第108話 分ける意味
「うーん……」
黎明祭参加用の魔導具を考えるため、今日は朝から部屋で考えごとだ。
(あの足のマッサージのやつはダメなの?)
お? なんか久々に話しかけてきたな。
私の中にいる相棒の澪さん。
(なんか説明臭くない?)
(まあそれはいいとして、あれは売れるけど、概念がなさすぎるかなーって)
(概念?)
そう、今回の黎明祭、私の中での捉え方は「すごい魔導具」を褒めてもらうためだけの大会ではない。
ただすごいだけじゃ足りない。
魔導具そのものの考え方を変えられるかどうか――そこが勝負だ。
(分かりやすいので言うと、学校のブレヴィス先輩たちが作った安全装置付きの魔導具ね)
(あぁ、あれ面白かったねー)
(だからああいうのを考えたいのよ)
それに……焼き付けの技術なら学校でもトップにいる自負はあるけど、こういう閃きでも勝てないのなら、ブレヴィス先輩たちを侮ったあの噂に対する、本当の意味での贖罪にならない。
せめて、彼らと比べられる腕だと証明したい。
(セレナってけっこう生きづらい性格してるわよねー。私ならもう気にしないけど)
(そうだね。私もそう思うよ)
(じゃあこっち来る? 今までセレナが見てきた魔導具、覚えてる限り見せてあげるよ)
(……じゃあお願いしようかな。ちょっと煮詰まってきたから)
私は魔導具辞典を閉じ、胸を軽く叩く。
澪の世界に行くための合図だ。
程なくして、私の意識はゆっくりと闇に包まれ、私は閉じた魔導具辞典を枕に机の上で眠りについた。
◇◆◇
「いらっしゃーい! 調べ物ならやっぱここだよね」
「ここは、図書館?」
高い本棚が何十と並び、カウンタータイプとテーブルタイプの席が数多く用意されている。
奥には視聴覚ブースがあり、映像が見られるようになっていた。
「そう。大学の図書館再現したんだけど、私どっちかっていうとPCルームでプログラム書いてるほうが多かったから、大まかにね」
ホントだ。
よく見ると本のタイトルがすごく適当で、文字にすらなってないのもある。
遠くから見ると文字っぽく見えるところが、とても澪らしい誤魔化し方だ。
私がテーブル席につくと、澪はどこからかコーヒーとクッキーを持ってきて、私の前に置いてくれた。
すごく香り高いコーヒーだ。
「ほらほら、飲んでみて。すっごく美味しいんだから」
私は言われるがまま一口。
いつも飲むコーヒーよりも苦みが少なくて、なんか果物? みたいな爽やかさを感じる。
飲みやすいし、すごく美味しいっ!
「これ、すごく美味しいね」
「でしょー? めっちゃ高いのよ、それ。コピ・ルアクっていうんだけど、私も一回友だちにハメられて飲んだことあるの」
コピ・ルアクって、たしかジャコウネコの……。
なるほど、ハメられたとかいうわけだ。
ここに来ると、澪の持ってる知識や記憶が自分のもののように使えてしまうのも困りものだな。
「じゃあコーヒー飲みながら見てみる?」
「そうだね、お願い」
澪が指をパチパチ鳴らすたび、私が過去に作った魔導具や見た魔導具や魔導回路の光景が流れていく。
クッキーをつまみつつ、なんとはなしにポケーっと眺めていると、何回か似たようなものが見えたことに気付く。
「あれ、ちょっと待って。魔導回路だけに絞って見せてくれる?」
「OK!」
「あとさ、同時に複数出せたりする? 出来れば並べて見比べたいんだけど」
「やったことないけどやってみよっか」
澪は目を閉じて眉間にシワを寄せながら、集中する。
そして十秒くらい唸った後に、勢いよく指を鳴らした。
ババババッ!
私たちの前に八個くらいのディスプレイが浮き上がり、それぞれに違った魔導回路が映し出されていた。
「うわっ! 凄いじゃん、澪!!」
「ま、まあね。このくらいラクショーよ」
ドヤ顔で返してくる澪へ素直に賛辞の拍手を贈りつつも、いつ消えるか分からないから、私は素早くそれらを見比べた。
……うん、やっぱりそうだ。
魔導回路に頻出する回路がいくつかある。
昔、ママが言ってた、どんなに難しい回路も分解したら、一つ一つは単純な回路の組み合わせでしかない、という言葉を思い出す。
「澪、これとこれ、一緒の回路だよね?」
「うん、私にはそう見えるよ」
「これさ、回路区切ってここだけ入れ替え出来ないかな?」
私の提案に澪は少し難しい顔になる。
「やりたいことは分かるんだけどさ、それ全製品の魔導回路が同じ形してないとダメじゃない?」
あーー!
全部違うんだから、無理に決まってるじゃん……。
いい考えだと思ったんだけどなぁ。
「それに、部分的に入れ替えるならどうしたって溝が出来る。そこを魔力が途切れることなく流せるかの検証だって必要だよ?」
おや、今回はやけに頼もしいな。
「ちなみにさ、魔導回路って基本一つの魔石に一本道の回路だよね?」
「うん、まあそうだね」
「なんで二つ使わないの?」
「お金かかるからじゃない? 魔導具師か魔導師でもないと、魔石への魔力充填なんて出来ないから、普段は買い直すか、お金払って込め直してもらうかだから」
私たちが当たり前のように魔石を使えているのは、魔力を込め直せるからだ。
これは国の方針で魔導具師か魔導師にしか充填方法を教えてはいけないと定められているため。
前者は生活の基盤として、後者は国防の観点から。
私は作ったことはないけど、武器の魔導具だってあるのだ。
「同じ出力を出すとした場合に、魔石二つ使うのと、大きな魔石一つ使うのだとどっちがコストかさむの?」
「それは……大きな魔石かな。一つの魔石に込められる魔力が多いほどコストは跳ね上がっていくから」
なるほど。
……二つ、使えばいいんじゃない?
「出来たんじゃない? 新しい概念ってやつ」
「そうだね、形は見えたよ。でも珍しいね、今回はやけに協力的だったじゃん」
「ま、まあ、前回ここ来た時に川に流したお詫びっていうか……」
あぁ、アレまだ気にしてたんだ。
私はすっかり忘れてたのに。
意外と義理堅い――いや、そんな人はそもそも川に人流すとか考えつかないか。
「それで心痛めるならちゃんと帰りのドアでも用意しといてよね」
「今日はちゃんと用意してあるよ!」
そう言うと私の席の後ろにいつの間にか木製のドアが出現していた。
「これからはこれ用意するからさ」
「分かった。ありがとうね、澪。本当に助かったわ」
「そう思うなら早く恋バナの一つでも持ってきなさいよね。なんならマルクスくんの後押ししてあげてもいいからさ」
なんでここでマルクスの名前が?
私は思い出してみるが、特にそういった話は聞いた記憶がない。
「あ、セレナは気付いてないのか。じゃあナシナシ。聞かなかったことにしておいて」
「まあ、聞いちゃったら私が態度に出して迷惑かけそうだし。今は聞かないでおくわ」
聞きたい気持ちはあるが、絶対に顔に出す自信がある。
聞かないほうが無難だろう。
それに……消去法でなんとなく分かった気もするし。
「それじゃ、また来るね」
「うん! 問題ない時でも遊びに来てよね。いつも何かある時しか来ないんだから」
そう言うと澪は困ったような、仕方ないというような、そんな表情になる。
確かにもう少しここ来る回数増やしてあげないと澪がかわいそうかもしれない。
「分かったよ。次は何かお土産持ってくるからさ」
「約束だよ」
指切りをして私はドアをくぐり、光が満ちた空間へと歩き出す。
次はいつ遊びに来ようかな?
このとき私は、澪の助力を当たり前にしてしまうことの危うさを、まだ理解していなかった。
久しぶりの澪回。書いた後に思いましたが、どうせ映像見せるなら、慣れてるPCルームで良かったのでは?(笑)
次回、第109話「油断の代償」
部屋で目覚めたセレナは、帰ってきてたマリーナに二度驚かされます。一つは純粋に、一つは冷や汗ものの……。




