第103話 誤算と収穫
「セレナ・シルヴァーノ、私と勝負なさい!」
あ、二回言ってきた。
たぶんみんなの表情に耐えきれなかったんだな。
たぶんこれは……。
「じゃあアミーカ、レオニス先生も復活したみたいだし、私たちは校内探検してこようか」
くるっとアミーカを振り返り、私は何も見なかったことにする。
アミーカも手慣れたものなのだろう。
「そうだね。じゃあセレナお願い出来る?」
と返してきた。
すると、
「無視しないでよぉ〜」
と、謎の女子が泣きそうになっている。
やっぱり耐性の低い子だったか。
悪いが人を手玉に取ることにかけては歴戦のツワモノ揃い、その最下層に位置する私とアミーカだってそれなりの耐性は備えてる。
そんな肉食獣の集まる檻の中に飛び込んできたそっちが悪いのだ。
「はいはい、で、誰? 何?」
「私と勝負なさいっ!」
「……アミーカ、行こっ」
振り返ろうとする私の腕をしっかりと掴み、目を潤ませて無言の訴えかけをしてくる。
「あのねっ、今日はもともと学校休みなの。私は友だちに学校案内するのにレオニス先生に無理言って開けてもらってるの。見ず知らずのあんたなんかに構ってる時間ないの!」
そこまでまくし立てても彼女は腕を離さない。
これはよっぽど何かあるのか?
「わーったわよ。きちんと話しなさい。あ、次同じこと繰り返したら、問答無用でここに捨てていくからね」
口の形をすでに「わ」と開きかけてた彼女は無理やり口をつぐみ、深呼吸を一つして話し始める。
「私はルディ・ブリウム。ブレヴィスのチームメイト、と言えば分かるかしら?」
ブレヴィス?
はて、どこかで聞いた名前のような……。
「おい、バカ者! 自分が開いた競技会の魔導具科の優勝チームの名前くらい覚えておけ」
レオニス先生の助け舟で、ようやく思い出した。
確か『安全装置』を組み込んだ魔導コンロを作ったチームだ。
「はいはい、あのチームね。で、そのブリウムさんが何のご用で?」
「あの競技会では私たちが優勝したにも関わらず、二年生からはあなたたちが出場しなかったからのお情け優勝だという噂が出ていると聞いたわ」
うわぁ、誰だ、そんなバカなこと言ったやつ!
学年超えて話せる空気作ろうとしたのが裏目に出たかぁ。
「ブレヴィスたちは、伯爵から褒められるという栄誉をもらったことへのやっかみだから放っておけっていうけど、私はハッキリさせたいのよ」
ダメだ……。
これは完全にこっちが悪い。
この間手伝ってもらった誰かが調子に乗ったか。
きちんと先手を打たなかった私のせいだ。
「ふんっ、この前連中を招き入れた弊害だな。責任を持ってしっかり受けてやるといい」
くそ、レオニス先生にも気付かれた。
仕方ない。
「分かった、何したらいいわけ?」
「何か一つ魔導回路の焼き付けを行う。その精度と時間、総合的に見て上だった方の勝ち。判定はレオニス先生にお願いするわ」
飛び火したレオニス先生は少し迷惑そうだったが、判定だけならと不承不承頷く。
「じゃあ魔導回路は任せるよ。ここで何を選んでも、ブリウム先輩は私が何かしたんじゃないかって疑いたくなっちゃうでしょ?」
「それもそうね。何にしようかしら?」
拳を顎にあて、少し考え込むブリウム先輩。
せめて勝負しかけるならモノ持ってきて欲しかったよなぁ。
「セレナ、はい、これ」
突然ママが二枚の紙を渡してきた。
そこには……げっ!?
私は一枚の紙をブリウム先輩へと渡す。
紙を見たブリウム先輩もまた、かなり苦々しい表情になっている。
「王都で師匠のところからちょろまかしてきた、最新の卒業試験の回路だって。これなら二人とも知らないし、適度に難しいからちょうどいいんじゃない?」
適度? どこがよ!
入学前に挑んだものより二、三段は上だ。
彼女を見ると、魔導回路を見つめつつも瞳は動揺して揺れている。
うん、気持ちはとてもよく分かる。
「どれ?」
レオニス先生が魔導回路を覗き込む。
「よし、これなら覚えるのに十分、焼き付けに二十分もあればいいな」
……そうだった、鬼はもう一匹いるのを忘れてた。
私とブリウム先輩は顔を見合わせて乾いた笑いを贈り合う。
◇◆◇
そして。
私はギリギリ十九分で一応精度も合格。
ブリウム先輩は二十二分かかり、線の歪みが三箇所あると指摘されていた。
「ブ、ブリウム先輩、これでいいですか?」
「もう……私の負けでいいわよ」
たぶん彼女もそうだと思うけど、今の私たちはきっと勝敗よりも、この地獄の時間が終わったことの安堵のほうが大きかった。
「で、お前ら特に勝負に何を賭けてるわけでもなかったようなので、これで終わりでいいか?」
そう聞かれてハッと気が付いた。
しまった、ママのせいでその交渉吹き飛んでた!
……とはいえ、今さら言うのはちょっとなぁ。
「それなら……一つだけお願いしたいの」
まさかのブリウム先輩から?
一体なんだろう。
「あなたの焼き付け、悔しいけど見事だった。あれを間近で見ていれば、私も伸びる。私を二学期からこの研究室に所属して、セレナさんの助手にさせて!」
うわっ、無駄に熱いだけじゃなくて、めんどくさい人でもあったか。
助手とか……あぁっ!
私は飛び起きて、ブリウム先輩の手を握る。
「それ、ホントですかっ? 私を助けてくれるんですね?」
「え、ええ。ここなら私も技術向上が見込めそうだし、いいかなって」
今度はレオニス先生へ、
「一人追加、いいですよね?」
と勢いよく迫る。
私の魂胆はバレてるだろうけど、それも込みでレオニス先生は
「あぁ、構わんぞ。ルディ、もう取り消せんから覚悟しておけ」
と伝えてきた。
手を挙げる私と、意味が分からず不思議そうな顔のブリウム先輩。
よし、これで黎明祭の人手が増えたぞ。
「それじゃあ二学期からお願いしますね、ルディ先輩! アミーカお待たせ、行こうっ!」
アミーカの手を取って私たちは研究室を飛び出した。
「セレナ……ほどほどにしてあげなよ?」
アミーカの言葉に、私は答えず、ただとびきりの笑顔だけを返しておいた。
最終的に娘の成長を確認できたママの一人勝ちみたいなオチになりましたが、セレナに上級生の助手という変なキャラが付きましたね。
次回、第104話「背負うということ」
まずは寮でマリーナと合流。セレナのヴェルダでの特訓の成果が試されます。
社会に出ると年上の部下とかもできるシーンがありますよね?そういうシチュエーションになった人は、指示出す時遠慮せずにいけますか?それとも遠慮しちゃいますか?




