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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第2部:才能の値段 第1章 輪を広げる 高等学校二年生〜黎明祭 導入編〜

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第105話 渡された鍵

「ってことで、ごめん! 二人とも」


 私は手を合わせて深々と頭を下げる。

 ティミナとクーラはとても困惑している。


「頭上げてください、セレナ先輩!」

「そうですよ、似合いませんよ」


 むっ、今失礼なこと言ったのどっち!?

 って、分かってる。

 こういう時はだいたいティミナだ。

 私が頭を上げると――みんなの視線がクーラを捉えていた。

 え、そっち?


「セレナ先輩はもっと自信持って。失敗してもへこたれないで突き進む姿がカッコいいんですから。周りの先輩方もだから付いてきてくれるんだと思いますよ」

「そ、そう? なんか照れるな」


 胸の前で手をモジモジさせていると、


「そう? セレナ結構へこたれるよ。昨日だってヒールで歩く練習させたら、『人間はつま先で歩くように出来てないのよっ!』とか言ってふてくされてベッドから出てこなくなったし」

「あぁ、そういえばこの間もセレナのかわいい顔の角度探してたら、なぜか首痛めて、教えてる私たちがジュース代おごらされたっけ」


 マリーナとリディアが次々に私を貶めてくる。


「ねえ、二人とも私のことどう思ってるわけ?」


 二人は少し考え込むと、


「出来の悪い妹かなぁ」

「女性らしさを置いてきた魔導具バカ?」


 うん、とりあえずリディアの方がひどいね。

 あとで絶対に仕返ししてやるんだから!


「で、こっちがブリウム先輩ね」

「いやっ!ルディって呼んでください、セレナ様!」


 ……人手欲しさに早まったかな。

 ママが言ってたのはこれか。


「セレナ、さっきの子だけど、とっても楽しい子だったわよ。新学期楽しみにしててねー」


 ちゃんと教えてほしかったなぁ。

 楽しいどころか、扱いに困る子じゃないの。


「セレナ様のお母様がそう言わないとあの子がカンカンに怒るからって」


 あの人仕込みかああぁっ!!


「ごめんなさい、ルディ先輩! あの人は今度帰省した時に死ぬ気で反省させておくから、休みの時と同じようにしてください! ――っていうかお願いします。そろそろみんなの視線が物理的に刺さりそうで怖いんですぅ……」


 ルディ先輩の手を取り、半べそをかきながらお願いをすると、


「わ、分かったわ、あなたがそれほどまでに言うなら。それじゃあセレナさんで呼ばせてもらうけど、みんなはルディって呼んでね」

「分かった、ルディ」


 リディアとマリーナに叩かれたカリウスは当然の報いだと思うの。


「ちゃんと『ルディ先輩』と呼ぶよーにね」


 みんなにそう伝えると、マルクスとティミナが少し怯えたような表情をしてたけど、きっと気のせいだろう。


 ◇◆◇


「で、おふざけはもう終わったのか?」


 私たちからずっと離れ、巻き込まれまいとしていたレオニス先生(うらぎりもの)がやって来た。


黎明祭(プリマルクス)についてはセレナたちから説明しろ」


 それを受け私はティミナたちへ、この夏にあった出来事を伝える。

 グレッダさんはパパの友達、カイル様たちはたまたま来てて興味を示したという体にした。


「ということで、企画規模が高等学校から大都市単位になった。突然こんなイベントを取り仕切れと貴族から伝えられ、領主は頭を痛めていたそうだ」


 私だって同じ立場なら困る。

 見たこともない領主だけど、つい同情してしまった。


「そこにうちの学校で行った競技会の噂を聞きつけ、校長に助力を頼み、校長は今学期から領主付きの企画責任者となった。そのためもう学校にはいない」

「えっ!? そうしたら今の学校の責任者は誰がやってるんですか?」

「校長がいないんだ。教頭に決まってるだろう。どこぞからの後押しもあり、特例で校長へと大出世だ」


 どこぞから……。

 うん、まあ、出世はいいことだよね。


「ここで最低なニュースだ。それの影響で玉突き事故が発生し、何故か二、三年生の魔導具開発を担当していた俺が三年の学年主任になった。」

「えっ! 二年生の学年主任とか、三年の副主任が上がるんじゃないの?」

「二人とも逃げた。進路が決まる一番責任のかかる学年の主任などごめんだとな」


 おぉ、王様が知ったら何て言うんだろ?

 確か国民の教育に凄く熱心だったよね。


「なので放課後、ここを開ける機会が少なくなってしまう。主任の仕事があるからな」

「えー! そうしたら開発の実験とかどこでやったらいいの?」


 するとレオニス先生はポケットからこの部屋の鍵を取り出し、私へと渡す。


「お前だけではないぞ。セレナ、マリーナ、マルクス、リディア、カリウス。一年の頃から見てきたお前らは未熟ではあるが、信頼は置ける。だからこれを預ける。俺も業務のない日はいつも通り顔を出すが、今日からここの責任者はお前らだ」


 その言葉に思わず鍵を握る手に力が入る。

 金属が触れ合う小さな音が、やけに重く響いた。


「ティミナ、クーラ、ルディ。お前たちは時間こそ短いが、熱意は買っている。セレナたちを助け、全員で腕を磨け」


 まるで卒業式みたいだ。

 胸が少しだけ熱くなる。


「いいか、前にも言ったが黎明祭(プリマルクス)も大切だが、お前たちは『魔導具師』だ。それを忘れずに励んでいけ。この研究室はそのための場所なのだからな」


 そう言ってレオニス先生は帰り支度を整えると、


「では、今日の戸締りから頼むぞ。しっかりな」


 そう言って帰っていった。


「なんか……頑張ろうね」


 マリーナの言葉に私は鍵を握り直して、深く頷いた。


 まさかの玉突き出世!ちなみに裏事情として、最初にオファーが来たのはレオニス先生で、やりたくないので校長に投げた経緯があります。つまり最初に逃げたので、主任は逃げられなかったわけです(笑)


次回、第106話「ひとつ屋根の下」


 生徒だけでの研究室運営。小さな負担が、やがて大きな不満となり……。

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