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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第2部:才能の値段 第1章 輪を広げる

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第56話 高等学校編プロローグ〜優先順位〜

 時は遡ってウルヴィス高等学校受験当日。


 私はパパと一緒に乗り合い馬車で三日のところにあるウルヴィス温泉都市にやってきた。

 街の至る所に温泉施設があり、どこもとても賑わっている。


 ——ここで、私の進路が決まるんだ。


「どうだセレナ、緊張してないか?」


「緊張はしてないんだけどさ、競う相手が同じ目標持って集まってくる人たちばっかりでしょ? だから大丈夫かなぁとは思ってるよ」


「まぁお前はママの子だ。魔導具の修業だってしっかりやってきた。そこはパパもママも認めてる。安心してしっかりやってこい!」


 私の背中をポンッと軽く叩くとパパはいつも通りニカッと笑う。

 そうだね、私だけじゃない。

 見守ってくれた、育ててくれた、たくさんの人のためにも頑張って合格しないと。


 私は頬をパンッと叩いて


「うん、頑張る!」


 と力強く宣言した。


 ◇◆◇


 ――ガラガラッ

 扉を開けると一斉に受験者達の視線が私を突き刺す。


 値踏みする視線、興味を失って本に落ちる目、私を見て周囲を探る視線。

 反応は様々だった。


(ふぅん、ちょっと雰囲気あるな……)


 周りの空気に押されそうになり、私はふと胸に下げているネックレスを服の上から触る。


(でも、こんなところで躓いてる場合じゃないんだ)


 キュッとネックレスを握り、王都で知り合ったみんなの顔を思い出す。

 ……うん、頑張れる。


 私は顔を上げ、席について、静かに試験開始を待つことにした。

 ここで勉強とかしたら、それは私のペースじゃない気がしたからだ。


 大丈夫、自分を信じよう。

 そう思いながらも、私は膝に乗せた手が固く握られていくことに、全く気づくことはなかった……


 ◇◆◇


「それでは、はじめ!」


 試験官の声にバサバサッとテスト用紙を裏返す音が教室を支配する。

 そして次に襲い来るカリカリと何かを書く音。


(うわ、学校のテスト思い出すなぁ)


 ……クラスのみんなは頑張ってるかな?

 アミーカはどうだろう?


 私は必死に解答欄を埋め続け、埋め終わると同時に


「やめっ!」


 と号令がかかった。


(あ、あっぶなぁ。こんなギリギリだとは思わなかった……)


 ちょっと気合いを入れ直さないと駄目かも。

 顔を洗うため、私は席を立ち教室を出て行った。


 ◇◆◇


 次のテストは魔導回路の作成。


「一般家庭で使用する魔導コンロの『スタンダード』な回路を書きなさい」


“スタンダード”ってなんだろ。

 ——魔導回路にそんな曖昧な言葉を使う意味が分からなかった。

 私は試験官を呼び、質問を投げかけた。


「“スタンダード”の定義を教えてください。何をクリアしたら普通で、何をしたら普通じゃないんですか?」


「これは試験だ。君が思う『普通』を書きなさい。それが当校の求めるものと合致していれば合格するし、異なれば不合格。それだけのことだ」


 それだけ言うと試験官は話は終わりだとばかりに立ち去っていってしまった。

 うーん、魔導回路ってそんな書き方するもんじゃないと思うんだけどな……


 仕方なく私はこの前ママのテストで作った魔導コンロの回路図を書いてみた。

 既存のものよりも魔力量を節約できて、火の調節も一段階増やして使いやすくしたものだ。


(普通が何か知らないけど、これなら文句ないでしょ)


 私がカリカリ書いている横を、先ほどの試験官が通りかかる。

 私は気にせず書いていたが、「うんっ?」というつぶやき。


 ――嫌な予感が、胸に走った。


 ◇◆◇


「終わったよー、パパ!」


 私はパパが待つ保護者控室に飛び込んだ。


「おお、お疲れ、セレナ。試験はどうだった?」


「それがさ……」


 私がついさっきの魔導回路の話をすると、パパの表情が少し曇った。


「うん? それは……もしかしたらマズイかもしれんな」


「え、それってどういう……」


「セレナ・シルヴァーノさん、いますか?」


 私の言葉を遮るように、先ほどの試験官の声が控室に響き渡る。

 私がおずおずと手を挙げると、


「お話がありますので、保護者の方とこちらへお願いします」


 と呼び出された。


「ほらな、たぶん今の話だ」


 パパは分かっていたかのように席を立ち、試験官の元へ。

 私も遅れないよう急いで立って後をついていく。


「別のお部屋でうかがいたいことがあります。ご案内しますので、ついてきて下さい」


 そう言って試験官は歩き出した。

 パパは私に小さい声で


「判断は任せる。だが、くれぐれも優先順位を間違えるなよ?」


 それだけ言って歩き出した。


 ◇◆◇


「これについてどういう意図で『スタンダード』と判断したのか説明してもらおう」


 私のテスト用紙を目の前に差し出し、そう言ったのはやけに高級な身なりをした初老の男性。

 たしか校長先生だった気がする。


「はい、私が思う『普通』をと言われたので、今あるものより使いやすくしたものを作りました」


「それは『普通』よりも良いもの。そうは思わなかったのか?」


「改良点を見つけたら、努力してより良い方向へ持っていく。それが『普通』だと教わりましたので」


 私の言葉に校長は面白くなさそうに鼻を鳴らすと、


「それは意識の問題であって、回路の話ではない。『普通』の回路をと言われたら、今出回っている、再現性の高い回路を書くべきだった」


「良い物でも、誰もが扱えなければ意味がない。現場で事故が起きれば、責任を取るのは学校だ。違うかね?」


「それは……はい、そう思います」


「このままなら君は不合格とさせてもらうが、それでよろしいかね?」


「それはっ!」


 椅子から勢いよく立ち上がる。

 そしてふっと、さっきパパから言われた言葉を思い出す。


(優先順位を間違えるな……)


 ふー。

 大きく息を吐き、一度落ち着いてから、


「どうしたらいいですか?」


 と校長に問いかけた。


「そうだな、まずは当校の校風をあらためて説明しておこう」


 校長が目指すウルヴィス高等学校は、特定の天才を出す学校ではなく、卒業した全員がきちんと魔導具師として一人立ち出来るラインの実力を持つこと。


「つまり”イレギュラー”は不要なのだよ。君も大人しく周りに合わせて過ごせると約束するなら合格を認めよう。しかし、もし周りに合わせることなど……」


 校長の言葉が「親切」じゃないことくらい、分かっている。

 胸の奥がきしむ。

 それでも——


「あ、それなら合わせます!」


 私は校長の言葉を遮ってそう伝える。

 せっかく合わせると言ったのに、校長はきょとんとした顔だ。

 横を見るとパパも似たような顔をしている。

 そんなに意外かな?


「そ、そうか。それならいいが、一応そう思った理由だけ聞いてもいいかな?」


 校長が妙に腰が引けてしまった気がするけど、気のせいかな?


「私はこの学校で魔導具開発を学びたいと思って受験をしました。なので最優先は開発を学ぶことなんです」


「正直に言えば嫌ですよ。周りに合わせるのなんて。でも大切なのは開発を学んで一人立ちする未来なので。そう考えたら我慢くらい、なんてことないかなって思えたんです」


 そう、さっきパパの言っていた『優先順位』はこれのことを指してた。

 私が高等学校に求めることは”自由”じゃない。

“開発”のノウハウなんだ。


「ふむ、きちんとその覚悟があるならよかろう。しかし特例として認めることになるから一つ条件はつけさせてもらう」


「条件? なんでしょう?」


「なに、簡単なことだ。プロ意識の強い君のことだ。学校の勉強だけでは物足りなかろう。」


 そう言って一枚のチラシを取り出す。


「ここは我が校に大変協力的な地元の工房でな、月に一度でいい。ここで働いてもらいたい。もちろん給料は払うので、簡単なアルバイトと思ってくれ」


『石のささやき』……?

 魔導具工房みたいだけど。


「普段は我慢してもらうが、そこなら思う存分に腕を振るってもらって構わない。どうする?」


「え!そんなのご褒美じゃないですか。、もちろん受けます!」


「そうか、ではセレナくんの本校合格を認めよう。そちらのアルバイトの話は入学後にあらためてさせてもらおう」


 そう言って手を差し出す。


「春の入学を待っているよ」


 そう言ってニッコリと笑いかけてくる。

 私も満面の笑みで手を握り返し、


「はい! よろしくお願いします」


 と元気よく返事をした。

 こうして私は、条件付きで合格を手にした。


 ◇◆◇


 高等学校から宿までの帰り道。

 あちらこちらから温泉の独特な香りが、私が別の街に来てるんだなぁと再確認させてくれる。


「セレナ、良かったのか?あの学校……」


「うん、たぶん工房経由で私の技術を掠め取るつもりだよね」


「お前! それが分かってて受けたのか!?」


 私は涼しい顔で


「まあね」


 と返した。

 もちろん腹の中は煮えくり返っている。


「だからって従いっ放しは我慢できない。必ず『私』を認めさせるよ!」


 拳を握りしめて宣言する。

 一人じゃ無理だ。仲間を作り、実績を残して学園内での影響力を増やしていかないと……


「セレナ、そんなことをしたら退学になるぞ。考え直したほうがいいんじゃないか?」


 心配そうにパパがそうアドバイスをしてくれた。

 だけどもう私の心は決まってる。


「そうならないための基盤作りだよ。少なくとも一年は平和だと思うから、そこは安心して」


 私はパパの前に回り込んで、


「それに、自分の道を進むためにって王都を飛び出した誰かさんがいるもん。だったら私も例え退学になったとしても、また別の道を探せばいいよ」


 そういってニカッと笑う。

 それを聞いたパパはひどく苦い顔をして頭をかき、ため息を一つ。


「こんなバカ親に拾われたばかりに、すまんな」


「何言ってるの、パパもママも最高の両親だよ!」


「このタイミングで言われると皮肉にしか聞こえんが……ありがとうな、セレナ」


 そう言ってパパは私を軽く抱きしめる。


「全く、いつの間にかこんなに大きくなっちまって……。くれぐれも無理だけはするなよ。俺もママもセレナに不幸にはなってほしくないんだ」


「うん、約束する」


 それを聞いたパパは私から離れ、


「よし、それじゃあ宿に帰って温泉でも浸かるか。宿の湯は美人になるらしいからな、セレナにはもってこいだろ」


「これ以上キレイなったら困っちゃうかも?」


 パーンッ!


「調子に乗るな。まだまだママの方が上だからな」


「はいはい、ご馳走様」


 そんなやり取りを交わし、私たちは宿へと戻っていった。



 見てなさい、ウルヴィス高等学校。

 私はここで——


 私の価値を、必ず認めさせる。

理不尽な要求を飲み込み、内側からの改革を誓うセレナのしたたかさが最高です!


次回、第57話「最初の居場所」

始まる寮生活。同室の少女との出会いが、セレナの「開発」魂に火をつける!?


皆さんは、良かれと思って工夫したのに「マニュアル通りにやれ」と怒られた経験とかありますか?

良かったら教えてくださいね♪

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