第60話 静かな反対者たち
「セレナさ、学校好きじゃないでしょ?」
ある日の夜、マリーナにそんな爆弾発言を投げつけられた。
「はぁっ!?なら何で入学してるのよ」
出来るだけ冷静に、冷静に。
はやる胸の音を小さいため息で落ち着かせようと努力してみる。
まだマリーナを信頼する材料が集まってるわけじゃない。
まだ早い。
「知らないよ、そんなの。でも、セレナ見てると学校の中と寮の中で全然違う顔してるよ? 自覚ないの??」
明るいだけの子じゃなかったかぁ……
きちんと人を観察する目を持ってる。
これは、私が迂闊だった。
「初めての高等学校で疲れちゃっただけだよ」
「ホント?」
「うん。マリーナに心配かけさせちゃってごめんね」
それでマリーナは引き下がってくれた。
ふぅ……
学校での態度ももう少し気をつけないとな。
◇◆◇
「今日は以前行ったランタンのメイン装置と外装を組み合わせて、ランタンを完成させる。出来たものから挙手で知らせるように」
なるほど、だから今までの授業で出来上がったものを回収されてたのか。
私は手元に配られた、回路と外装を改めて確認する。
ん?
外装の付与が私のものじゃない。
すると、
「なお、メイン装置も外装も、基準に満たないものは、学園の“スタンダード”なレベルのものと取り替えてある。組み合わせて事故が起きてはまずいからな」
なるほど、不良品は扱わせないってわけね。
…………
こころに暗い影が落ちる。
子供の頃以来の火魔法をあたりに打ちまくって、学校を破壊したい衝動にかられる。
ふと、マリーナと目が合った。
すごく心配そうに私を見ている。
……ほんと、マリーナが信頼できるなら、今すぐ打ち上げてしまいたい。
私は笑顔を作ってマリーナに手を振ると、再び手元の素材に目を向けた。
要はランタンを教科書通りに組み立てればいいんでしょ!
そこからは早かった。
教科書の手順だけを頭に叩き込む。
素早く手を動かす。
それだけだ。
何も考える必要はない。
「出来ました!」
手を挙げる私。
ランタンを確認し、満足気に笑う教師。
私はいつまで我慢すればいい……
握り込んだ拳、手のひらに突き刺さる爪が皮を突き破りそうだ。
その時
「出来ました!」
マリーナが手を挙げる。
それを見た教師が
「……うん、まあよろしい」
と、歯切れの悪い返事をした。
なんだ、今の反応?
◇◆◇
授業終了間近、ランタンは回収されるため、私はすぐにマリーナの席にいき、回収される前のランタンを見せてもらう。
「マリーナ、ランタン見せて!」
「え、うん。別にいいけど?」
パッと机の上からランタンを取り上げ、一通り確認する。
な、なんだ、これ。
完成度が私のよりはるかに高い。
ランタンをつけても内部温度が高くならない。
火の魔石を下ではなく、上に装着することで、回路が短く、魔力をより効率的に使える。
ランタンの下には網目状の金具が付けられていて、下から排熱処理が出来るようになってる。
これなら耐火処理すら必要ないかもしれない。
下に置くのは向かないけど、吊るす形のランタンなら、ちょっとした暖房効果もあるかもしれない。
「マリーナ、これ耐火処理は?」
「うん、薄くだけね。そんなに必要じゃないから」
やっぱり!
だけど、これは教科書通りではないはずだ。
その時、ランタンを回収しに教師がやってきた。
「セレナくん、席に戻りなさい」
「先生!これは教科書通りじゃありません。なのに何で評価されるんですか!?」
「それは君が知る必要のないことだ。我々は“全体”を見て教育をしている。“過度な独自性”は教育の場では扱えない。これは評価に値する。君の外装は評価に値しない。我々がそう判断した。それが全てだ」
そう言い教師はランタンを回収して去っていく。
私は奥歯を噛み締め、
「セレナ……」
そう声を掛けるマリーナへ振り向くことなく、自分の席に戻った。
◇◆◇
授業が終わり、教師が実習室を出て行く。
私に近づいてくるマリーナを感じつつ、さっきひどい態度をとってしまったので、どうしようかと迷っていると、
「セレナさん、ちょっといいかな?」
そう声を掛けてきたのはマルクスくんとカリウスくん。
いや、正確に言えばカリウスくんはボーッとしながらついてきてるだけだったけど。
「ちょっと話したいことがある。放課後少し時間を作ってくれないか?」
こ、これは!
まさかウワサに聞いたことがある告白タイム!?
「あ、マリーナさんも一緒にお願い出来るかな?」
私の妄想は一瞬で崩れ去った……
近づいてきてたマリーナは少し驚いた顔をして、了承の合図を送った。
そしてあっという間にその日の放課後。
誰もいなくなった教室で、私とマリーナ、マルクスくんとカリウスくんの4人、そしてリディアが残っていた。
「リディア、何でいるの?」
「アンタ、私に魔導回路教える約束だったでしょ!そっちの話が終わるまで本でも読んで待っててあげるから、早く終わらせてよね」
するとマルクスくんがリディアに向けて、
「いや、リディアさんも一緒に聞いて欲しい。たぶん君もセレナさんと同じな気がするから」
リディアは訝しげな顔をしながら、開こうとした本を閉じて、こちらの輪に加わった。
「いったい何よ?」
「二人とも、この学校の評価が何で決まってるか知ってる?」
「そんなの教科書通りに出来るかどうかじゃないの?」
私はつまらなそうにそう答える。
「それも間違いじゃない。ただ、それ以上の評価軸があるんだ」
「寄付金……だな」
マルクスくんとカリウスくんが続けてそう答える。
寄付金……なるほどね。
「僕の家はウルヴィスでも最大の規模を誇る工房『石のささやき』を経営してる」
「あ!それ私が……いや、何でもない」
内緒って言われてたのすっかり忘れてた。
するとマルクスくんが苦笑いを浮かべ、
「いいんだ。セレナさんが月一で働きに来ることも知ってる。もちろん、その技術を盗むことが目的なのもね」
――その時、リディアがマルクスくんに掴みかかった!
「あんた、ヘラヘラ笑って、自分が何言ってるか分かってるの!!」
すると、マルクスくんはリディアの肩を突き飛ばす。
「分かってるさ!俺はもう嫌なんだ。工房の跡取り息子だからと特別扱いされるのも、うらやんだ目で見られるのも!!」
いつも朗らかなマルクスくんからは想像出来ないほどの怒った顔。
突き飛ばされたリディアは呆けた表情でマルクスくんを見ていた。
「授業中の手際を見てれば分かる。回路のことならセレナさん、付与のことならリディアさんに僕は敵わない」
「僕は今、学年一番の評価をつけられてるそうだ。笑っちゃうだろ?僕は、僕が評価されている理由を、誰よりも分かっている。それは、寄付金を一番多く納めてるからだよ!!」
そう言ってマルクスくんは、机に手をつき、顔をうつむかせた。
そして落ちる一滴の涙。
こんな時に何だけど、私は男の子も泣くんだなぁと、変なことを考えてしまった。
「マルクスが泣いてしまったから代わりに言うが、要はセレナさんもリディアさんも、優れた腕を持ってる。マルクスはそういう事を直接言いたかったらしい」
カリウスくん、台無し!!
ほら、マルクスくん、頬赤くなってるじゃん。
可哀想……それとも男の子ってこんなものなの?
まだ時間はありそうだな。
「ねえ、こんなところで話してたら誰に聞かれるか分かんないよ?ちょっと場所移動しない?」
「いいけど、アテはあるの?」
「うん、受験の時にパパと入ったカフェが、個室もあったからさ。あそこなら大声さえ出さなければ大丈夫だと思うよ」
そう、マルクスくん以外のみんなの価値観を分かってない今は、まだ動けない。
せめて残りの三人がどう思ってるかは聞き出さないと。
「それはいい。俺はパフェというものを食べてみたかったんだ」
カリウスくんが不思議なセリフを吐く。
うん、分かった。
この子、真面目なのにズレてるんだ。
悪い子ではなさそうだ。
「よし、それじゃあ街に繰り出そう!」
私のわざと元気よく言った声に、みんな元気なさそうに返事をする。
こんなんで大丈夫かなぁ……?
評価基準は寄付金?腐敗した実態に、マルクスの涙と怒りが爆発しましたね。
次回、第61話『代わりの道』
学校の状況を整理し、セレナ達が見いだした提案とは?
自分の力だけではどうしようもない、そんな悔しい思いをした経験、皆さんにはありますか?




