第107話 私のやり方
「それでは来週から公募開始。この街の該当年代は、高等学校を含めて約三千人ほどだ」
「さすがに全員集められる会場ないもんね。一次に書類選考はいい手だと思う。さすがだね」
今日は校長、あ、元校長との黎明祭、ウルヴィス予選の打ち合わせだ。
「褒めてもらえるのはありがたいが、セレナくんはもう少し口の聞き方を整えた方がいいぞ。付き合いもだいぶ広いのだろう?」
領主付きの現場責任者になってから、どこか吹っ切れたように見える。
「んー、でも私、カイル様にもこんなだしな」
その一言に信じられないものを見るような表情をされたけど、すぐに顔を戻し、
「いや、変えなくてもいいが、覚えておいた方がいいと思うぞ。その口調のせいで、いらん遠回りをすることも出てくるだろうからな。まあ元教育者のうるさい小言とでも思っておいてくれ」
と言って紅茶を口にした。
確かに、言ってることは間違っちゃいない。
カップの縁を指でなぞりながら、小さく頷いた。
「うん、ありがとう! ――じゃなくて、ありがとうございます」
「ハハッ、早速取り入れようとする切り替えの速さはさすがだな。それじゃあ私はこれでお暇するよ。次はまた1週間後に」
そう言って元校長は領主邸宅へと戻っていった。
「なんか……人って変われるんだねー」
マリーナがとても驚いた顔で話しかけてきた。
「ねー、私もちょっとビックリしちゃったよ」
「それほど驚くには値しない。お前らだって多少は経験があるだろう。校長はたまたまそれが強く出ただけだ」
今日はレオニス先生がいる。
最近少しずつ玉突き出世の影響も少なくなり、顔を出せる比率も上がってきたそうだ。
でも確かにそうだ。私も初等学校の頃、王都での経験で変わったし、合宿以降は前より上を目指そうと思うようになった。
「それで? お前たちはセレナ以外全員参加するのか?」
「はい、みんなやる気いっぱいで頑張ってますよ!」
「あーあ、私も出たいなぁ」
私は頭の後ろで手を組んでふてくされる。
「お前は変なところで生真面目だな。出たければ出られるようにルールを作ればいい。そういう立場だろう?」
「だって、主催者側から出たら何か疑われても仕方ないじゃない。それを嫌って貴族にまで助力を求めた私が、真っ先に破るわけにはいかないの」
レオニス先生の誘いには乗りたかったが、こればかりは譲れない。
「お前は公衆の面前で自分こそが最も優秀だと示したいのか? それともお祭りの参加者になりたいだけなのか?」
「えっ? えーと、それで言うと後者かな。別に私は名誉とかいらないし」
「お前、それはこの前言ってたことと矛盾すると気づいてないだろ?」
この前ってなんだ?
私、名誉欲しいなんて言ったっけ?
「おいおい、まさか忘れてるのか!? 偉くなりたいと言ってたろう?」
「あー、あれか! 忘れてないですよ。確かに言葉足りなかったですね。私は私を曲げてまで名誉を欲しいなんて思ってません」
レオニス先生は視線を鋭くして私を見返してくる。
私は手に持っていたコーヒーカップをソーサーへ置いて、真っ直ぐ見つめ返した。
「あのね、だいたい名誉なんて笑って蹴っ飛ばすママに、誰もが望むだろう王城スカウトを、自分の道と違うと袖にするパパに教師、こんなのに囲まれて、どうやったら名誉が一番なんて子どもが育つと思ってんのよ!」
キョトンとするレオニス先生。
今日は表情忙しいな、この人は。
「私は私のやり方で結果を出す。後ろ指をさされない形でね。……でも、みんなと何かに向かうのは、単純に楽しそうなんだ」
「お前は……よく分からんやつだな。反面教師がいるんだ。それを活かせばいいじゃないか」
「それはしょうがないですよね。私自身がそっちの方が正しいと感じちゃったんですから」
私がコーヒーを口にすると、レオニス先生がやけに優しげな目になり、
「そうか。ならばやってみろ。応援くらいはしてやる」
そう言って椅子を戻し、机へ視線を落とす。
さて、どうするかな。
そんなことを考えていると、マリーナが
「セレナはみんなと同じ条件で参加したいんだよね?」
と聞いてきた。
「うん、まあそうだね。じゃないと楽しくなさそうじゃん。それに地方予選で落ちる程度の腕なら、それはそれでちゃんと知っておきたいし」
「それならさ、ある意味セレナしか使えない裏ルートで、かつ変な色眼鏡で見られない手あるんだけど……」
と、続きをコソコソと囁いてくる。
……うん、うん、なるほど。
それを聞き終えると思わず、
「それいいね! やろう!!」
と大きな声を上げてしまった。
その声に振り返るみんなに謝りつつ、
「それじゃあどうしたらいい?」
「まずは今日帰ったら方向性決めよう。で、明後日はお買い物。その後は特訓ね」
「分かった、よろしくね!」
うー、ワクワクしてきた。
これならきっと大丈夫!
あ、一応グレッダさんとカイル様には話し通しておかなきゃだ。
手紙も書いておこう。
夜が待ち遠しい。
気づけば作業の手が、いつもより速く動いていた。
まるでアミーカとのイタズラを考えてる時のようなセレナでしたが、マリーナの策とはいったいなんでしょうね?
次回、第108話「分ける意味」
出るからにはと自分への縛りを設けるセレナは考えに行き詰まり、少し気分転換へ。




