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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第1部:守られる才能 第3章 王都セントーレ編

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第20話 王城料理への挑戦状

 パパがパステルさんに連行され、ママが「やれやれ」と酒をあおる横で、アミーカは、真剣な眼差しでグレッダさんを見つめていた。


「あの、グレッダさん。お願いがあります」


「ん? なんだい、アミーカちゃん」


 グレッダさんがジョッキを置く。

 アミーカは膝の上で拳をギュッと握りしめ、意を決したように言った。


「私に、王城の料理を食べさせてくれませんか!?」


 その場の全員が目を丸くした。

 アミーカの実家は食堂だ。以前プレゼントした『コル・コクス(コックさんセット)』以来、料理にのめり込んでいるとは聞いていたけれど、まさか王城の料理にまで興味を持っていたなんて。


 しかし、グレッダさんは困ったように眉を下げた。


「そいつは無理な相談だ。いくら俺でも、子供を王城の晩餐会に招く権限はねぇよ」


「……そう、ですよね」


 アミーカが目に見えてシュンと落ち込む。

 その姿があまりに切実で、私は思わず口を挟みそうになった。

 だが、それより早くグレッダさんがニカっと笑った。


「ただ、個人的に親しくしている王城料理人はいる。俺が『食わせる価値がある客だ』と判断すれば、うちの屋敷に呼んで腕を振るってもらうことくらいは、できなくもない」


 ガタッ!

 アミーカが椅子を鳴らして立ち上がった。


「本当ですか!?」


「ああ。だが、タダってわけにはいかねぇ。王城料理人は国の宝だ。彼を呼ぶなら、お前さんにもそれなりの『資格』を示してもらわねぇとな」


 グレッダさんの目が、すぅっと細められる。

 先ほどの「貴族の目」だ。

 空気が張り詰める。


「条件を出そう。材料は自由。お題は『俺に感動を与えてくれる一皿』だ」


「はぁ? 感動?」


 私は思わず抗議した。


「そんな曖昧な条件、何出しても『感動しなかった』って言われたら終わりじゃん! もっとハッキリした条件にしなよ」


「セレナ嬢」


 グレッダさんの低い声が、私の言葉を遮った。


「先ほどのロックボアを食べたろう? どう処理したかは分からなくても、あまりの美味しさに感動していただろう」


「うっ……それは、そうだけど」


「料理人が、客の心を震わせるのに理屈はいらん。自分の経験と技術の全てを懸けて、目の前の相手をねじ伏せる。それが料理人の矜持プライドというものだ」


 その言葉は重く、そして鋭かった。

 言い返すことなんてできなかった。これはもう、子供の遊びじゃない。グレッダ伯爵からの、対等の「試練」なんだ。


 アミーカは黙って聞いていた。

 怖いのか。それとも諦めるのか。

 私が心配して顔を覗き込むと――アミーカは笑っていた。


 いつものイタズラを企む時の顔じゃない。獲物を狙う、職人の目をしていた。


「パパがいつも言うんです。『一度の皿で、次も来てくれるか決まる』って」


 アミーカは一度深く息を吸い、迷いのない声で告げた。


「その挑戦、受けます!」


 おおおっ! 言った! 言っちゃった!


「いい返事だ。期間は三日。試験日は二十二日の正午、俺の屋敷で成果を見せてもらおう」


 こうして、アミーカの料理試験が正式に決定した。


「買い物も必要だろう。明日からひとり、うちのメイドを付けてやる。護衛としても優秀だからルキウスたちも心配せんで済むだろう」


 ん? 護衛としても優秀な、メイド?

 それって……強いメイドさんってこと?

 何それ、ちょっと楽しそう。


 私が余計な想像をしてニヤけていると、自分の頬をペチンと叩きたくなった。いや、叩いた。


「ワンッ、ワンッ!」


 なぜかリオにまで怒られた。


「ハハッ、頼もしい仲間もいるから、さらに心配はいらんな」


◇◆◇


 その夜。下宿先のベッドの上で、私はアミーカに尋ねた。


「ねえ、なんであんな無茶な条件受けたの? 王城の料理なんて、まだ早くない?」


 アミーカは枕を抱きしめながら、少し恥ずかしそうに、でもハッキリと答えた。


「私ね、王城料理人になりたいの」


「えっ、王城料理人!?」


 この国の料理人の最高峰だ。アミーカの夢がそこまで大きいなんて知らなかった。


「でも、王城料理人って男の人しかいないんだって。だから、ずっと口に出せなくて」


「あー……」


 澪の知識でも、シェフや板前は「男の世界」という偏見が強かったみたい。


「でも、王都に来て、ベーネさんは女性なのに工房主だし、マリエッタさんも王都から頼られるくらいだし……」


「あ、それは確かに私もビックリした」


「性別なんて関係ないんだなって思えたの。だから、私も目指していいんじゃないかって」


 アミーカの瞳がキラキラと輝いている。

 王城の厨房は男の聖域?

 なら、私がその常識ごと美味しく料理してやる。

 そんな決意が聞こえてきそうだ。


(……かっこいいな、アミーカ)


 私はまだ、将来の夢なんて漠然としか考えていない。なのに親友は、こんなに高い壁に挑もうとしている。

 なんだか、私だけがその場に取り残されたみたいな気がした。


 ――それでも。

 でも今はパパもママも自分の仕事でいない。

 なら、私がしっかり支えないと!

 

「分かった。応援する!」


 私はアミーカの手をガシッと握った。


「私は料理はできないけど、魔導具でサポートくらいならできるかもしれない。三日間、私も手伝うよ!」


「セレナ……ありがとう!」


 私たちは顔を見合わせて笑った。


 明日から始まる三日間の試作。

 アミーカの夢への挑戦は、まだ始まったばかりだ。

アミーカの夢は王城料理人! 伯爵の無理難題に、心強い(?)助っ人も参戦です。


次回、第21話「メイド来訪、ロックボア料理の勝負が始まる」

やってきたメイドは猫かぶり!? 硬いロックボアをどう料理する?


無謀でも、「やってみたい!」って思ったことありますか?

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