第101話 寄り道の先で
「ん……」
王都の余韻に浸る暇もなく、私は物音で目を覚ました。
マリーナがもう起きてるのかな?
目をこすり、体を起こす。すると……。
「や、セレナ。おはよー」
「あんたにしては意外と片付いてるのね。マリーナちゃんのおかげかしら?」
ベッドに潜り、目を閉じる。
うん、まだ寝てたみたいだ。
するとガバっと掛け布団を剥がされ、足を叩かれた。
「いたっ!」
「ほら、とぼけるのはいいから早く起きなさい。今日はあんたがウルヴィスを案内してくれるんでしょ」
そうだった。
ママだけはウルヴィスに来たことがないので、温泉に浸かりがてら観光したいとワガママを言い出したのだ。
それで宿をとって一緒に泊まったのを、すっかり忘れてた。
マリーナは王都で別れ、故郷のボレリアスへ戻った。
二週間もすれば帰ってくる。夏の名物フルーツを抱えて。
私も戻るときは『月の葡萄』を買っていくつもりだ。
ということはつまり……。
「セレナ、起きた?」
こういうこと。
アミーカも道中一緒だ。
パパはレオニス先生宅へ突撃し、夜のウルヴィスへと消えていった。
――先生の家、教えないほうがよかったかな……。
「ちょっと急いで着替えちゃうから、少し待っててね」
歯を磨き、顔を洗い、髪を整えて着替える。ここまで五分。
ふと、みんなを振り返ると、ママとアミーカが微妙な顔をしていた。
「あー、あんたがマリーナちゃんに女の子らしさを教えてもらってる理由がよく分かったわ」
「セレナ、ヴェルダ戻ったらちょっと二、三日泊まり行くから。いいですよね、マリエッタさん?」
「お願いするわ。アミーカちゃんいない間は私が鍛えとくから」
ギュッと握手を交わす二人。
そんなにひどいかなぁ?
ちゃんとやることやってるんだからよくない?
「こういうことをちゃんと知ってないと女性向けの魔導具とか思いつかないわよ? 女性向けなんかただでさえ喜ばれて単価も上げやすいんだから、ちゃんと覚えなさい」
ママの視点はブレないな。
女性としてじゃない。売る側として、らしい。
さっき味方になったばかりのアミーカが、すでに微妙な視線をママに送っている。
「で、どこ行きたいの?」
「学校見たい! ウルヴィスってどんな学校なのか気になるし」
「私は温泉入れたから、後はお土産屋さん行ければいいかなー」
「私も何回も来てるので、どこでもいいかなー」
大人二人の主体性のなさは、反省してほしいところだ。
「学校ね。じゃあご飯食べたら行こっか」
私たちは宿の食堂へと降りていった。
◇◆◇
学校も急ぐわけじゃないし、私たちはお土産屋さんを覗いたりと寄り道をしつつ、ゆるゆると学校へと向かう。
その途中、
「おーい、セレナにアミーカちゃん!」
呼ばれたので振り向くと、そこにはレオニス先生に肩を貸しながらパパが歩いていた。
あーあ、予想通りだよ。
レオニス先生、普段お酒あんまり飲まないって言ってたから、しっかり潰されちゃってるじゃん。
夜通し飲んだくせに、パパはえらく元気だな。
私たちのところへやってきた二人は、あまり酒臭くない。
「あれ、パパたち飲んでないの?」
「いや、浴びるほど飲んだぞ? ……ははぁ、酒臭くないから気になったのか。これを飲んでるからな」
そう言って懐から青い瓶を取り出した。
中身は入ってないけど。
「酔いは残るが臭いだけ消える。パパの新作だ」
そう言って自慢げに見せてくれるけど、そんなの私はいらないしな。
「みんなはどこに行くんだ?」
「アミーカが学校みたいって言うから、学校行こうと思って」
すると完全に意識が飛んでいると思ったレオニス先生が、重たそうに顔を上げ、
「きょ、今日は学校は開いとらんぞ。出勤するやつがいなかったはずだ」
「それって先生が誰かいれば学校を開けてもらえるってこと?」
「あぁ、警備員に言えば開けて……ま、まさか」
「パパ、よろしくね」
私は満面の笑みでパパにお願いをすると、「任しとけっ!」と頼もしい返事が返ってきた。
友情よりも娘への愛情。分かりきっている。
「ル、ルキウス、貴様ぁ……」
「はいはーい、先生、着いたら目覚めのコーヒーくらい淹れてあげるからね」
その返事を聞いた途端、レオニス先生はぐったりとした。
何でっ!?
私、そんなにコーヒー淹れるの下手?
「セレナ、私が淹れるよ。セレナのあれは、慣れてない人には辛いと思うの」
信頼する親友にまでそう言われるのなら、私は引き下がった方がいいのだろう。
ポンッと肩を叩かれ、振り返るとママが、
「やっぱり親子は似るっていうものねー」
と、うんうん頷いていた。
パパを神殿の治療室へ送り込んだママよりは、マシだと信じたいところだ。
こうして私たちは、いよいよ学校へ向かった。
まさかそこで、変な勝負を挑まれることになるなんてね。
ママは温泉入ってもう満足って、よほど温泉が良かったんですかね?(笑)
次回、第102話「偉くなりたい」
しばらくまた逃げていた「セレナの目標」の話。ついにママに捕まります。「偉くなりたい」の真意とは?
そういえば今さらですが、皆さんのお気に入りの温泉ってどこかありますか?
スーパー銭湯ではなく、いわゆる温泉地ですね。




