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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第1部:守られる才能 第3章 王都セントーレ編

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第19話 逃げていた天才と、背中を押した人

「ルキウス、やっと見つけた!」


 白衣の女性――パステルさんが、ツカツカと大股でテーブルに近づいてくる。

 栗色の髪を振り乱し、鬼気迫る形相だ。


(修羅場? ついに修羅場なの!?)


 私はドラマチックな展開を期待して身を乗り出した。しかし、パパはため息交じりに頭をかくだけだ。


「おいおい、パステル。俺は家族旅行中だぞ」


「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ! 逃がさないわよ!」


 パステルさんはパパの腕をガシッと掴んだ。

 え、強引!これはもしや、復縁を迫る展開?


 私がドキドキしていると、横でグレッダさんがニヤニヤしながら解説を入れてきた。


「セレナちゃん、こいつらは昔付き合ってたんだがな、ルキウスが愛想尽かされて振られたんだ」


「なっ、余計なこと言うな!」


 パパが赤くなって抗議する。

 なるほど、元カノ確定。しかも振られた側。

 じゃあ、未練があるのはパパの方?


 しかし、パステルさんの口から出たのは、愛の告白でも恨み言でもなかった。


「お願いルキウス、力を貸して! あなたがいないと、『魔力酔い』の新薬が完成しないの!」


「……は?」


 私が拍子抜けしていると、パステルさんは真剣な眼差しで続けた。


「王都の巨大魔石マナ・マテリアルの影響で苦しむ庶民を救いたい。私の研究はあと一歩なの。でも、最後の調整ができるのは……この王都で『三本の指』に入ると言われた、あなたしかいないのよ!」


 なんだか、話が急に大きくなった気がする

 ……えっ。

 今、さらっと凄いこと言わなかった?


「三本の指?」


「あら、聞いてないの? あなたのパパ、昔は王城からスカウトが来るほどの超天才薬師だったのよ」


 私とアミーカは同時にパパを見る。

 パパは「昔の話だ」とバツが悪そうにそっぽを向いた。


(パパ、凄かったんだ……。ただの『我道』じゃなかったんだ)


 パパの知られざる過去。

 けれど、パパは首を横に振った。


「悪いが手伝えん。俺はもう王都の人間じゃないし、何より家族との時間を……」


「さっさと手伝うって言ったらどうなの?」


 ドスの利いた声が、パパの背後から響いた。

 酒場の空気が一瞬で凍りつく。

 恐る恐る振り返ると、そこには――仁王立ちするママの姿があった。


「マ、マリー……?」


 パパの声が裏返る。

 ママはニッコリと微笑んだ。目は全く笑っていない。


「工房の子から聞いたわよ。『旦那さんが昔馴染みと飲んでる』って。仕事ほっぽり出して何してるのかしら?」


「ひぃっ!」


 パパだけでなく、あの豪快なグレッダ伯爵までもが「台風娘だ……」と青ざめて震えている。

 ママの威圧感、王都でも健在すぎる。

 というかまた不思議ワードが聞こえてきたけど、うちの両親って何なの?


 ママはパステルさんに向き直ると、スッと表情を和らげた。


「あなたがパステルさんね。手紙では挨拶させてもらったけど、会うのは初めてね。これからもよろしく」


 ママが手を差し出すと、パステルさんはさっき元カノの話を暴露された衝撃が残っていたのか、おずおずと握り返した。


「よ、よろしくお願いします」


「ああ、元カノの件? 気にしなくていいのよ。昔のことなんて気にしないから」


 ママの余裕たっぷりの笑みに、パステルさんの肩の力が抜ける。

 強い。うちのママ、メンタル最強だ。


 ママはそのままパパの背中をバンと叩いた。


「ルキウス、行ってきなさい。パステルさんの研究、手伝ってあげるのよ」


「で、でも、セレナたちが……」


「子供のことは私が見るわよ。それに……」


 ママは少しだけ声を落とし、優しい顔でパパを見つめた。


「その薬の研究、ヴェルダに引っ越してからずっと、私のために続けてくれてたんでしょ?」


 パパが目を見開く。

 え、どういうこと?


「私が魔力酔いしやすい体質だから。あなたがこっそり研究ノートを書いてたの、知ってるわよ」


 図星だったらしく、パパは耳まで真っ赤になった。

 なにそれ。

 ママのために研究してたのに、設備が足りなくて完成しなかった。だから今、王都の設備で完成させろと、ママは言っているのだ。


(うわぁ、パパってば……)


 愛が重い。でも、かっこいい。

 私はニヤニヤしながらパパの背中を押した。


「ほらパパ、行ってきなよ。私とアミーカは大丈夫だから!」


「セレナ……」


 パパは観念したように息を吐き、そしてキリッとした顔つきに変わった。

 錬金術師の顔だ。


「分かった。やるからには最速で終わらせる。……パステル、行くぞ!」


「はいっ!」


 パパはパステルさんと共に、風のように店を出て行った。

 残された私たちは、ポカンとその背中を見送る。


「……行ったな」


「行っちゃいましたね」


 嵐のような展開だった。

 ママは「やれやれ」と肩をすくめ、私の隣に座った。


「さ、邪魔者は消えたし、女子会しましょ。グレッダさん、お代わりもらえる?」


「お、おう! 任せとけ!」


 ママのペースに巻き込まれ、宴は再開された。


『台風娘』については、納得いかないことには誰であろうと突っかかり、あちこちで騒ぎを起こすママの昔の異名だそうだ。


「まあ若気の至りよねー」


 とママは言うけど、ベーネ工房でのママはそれに近いイメージはあったので、王都版のママの姿なのかもしれない。



 さて、パパも頑張ってるんだ。私も何か王都で爪痕を残したいな。


 そう思っていた矢先。

 私の横で、アミーカが真剣な顔でグレッダさんを見つめていることに気づいた。


 彼女の瞳には、かつてないほどの熱い光が宿っていた。

 まさか、アミーカも……!?

ママの器の大きさとパパの愛に感動! アミーカの熱い視線の行方は……?


次回、第20話「王城料理への挑戦状」

王城料理を食べたい! アミーカの無茶な願いに、伯爵が出した厳しい条件とは?



自分のパートナーが自分のためとは言え、

元カレ(元カノ)と籠って研究。

あなたなら嬉しい?複雑?

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