義虎編 参
呼び出しの声とともに、対峙する男――日吉南は刀を抜いた。
薩摩が発祥。今や日ノ本にも名が知れる、示現流の構え。
一撃に命を懸ける流派。 全身が鋭く尖った気迫の塊のようだった。
義虎もまた、静かに刀を抜く。 正面を向き、堂々とした、大上段の構え。
相対した瞬間、空気が張り詰めた。
豊茂は構えながら思い返す。 相対する男、 義虎は言った。
一太刀、受けよう
何を言うかと思えば、何とも馬鹿馬鹿しい。
仕草や佇まいからそれなりの者だろうと思っていたが、想像以上の愚か者であった。
過去にも似たようなことを嘯く輩はいた。
思いっきり距離を取れば勝てると思う者、 虚を突いて不意打ちするもの、地に這いつくばり回避を試みる者。
だがでぃは、そうした阿呆共を全て初撃で屠ってきた。
この男も同類であったか。 ならば望む通り斬ってやろう。 今まで切った者共と同様、斬って捨ててやる。
一瞬、 全ての時が止まる。
「始めェい!!!」
「キエエエエエエエエエ!!!!!」
身体の腑の底からの雄叫びとともに、でいが疾風の如く斬りかかる。
全身の力を込めた踏み込みから放たれる、怒涛の一太刀。
風圧を伴い、 肉を断つ気迫が剣から滲み出る。
だが、 義虎は逃げなかった。
一歩、前へ。
刀を少し斜めに傾け、正面に、地を踏みしめて飛び込む。
狙いは一点。 渾身の力で振り下ろす、その直前。
「――ッ!」
交差する、 刀と刀。 気と気。
激突の瞬間、刀の峰を右肩で押し、力を利用して弾く。
弾いた勢いでそのまま反転、返す刃で喉元へと斬り込んだ。
ズ、と重い感触があった。
力なく、 でいの体がぐらりと揺れる。 次の瞬間、 血飛沫が舞った。
義虎は、刀を握る手を見ていた。
初めて 人を斬り、殺した手だった。
試合後、 控室に戻った義虎は一人、座していた。 外の喧騒は遠く、 まるで別の世界のようだった。
そこへ足音。 姿を現したのは、 白髪の老人である。
「…初めてか」
静かに問う。
義虎は頷いた。
「...... 想像とは、違いました」
「怯えておるな」
「否定はしません」
老人は義虎を真っ直ぐに見つめた。
「それでも、剣を選んだのだろう?」
「••••••はい」
「ならば問う。お前に、人を斬り、殺す。その覚悟はあるか?」
その問いに、 義虎は言葉を探した。 すぐには出なかった。
やがて、絞り出すように応える。
「あります。正面から向き合い、覚悟を以って、斬る――その業をも受け入れてみせます」
老人は目を細める。
「……いいだろう」
そう言って笑い、 すれ違いに肩を叩く。
「その思い、忘れるな」
その背を見送りながら、義虎は静かに、自らの両手を見下ろした。
未だ、重みは残っていた。