かるんじゃないか? 権力を持ったものに真っ向から挑むと何が起きるか。ルキウスのことだ」
あぁ、この人はパパの王都出奔の理由を知ってるのか。
「俺は奴とは別の形で王城に喧嘩を売ろうと考えた。スカウトは蹴る。しかし開発結果は共有し、手柄はそちらに譲るとな。そのうち俺抜きでは王城魔導具部門は立ち行かなくなるほど影響力を上げてやると」
「だが、時間が足りないことを知った。俺の代では無理だ。ならば後継者を作ろう。その思いでここに来たんだが……」
「ロクな後継者もいない、寄付金っていう変な鎖に縛られて動くに動けないってわけね?」
リディアの言葉にレオニス先生はうなずく。
「お前らはちょうどいいのさ。学校のやり方を良しとしない。現時点での腕前はトップレベルが揃っている」
「俺は別にトップではないが……?」
カリウスくんが口を挟む。
こんな時でも無表情で淡々と話す彼は実はとてもすごい人なのかもしれない。
「お前は……単純に俺の興味だな。教師に廃棄扱いされた魔導回路を見たが、お前作るのは下手くそだが、考えるのは好きだろう?」
「ああ、魔導具について考える時間は何よりも楽しい。新しい回路、出力調整、付与のアプローチなど、俺はそれを考えて生きていきたい」
意外にもこの時ばかりは頬が少し赤らんで、とても熱っぽく話す。
カリウスくん、そんなに研究好きだったのか。
「だから正しく後継者という意味ではお前だな。他の奴らは学校を変えるという目的で協力したい」
そこからは私の大好きな悪巧みタイムだ。
さっきの学校の抱える問題と、お金儲けの話をレオニス先生に話し、どう伝えたら効果的か考える。
「よし、これでいこう」
ようやく話がまとまったけど、一つ大きな疑問が。
「これ、学校がそれは無理っていったらおしまいじゃないの?」
それを聞いたレオニス先生はふっと笑う。
「私が一年無為に過ごすわけがなかろう。ちゃんと学校、いや、校長が話を聞かざるを得ないものは整えてある」
「それどうやって信じたらいいのよ。それが効果的なのか、それにそもそも動いてくれる保証は?」
するとレオニス先生はカバンから封筒を取り出す。
「すべては見せられん。タイトルだけだぞ?」
そこにはウルヴィス高等学校の決算書とあった。なんでこれが証拠なの?
「あっ!? まさか寄付金の一部を校長たちが……」
「そこまでだ」
マリーナの言葉をレオニス先生が手で制す。
なるほど、そういうことか。
いくらなんでも証拠そのものとは考えづらい。
おそらくそれを匂わすことができる程度の材料なんだろう。
「あとは、そうだな。明日にでもお前たちは私の研究室所属になってるだろう。校長の許可も必要とせず、何故か……な」
「いいんじゃないか。今の流れを見ても、騙す気なら俺達にそこまでするメリットが感じられない」
「そうだね、僕もいいと思う」
カリウスくん、マルクスくんの言葉に、リディア、マリーナもうなずく。
「では仕掛けは今度の全校集会。お前たちキッカケで始まる茶番を、俺が盛り上げる。ただし目的はあくまでも学校の正常化だ。くれぐれも校長を排除しようなどと勘違いするなよ?」
その言葉に全員がうなずき、この秘密会議は幕を閉じた。
そして、あの激動の全校集会が始まる――
学校からの刺客かと思いきや、意外と熱かったレオニス先生。一人でお店に入った時の本音の気持ち聞いてみたいですね(笑)
次回、第63話『正しき煽動者たち』
セレナたち5人組 vs 全校生徒+教師
どういう反応を引き出せるのでしょうか?
男として(女として)、このお店一人で入るのはちょっと恥ずかしいなぁというのはありますか?
良かったら教えてくださいね。




