第57話 最初の居場所
ウルヴィス高等学校、女子寮。
今日から三年間、私の家はここになる。
学校は私を抑え込もうとしてくる。
味方も誰もいない。
一人ぼっちのスタート……このときはまだ、そう思っていた。
◇◆◇
玄関はガラス張りで広く明るい。
入ってすぐそばに寮母さんの部屋があるようで、何人かの生徒がそこに群がっていた。
後ろに並び、順番が来る。
名前と初等学校の名前を言うと、
「セレナ? あなたがそうなのね」
そんな意味深なつぶやきと共に部屋の鍵を渡される。
どういう意味か聞こうとすると、すぐ次の生徒に押されて結局聞けずに終わってしまった。
(まさか学校から何か情報がまわってる?)
出だしから不安しかない。
これで同じ部屋の子まで見張りみたいな子なら、しばらく立ち直れないかも。
足取りも重く、私はゆっくりと階段を登り部屋へと移動した……
◇◆◇
「わたしマリーナっていうの。よろしくね?」
どこかで聞いたことのあるような自己紹介で笑顔を向けてきたのは、学校の寮で同室となった女の子。
緑の髪を後ろで無造作に縛った、ニコニコ顔の女の子。
同室の子がどんな子かと心配だったけど、この子なら大丈夫そうかも。
私は寮に来て初めてホッと安堵のため息をつくことが出来た。
「私はセレナ。仲良くしてね」
差し出した私の手をギュッと握り返してくるマリーナを見ると、ふとアミーカを思い出す。
(アミーカも元気でやってるかな……)
遠い王都で頑張る親友に思いを馳せながら、私は部屋に届いている荷物を紐解き始めた。
◇◆◇
「私が寮母のヴァレリア・ドミティウスだよ。いかつい名前の通り厳しくいくから、みんな覚悟するようにね」
そんな冗談なのか本気なのか分からない挨拶から入寮説明は始まった。
顔つき見る感じだと絶対優しい人だと思うんだけどなぁ。
まあ簡単に説明すると門限は二十時。
これを三回破ったら親呼び出しの面談、五回で退学・退寮。他はまあ人に迷惑かけないレベルの注意事項。
これくらいなら大丈夫そうかな。
学校と寮は歩いて三分程度の距離しかない。
門限五分前に学校を出てもギリギリ間に合う。
というかこっちが意外だったけど、けっこう寮内イベントがあるらしい。各月の誕生祝いとか、年末・新年パーティーとか。
この寮母さん、さてはイベント好きだな?
私も楽しいことは大好きだ。
そこをフックに仲良くなって味方に引き込めたらいいんだけどな。
――バタンッ
その時広間のドアが開く。
入ってきたのはとても上等な生地の服に身を包む金髪の女の子。
何を言うでもなく一番後ろの席に座り、足を組んでつまらなそうに話を聞き出した。
『ねぇねぇ、あの子確か貴族の……』
『あぁ、受験の時に馬車でお迎えが来てた……』
周りからそんな声が聞こえてきた。
なるほど、特権階級ってわけか。
ああいう人も王都以外の高等学校に来るのだと、ちょっと意外な気がした。
◇◆◇
部屋に戻るとマリーナが、
「セレナさんって何目的でここ来たの?」
と聞いてきた。
「私は……開発を学びたくて、レオニス教授の授業を聞きたくて、ここ選んだの」
「えーっ!ホント?私もそうなの。一緒だね」
ひどく驚いた顔の後、マリーナは嬉しそうに笑顔を向ける。
「ここって魔導具師になりたいって子が多いじゃない?作るだけってつまらないと思うんだよね。やっぱ新しいことやりたいじゃない?」
熱っぽく語るマリーナ。
――その感覚は私にもよく分かる!
この子とは仲良くなれそうかもしれない……
「そうだよね!やっぱり新しい物作ってこその魔導具師だよね!?」
「うんうん!」
「マリーナさんは何か作りたいものあるの?」
そう聞くと、マリーナは自分の机をゴソゴソ探し、一枚の紙を取り出して私に見せた。
「これは……?」
「うん、私、北のボレリアスの出身なんだけど、冬になると毎日雪が降るような地域なのね。屋根に積もる雪放っておくと重みで家つぶれちゃうくらいなの」
家が潰れるくらいの雪って……
そんなに大変な地域があるなんて初めて知ったな。
「だから、家の屋根に布をかけて、そこに雪を溶かすような仕掛けを入れられたら、屋根に登っての雪かきをしなくていいなって。そういう魔導具を作りたいんだ」
――すごいっ!
思わず鳥肌が立った。
私みたいに人のためにっていう視点で、もう具体的な魔導具を考えついてる子が、まさか同年代にいるなんて。
過酷な状況だからこそとは思うけど、それでもそういう夢を持ってるのは尊敬する!
「マリーナさん、それ手伝わせて!私もやってみたい!!」
「えっ、いいの?」
「もちろん!在学中に完成させて、少しでも早くみんなに楽になってもらおうよ」
真剣な目でそう伝える私を見て、その場限りの冗談ではないと、マリーナも分かってくれたみたいだ。
「うん、うん、分かった!セレナさん、手伝ってくれる?」
「もう堅苦しいから「さん」付けなし!セレナでいいよ。私もマリーナでいいかな?」
「うん、よろしくね、セレナ」
「よろしく、マリーナ」
あらためて握手する。
交わす笑顔は朝と違ってお互い心からの笑顔、少なくとも私はそうだった。
マリーナのおかげで油断ならない高等学校生活の、一つ目の安心できる場所が出来た。
こういう場所をどんどん増やしていかなきゃ。
そして、まさかこの出会いが「実験馬鹿コンビ」として、レオニス教授に目を付けられるキッカケになろうとは、この時は思いもよらなかった。
寮で出会ったマリーナの切実な夢。雪国を救う発明へ、新コンビ結成!
次回、第58話「観察期間」
入学早々、イケメン二人と急接近? そしてマリーナが床に這いつくばる理由とは?
初対面の人と、共通の趣味や夢の話ですぐに意気投合した経験、皆さんにはありますか?




