第55話 特別じゃない私の卒業式
アミーカと目が合う。
お互いもう分かってる。
ただ一度うなずき合い、
私たちは講堂へと力強く踏み出した。
◇◆◇
今日、3月15日。
ヴェルダ初等学校、卒業式。
全校生徒約149名。
今日、その中の50名が、
新しい道へ進むため、
この学び舎を卒業する。
◇◆◇
いや、実際こう迎えてしまうと感慨深いというか、早く終われというか。
どちらも素直な気持ちだから困ったものだ。
私は卒業後、ウルヴィス高等学校へ進学。
四月からは寮生活だ。
荷物は来週にならないと送れないため、まだ寮も見てないし、制服以外、荷物も買ってない。
制服なんて生まれて初めてだから、届いた瞬間アミーカと見せ合いっこをして、お互い指を指して大爆笑。
アミーカの制服は白い生地にうっすら青が混ざったブレザー、胸には王都の紋章が入っていてブレザーは金色の縁取りがなされている。
スカートはブレザーと同じ色で、靴下も靴も白。
なんでも迷いを許さない色、染まることを許さない色ということで、自身の強固な軸を育て、王国に貢献せよとの教えがあるらしい。
貴族の人、別に白着てるわけじゃないのにね。
私は明るい赤のブレザーに茶色いチェックのスカート、茶色の靴。靴下は自由だけど、だいたい黒か茶色を履いてるみたい。
髪の色とブレザーの色が近いので、結構お気に入りだ。
そんな制服の笑い話を思い返していたら、いくつか退屈な話が終わったようで、気がつけば卒業証書授与の時間。
もうあと三人ももらったら私の番じゃん!
慣れないスカート姿に違和感を覚えながら、少し急ぎ目に席を立って待機場へと向かう。
そして自分の番。
校長先生から渡される卒業証書は、硬めの紙に手書きで卒業の祝いと次の進路への励ましの言葉、最後にヴェルダ初等学校の紋が押され、校長先生の名前の横にマチルダ先生の名前が。
とても画一的な証書を一瞥し、私は壇上から降りる時に、目のあったマチルダ先生に、小さく手を振って、席へと戻った。
あとは送辞と答辞やって、歌って終わりだっけ?
まだまだ時間かかるなぁ……
答辞はマチルダ先生やルナ、クルトから代表をやらないかと勧められていたけど、丁重にお断りした。
みんなが私のしたことを評価してくれたのは素直に嬉しい。
けど、もう目立つのはこりごりなんだ。
せっかくクラスの一員に混ざれた私を、また『特別』に戻すようなことはしないでほしい。
そう言ったら納得してくれた。
つくづくクラスに恵まれたなぁと、あの時のことを思い出すだけで胸が温かくなる。
「セレナ、セレナ立たないと!」
小さな声で大慌てのアミーカの声が聞こえた。
ふっと顔を上げると、答辞でみんなが声を揃えて発表するところだ。
「ヤバっ!」
思わず大きな声を上げて立ってしまい、注目の視線を浴びる。
うぅ、穴があったら入りたいよぉ……
◇◆◇
式も無事(?)終わり、教室で最後の挨拶も終わり、ようやく自由な外に出られた。
「うぅーん……」
私が大きく背伸びをして身体を解していると、アミーカがやってくる。
「お疲れ様、ひねくれセレナ」
「な、なによ唐突に」
口をとがらせてアミーカへクレームをつける。
「泣きそうだからって、ずっと卒業式と関係ないこととか、ひねくれた見方して我慢してたでしょ?私を誤魔化そうなんて無理だよ」
ふふっと優しく笑うアミーカ。
もう、こういう時は親友邪魔だなぁ。
「ふぅ、まあね。みんなは何だかんだ私たちのこと『特別』って思っちゃってるじゃん?ならせめて最後までそのイメージは崩さないでいてあげたほうがいいかなと思ってさ」
「素直に泣いとけばいいのに。セレナはもともとそんな強い子じゃないんだから」
「いいの!私は強い女を目指すんだから!」
ポイッ
アミーカが私の手に二枚の厚手の紙を投げてきた。
これは……
一人一人、私宛に書いた感謝の言葉。
中には私が忘れてたことへの感謝もあった。
「みんな言ってたよ。セレナは逃げちゃいそうだから、私から渡してほしいって。セレナには本当に感謝してる、ありがとうって」
あーあ、これはさっさと逃げなかった私の戦略ミスだね。
さて、ハンカチを用意して、と。
「アミーカ……」
「大丈夫、存分に泣いていいよ」
広げたアミーカの腕に飛び込み、
「うわあぁぁん……!!」
私はひたすら泣いた。
とにかく泣いた。
胸の奥から次から次へと泣けという命令が出てるかのように。
アミーカとの出会い、つむじ風コンビ、王都での挑戦、狙われる不安、絶望、新しい夢、そして守ってもらえるという安心、魔導具師としての成長に、クラスのみんなの成長、クラスの一員になれた喜び。
三年間のあれやこれやが浮かんでは消え、ひとつひとつを思い浮かべるたびに私の心を揺らし、涙腺を緩め、涙を流させ続ける。
すると……
「ほらな、やっぱアミーカに任せて正解だろ?」
「やめなよ、おとなしく泣かせてあげないと」
この声は……新米バカップル!
私はアミーカから離れると、ぐるりと周りを囲まれてるのに気付いた。
つまりはクラス全員にしてやられたというわけだ。
「……ま、最後くらいはな」
クルトのちょっとだけ恥ずかしそうな顔。
むむぅー!
悔しいっ!!悔しすぎるぅ!
クラスの輪の外からマチルダ先生が進み出てくる。
「ごめんね、セレナさん。あなたのことだからこうでもしないと本心見せてくれないと思って」
「教え子からかって楽しいですか?」
私は泣き濡れた顔をハンカチで拭きながら、恨みがましい目を先生に向ける。
「頭はいい、人の気持ちがよく分かる、意志が強い、私だって教わることの多い、あなたは大人顔負けの子どもよ」
「でもね、それでも子どもなの。大人ぶって悲しみを隠すなんて今は覚えなくていい。嬉しかったら笑って、辛かったら泣きなさい。それが私からあなたに贈る最後の教育よ」
そう言うと優しく私を抱きしめる。
なんだろう、まるで子どもの頃ママに抱きしめてもらったような安らぎを感じる。
「見て。みんなあなたを心配して来てくれたのよ?これはあなたがこの一年、『普通』になろうと頑張った証。自分の努力を、そしてみんなの優しさを誇りなさい」
「そうだよ、セレナ。私たちみんなもうセレナを特別になんか見てない。頭が良くて、頼りがいはあるけど、ちょっと泣き虫な、どこにでもいる普通の、でも大切なお友達だよ」
もう、嫌だなぁ。ルナにまで泣き虫とか言われちゃったよ。そっか、私ちゃんと『普通』になれてたんだ。
それを認めてもらえて、ようやく私の中に『卒業』の二文字が刻まれた気がした。
先生から離れ、袖で涙を拭い、あらためてみんなを見回す。
みんな笑顔だったり、女の子は泣いてる子もいたり、なんか分からないけど「卒業式」なんだなって、その時初めて心からそう思えた。
「みんな、ごめん。みっともないとこ見せちゃった!っていうか、この私を騙すとか、最後の最後にやってくれんじゃんか!?」
私の言葉にみんな笑い声を上げる。
うん、これが私たちらしい。
「わざわざありがとう!でもさ、この前言った通り、これで私たちの仲が終わるわけじゃない。嬉しい時も、辛い時もいつだってここで作った絆を大切に、これから頑張っていこう!」
「「オー!!」」
そして私たちは心ゆくまでその場で語り合い、次の再会を約束し、一人、また一人とこの学び舎を後にしていった。
◇◆◇
最後に残ったのは……
「ま、こうなるよね」
「まあね。こうなるよね」
私とアミーカだ。
もうすっかり日も暮れつつある。
「なんていうか、アミーカとは今さらっていうかさ」
「うん、私もそう」
ポリポリと頭を掻く。
誰よりも深い仲を結んだアミーカ。
そういう意味ではここから思い出を語り、泣き合い、慰め合って、なんなら一晩でも足りないほどの時間が必要な相手。
でもそんな時間をかけなくてもお互い分かりあってしまう。
そんな”親友”
「まあどうしても困ったら連絡ちょうだい。王都なら私以上に頼れる人たくさんいるだろうけど」
「セレナこそ、ウルヴィスの温泉浸かりすぎて勉強おろそかにしないでよ」
高等学校でさらに成長した自分たちで会おう。
言葉にしなくても、お互いの目がそう言っている。
そして同時に、ゆっくりと手を差し出し、私たちは固い握手を交わした。
「またね」
「うん、またね」
アミーカが幸せでいられますように……
そんな願いを込めた笑顔で握手をほどき、
「それじゃ、帰るね」
アミーカは帰っていく。
その歩みがいつものものよりゆっくりに思えたのは、決して気のせいではないだろう。
その時、ヒュウと一陣の風が吹き、舞い散る花を巻き上げて一瞬私の視界を白く染める。
視界が晴れた時には、もうアミーカの背中は見えなくなっていた。
「もう!最後まで『つむじ風』なんだから」
クスッと笑い、私も歩き始めた。
沈みゆく夕日に初等学校の卒業を重ねながら、私は空に浮かぶ星を見上げ、ただ一言
「ありがとう」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
これにて「第一部・初等学校編」は完結となります。
「つむじ風コンビ」として校内を駆け回っていたセレナとアミーカ。
王都での経験を経て、それぞれの夢を見つけ、最後は「特別」ではなく
「普通」の少女として、涙と笑顔で巣立っていきました。
二人の成長を見守ってくださった皆様に、心より感謝申し上げます。
【第二部・予告】
物語は新章へ――舞台は錬金術の最先端、ウルヴィス高等学校!
親元を離れ、初めての寮生活。
アミーカという相棒がいない中、セレナは一人新しい世界へと飛び込みます。
待ち受けるのは、個性的なクラスメート、そして癖のある教授。
期待あふれる高等学校に広がる怪しい空気。
セレナが今度は4人の仲間とウルヴィスで活躍していきます。
第二部「高等学校編」
更なる成長と波乱の予感。
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