第58話 観察期間
つまらない話の続く入学式も終わり、私はクラスに戻ってきた。
魔導具科は全部で四十名。初等学校の時より少しだけ少ないクラスだ。
マリーナも一緒のクラスなのでとても心強い。
私の席の隣に、金髪の男の子が座る。
「あれ、君は……」
「あっ、さっきの……」
いや、別に運命の出会いとかではないから期待しないよーに。
今朝寮を出てすぐのところでおばあさんが足をくじいて座り込んでたんだけど、私一人の力でうまく助けられなかった。
そこに通りがかって助けてくれたのが、この金髪少年。
ふたりでおばあさんの家まで送り届けたのだが、入学式には遅刻。
しかしこの様子をたまたま見ていた先生のお陰で、お咎めどころかお褒めの言葉をもらい、入学式で私たち二人は変な注目を浴びてしまったのだ。
「そっか、同じ魔導具科だったんだ。僕はマルクス。マルクス・セプティマ。よろしくね」
そう言って手を差し出してくる。
私も机から立ち上がり、
「私はセレナ・シルヴァーノ。こちらこそよろしく」
するとそこへ銀髪の体格のいい男子がやって来る。
見た目はかなりカッコいい部類に入るかも。
周りの女子からチラチラと熱い視線が投げられている。
「マルクス、入学早々ナンパか?」
「バカ言うな。さっき聞いてたろ?朝おばあさんを一緒に助けたセレナさんだよ」
すると銀髪の男子は、ふと上を見上げ、再度マルクスに向き直る。
「そうか、すまん。魔導具の思索をしていたから、全く聞いてなかった」
「お前はいっつもそれだな……」
マルクスは頭を抱えてうつむく。
「あ、セレナさん、紹介するよ。僕の幼なじみでカリウス・フィディリスだ。魔導具師のクセに体を鍛えるのが好きな変なやつだよ」
「何を言う。将来素材を自分で取りに行けたほうが研究費が安く済むだろ。強くなるに越したことはない」
「いいから、セレナさんに挨拶しろよ。失礼だろ」
なんか……変な人だな。
とてもマイペースというか、我が道を行く人というか。
パパと違った意味で『我道』だな、この子。
「セレナ・シルヴァーノ。よろしくね」
「カリウスだ。まあ名前くらいは覚えておいてくれ」
そんな交流もありつつ、とりあえず私は初日のオリエンテーションは無事に乗り越えられた。
◇◆◇
「セレナ、朝イケメン二人に声かけられてたけど、どっちと付き合うの?」
――ブフォッ!
ちょうど喉を通そうとしていたココアが全て机の上にぶちまけられた。
「ゴホッ、ゴホッ、何訳わかんないこと言ってんのよ、マリーナ」
私は机の上を拭きながら、マリーナに抗議する。
「あれ、違ったぁ?」
そう言う顔は笑いっぱなし。
こいつ、わざとやったな?
「違うに決まってんでしょーが!聞いてたでしょ、おばあさん助けた話。それで挨拶しただけよ。銀髪の子はお友達ってさ」
「なーんだ、つまんないの」
ほぅ、それなら……
「マリーナ、くすぐり苦手って言ってたよね?」
「うん、苦手だけど……そんなことセレナに言ったっけ?」
よし、聞いたぞ!
私は素早くマリーナの後ろを取ると、脇の下に手を入れてくすぐり始める。
「ちょっ! くすぐっ、やめっ、……きゃははははっ!!」
身をよじって逃げようとするが、もちろんそんなことは許さない。
「ほらほら、きっちり謝ってもらいましょーか?」
「わ、キャハハ、分かっ、ウフッ、ごめん、ごめんってばぁ……アハハッ」
それを聞いて、私はマリーナを解放した。
床に這いつくばって、ハァハァと息を荒げるマリーナは、恨みがましい目で私を見る。
「セレナ、覚えてなさいよ」
「マリーナが悪いんでしょ。先に人をからかってココアを駄目にしたんだから」
お互い厳しい目つきで相手を見ること五秒。
ふと、どちらからともなく「プッ」と吹き出し、お互い大笑いする。
「あー、ごめんごめん。もうからかわないから」
マリーナは両手を挙げて降参のポーズだ。
「よし、許す!」
マリーナの頭をグリグリ撫でると、ふと足元に教科書が落ちているのに気付いた。
「マリーナ、何これ?」
「うん、明後日早速魔導回路作成の授業でしょ?ちょっと予習しとこうと思ってさ」
早速試練の時が来たか。
私はきちんと学校の望む答えを出し続けないといけない。
余計な回路は考えないようにしないと……
「ん?セレナ、なんか顔が暗くなったけど、回路作成苦手なの?」
「えっ、いやいや、得意な方だよ」
どうしよう?
マリーナに打ち明けて味方に付いてもらうか?
…………
いや、まだ早すぎる。
もう少しマリーナを含めて、みんなの立場や性格を見極めてからだ。
何せ賭け金は私の退学だ。
今勝負するような場面じゃない。
「楽しみだね、早速の実践授業」
私はその迷いをいったん心の奥底に沈め、マリーナに笑いかけた。
ちょっと訝しげな顔をしたが、マリーナも気にしないことにしたらしい。
「うん、私も楽しみ!こういう授業ばっかりならいいのにね」
「それは……学校が破産しちゃうよ」
何せ高等学校で使う素材については、全て学校負担らしい。
毎日何かしらの素材を使い続けたら、学校側もたまったものではないだろう。
「それじゃあ私も少し勉強するよ。私はこっちだけど」
そう言って取り出したのは魔物図解事典。
初等学校卒業前、グレッダさんが家に来た時に王都の最新版を送ってくれるようお願いしたものだ。
お金ちゃんと払うって言ったのに、
「俺からの卒業祝いだ」
とかなんとか言って、絶対払わせてくれなかったけど……
「すごーい、それ最新版だね。高かったでしょ?」
「卒業祝いでもらっちゃったから分からないんだよね。……やっぱ高いの?」
「うん、だって……」
マリーナが言う価格は、普通の家庭なら半年は働かなくて過ごせるくらいの金額だった。
「そ、そんなに高いものだったんだ……。やばい、今度何かお返ししないと」
冷や汗を流しながら手に持ったその本は、先ほどよりも重みを増した気がした。
それにしても……マリーナは信じていいんだろうか?私の計画を話して問題なさそうな確信が早く欲しい。
いい子だけに、余計にその思いは強くなった。
そして二日後、初めての回路図作成の実践授業の日。
私はここで二人目の女子のお友達(?)と出会うんだ。
イケメンとのフラグも生存戦略にするセレナが最高!マリーナとのじゃれ合いも可愛い♥
次回、第59話「正しい付与と、売れる付与」
教師が求める「平凡」への反発を我慢するセレナ。そこに自信満々なライバルが現れて!?
皆さんは異性と話して「付き合ってるの?」と冷やかされた経験、学生時代にありましたか?




